6話 相棒の吟味
荷物をまとめたラリーは、階下に降りると宿代の清算を済ませた。
親爺によれば、一人部屋は今夜空いていないらしい。
だが、ここは大陸有数の港街ガランドードだ。
探せば宿屋はいくらでもあるし、何なら酒場や賭博場で一夜を過ごしてもいい。
何はともあれ、まずは相棒を探すことだ。
背嚢を担ぎ、一階の店内を見渡してみる。
多くの宿屋がそうであるように、この店も一階は居酒屋になっている。
まだ日が沈みきっていないためか、客足はまばらだ。
この中に腕が立つような奴がいれば早速声をかけていくところだが――。
いた。いかにも強そうな奴が、窓際の席にでんと構えている。
長い金髪を無造作に伸ばした大男だ。
顔立ちから察するに、中央人ではなく北方系だろう。
そういえば、北方の男は総じて体格がいいと聞いたことがあった。
小柄なラリーとしては羨ましい限りだが、小さければ小さいなりの戦い方というものもある。
男の得物を見て、思わずラリーは目を疑った。
並みの人間の背丈を超えるほどの長さの大剣。
それも、幅の広さが尋常ではない代物だ。
常人では、振り回すどころか持ち上げることすら困難だろう。
壁に立てかけられているが、あまりに非常識なサイズのためラリーは一目、武器とすら認識できなかった。
おいおい、あんなバカみたいな武器、一体どこの酔狂な鍛冶屋が作ったんだよ?
それに売る店も店だぜ。まったく正気の沙汰じゃねえよ。
いや、店主も売り物じゃなくてシャレのつもりで置いてたんじゃねえかな?
力自慢のバカに薦めて、剣に振り回される姿を笑い者にするとかさ。
だが、あいつはそれをてめえの得物にしちまっている。
柄が使い込まれているようだから、つい最近、騙されて買ったってわけじゃなさそうだ。
つまり、それなりに使いこなせるというこったな。
実際、男の体格は半端ではなかった。
筋肉だけではなく、骨格がしっかりしている。
肩幅、首の太さ、腕周りの筋肉、胸の盛り上がり方――どれをとっても文句のつけようがない。
しかも、膂力だけではなく柔軟性と俊敏さも兼ね備えているようだ。
うん、合格だな。
コケ脅しだけの大男ってことはなさそうだ。
生まれつき童顔なのかもしれないが、それにしたって俺よりはかなり若いな。
そこがちょいと不安ではあるが、誰だって若くて未熟な時はあるもんさ。
経験さえ積めば、間違いなく頼りになる戦士になるぜ。
よっしゃ、まずはこいつから声をかけてみるかな?
注文を取りに来た老婆に、大男が目をキラキラ輝かせながらあれこれ尋ねている。
どうやらこの街に来たばかりで、名物を腹一杯食べたいらしい。
あれだけの巨体を維持するには、相当な量を毎日食べる必要があるだろう。
だが、それにしても――。
おいおい、一体どんだけ注文する気だよ、この兄ちゃん!
婆さんが覚えきれなくて、紙を取りに戻っちまったじゃねえか。
店の蔵を空っぽにする気かよ。
だいたい金は足りるのか? そんなに懐が温かいようには見えねえがな。
で、まずはビールか。まあ定番だな。ジョッキはさすがに普通サイズかって、爺さんバケツで持ってきたぞ? よたよたしちまってんじゃねえか、大丈夫かよ。
まさか兄ちゃん、一人で飲む気かよ、その量を。
呆れるね、まったく。
ラリーはカウンターに寄りかかって一部始終を眺めていたが、声を掛けるべきか否か少し迷っていた。
こいつと組むとなると、このアホみたいな食事に毎回付き合わされることになる。
これまで、相棒との食費は全て割り勘にしてきたが、仮にこの男とつるむとなったらその点は再考する必要があるだろう。
いや、そんな事は些細な問題だ。
賞金稼ぎという仕事は、一度の実入りがデカい。
この大男が体格と食欲に見合った働きをしてくれれば、十分割に合うだろう。
気になるのは――ただ一人、何が楽しいのか分からないがゲラゲラ笑ってビールをがぶ飲みするその無警戒さだ。
初めての街、見知らぬ店で取るべき態度ではない。
勝手知ったる場所ならともかく、ここがもう少し慎重に振る舞うのが本筋だろう。
大丈夫かよ、この兄ちゃん――それがラリーの正直な感想だった。
しかし、ただ様子を観察しているだけでは見えてこないものもある。
もしかしたら、一連のバカ丸出しの姿勢はあくまでも表向きで、その下には冷静沈着な顔が隠れているのかもしれない――可能性は薄いと思えるが。
何より、人は見かけだけで判断するものではない。
特に裏稼業において、それは致命的な失敗に結び付くこともある。
若い頃は、それで痛い目を幾度か見てきたものだ。
そうだな、まずは話をして、この大男の人となりを知ることにしよう。
それに、グズグズしていると酔っぱらっちまってまともな話ができなくなるかもしれねえし。
ラリーは腹を決めると、上機嫌でジョッキを傾ける大男に近づいていった。
なに、気にすることはねえさ。
こいつがダメなら他をあたりゃいいだけだからな。
これが、ラリーとギルとの初めての出会いだった。
(続く)
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