5話 狂気の宴 

故郷に戻ったラリーは、早速ディオンと共に報復の準備に取りかかった。

といっても「お前さんは顔が知られているかもしれねえからな」ということで、段取りはほとんどディオンに任せてしまったわけだが。


港湾労働者の元締に話をつけ、使用していない倉庫を借り、そこを拠点とした。

仇のチンピラどもの顔はよく覚えている。

あの悪夢の夜、あいつらはラリーの目の前で兄を殺し、姉と妹を凌辱したのだ。

忘れようにも忘れるわけがない。


全部で七人。

その内の一人を見つけ出し、深夜に安酒で泥酔しているところを見計らって二人で倉庫まで拉致した。

賞金稼ぎにとってチンピラ一人浚うぐらい朝飯前だ。


麻袋に詰め込んで倉庫まで連れ去り、服を全部剥ぎ取ってから椅子に厳重に縛りつけた。

水をかけ、目を覚ましたそいつの横面を張り倒すと、


「……ああんっ!? 何だ、てめえらぁ! おい、ふざけんなこの野郎!」


自分の立場が分かっていないチンピラは怒号を張り上げたが、すぐに顔色を変えて押し黙った。


「俺の顔を覚えているか?」


「あ? 知らねえよ……ちょっと待てよ、お前ら、何か勘違い……人違いじゃねえのか?」


チンピラの口ぶりから、本当にラリーのことを忘れているのは明白だった。

いや、そもそもあの男に他人の顔を記憶する能力があったかどうかも疑わしい。


「ラリー、こいつらはそういう連中なんだよ。殺すのも金を盗るのも女を犯すのも日常茶飯事だからさ、罪悪感なんかねえんだよ。昨日食べた飯と同じぐらい、どうでもいいことなんだな。だけど安心しろ、すぐに思い出すさ。俺が手伝ってやる」


そう言ってディオンが取り出したのは、大きな鋏だった。


「おい、よせ、やめろよ……な、何考えてんだよ、だから人違いだって言ってんだろ!」


「人違いじゃねえよ。なあラリー、教えてやれよ。このド畜生がお前さんの兄弟姉妹にどんなことをしやがったのかをさぁ……」


日頃は感情豊かなディオンだが、この時の声にはまるで抑揚が無かった。

ラリーは怒りを剝き出しにし、チンピラどもの蛮行をつぶさに語ってやった。

撲殺され、顔が二倍ぐらいに腫れあがった兄たちの死体とラリーたちの前で、外道どもは泣き叫ぶ姉と妹を四つん這いに並べさせて代わる代わる強姦したのだ、と。

チンピラの粗末な頭は、ようやく全てを思い出したようだった。

だが、恐怖に舌をもつれさせながら、


「あ、い、いや、あれは……あ、兄貴たちがやるって言うから仕方なく、だよ……本当だ! なあ頼むよ、許してくれよ、な、何でもするからさあっ!」


卑劣な言い訳と命乞いを始めたのだった。

初めから期待など微塵もしていなかったが、謝罪の言葉が一つもないことにラリーは腸が灼ける思いがした。

ラリーが短刀を太ももに突き刺すと、チンピラは絶叫した。


「な? 思い出したろ? こういう事はさ、やった側ってのは結構あっさり忘れちまうんだよ。だがな、やられた側は絶対に忘れも許しもしねえ。どれだけ時間が経とうがなあ、頭の中にこびりついていてよお、忘れさせてくれねえんだよ!」


「や、やめ、あ、あ、あああああああああっ!」


ディオンが椅子に縛られた男の右手の小指、第一関節を鋏で両断した。


「じゃあ今からよ、お前のあの時の仲間が今どこで何をしてやがるか、全部白状してもらおうか。すぐに言った方がいいぜ? 十数えたら他の指をザクッと切るからな、頑張って喋れや。ああ、それから忠告しとくが痛いからってデタラメは言わねえ方がいい。簡単に信じるほどお人好しじゃねえからさ、俺たちも。確認して、お前の言ったことがガセだと分かったら足の指で同じことをする。ま、お前がどうしても二十本の指とオサラバしたいとか、仲間を裏切れねえってんなら構わねえけどよ。はい、一、二……」


チンピラはたちどころに仲間たちの居所を吐き、ラリーたちはそれから三日かけて全員を拉致し、同じように縛りつけて車座に並べた。


その段階で、最初のチンピラはすでに死体となっていた。

裏切り者の死体を見た時の連中の表情を、ラリーは今でもはっきり覚えている。

人間は恐怖と絶望が極限にまで達すると、あんな顔になるのだ。


それもそうだろう、何しろあれだけ身体の部位を丁寧にばらばらに切断されたのを見れば、誰だってショックで言葉もなくすし吐きもする。

しかも、これから自分たちが同じ目に遭うと理解したら、今すぐにでも死にたくなるはずだ。


狂気の報復は、それから三日三晩続けられた。

一人ずつ、じっくりと時間をかけていたぶり尽くし、犯した罪を贖わせた。

爪を剥ぎ、指を切断し、やすりで肌をこそげ落とした所に塩を塗り込んだ。

松明の火で全身を炙り、歯茎に針を何本も突き刺し、耳も鼻も鋏で切り落とした。

ほとんどの処刑をディオンが実行し、ラリーは連中が苦しみ叫ぶさまをただじっと眺めていた。

正直な話をすれば、途中から気分が悪かったからだ。


ディオンはその間ほとんど眠らず、血走った眼で笑いながら連中を嬲り続けた。


「なあ、お前……気持ち良かったかよ?」


すでに半死半生のチンピラの一人に、ディオンは尋ねた。


「おい、答えろよ。ラリーの妹によお! まだ八歳の子供によお! てめえの小汚ねえチンポコ突っこんでよお! 気持ち良かったのかって聞いてんだよっ!」


「ひ、ぎゃあああああああああああっ! あっ、あああああああっ!」


男根を根元から鋏で切断されたチンピラの悲鳴は、喉が枯れても止まらなかった。


「質問に答えろよ腐れ外道がっ! あ!? 何発出したんだよ!? ああ!? ああああああああっ、じぇねえ、俺は回数を尋ねてんだ。数を、数字を言えってんだよ。林檎売りのおばちゃんによお、『これいくら?』って聞いたら『銅貨あああああああ枚』って答えるってのか? おら、答えろや。簡単なことだろがよ。答えられねえ口なら、もう塞いじまっても問題ねえなっ!」


しょぼくれた陰茎を喉に詰め込まされ、口を針と糸で縫い合わされたチンピラは、それからさらに睾丸も切り落とされた。


「そういえばお前ら全員穴兄弟ってことになるよな。ラリーの姉さんと妹の神聖なあそこを穢しやがったクソ兄弟ってわけだ。兄弟なら責任も分け合わねえとな」


別のチンピラの顔にスプーンを突きつけて、そのまま目玉にぐいぐいと押入れていった。

ジタバタともがき苦しむそいつの目玉をくり抜き、代わりに仲間の睾丸を無理やり押し込んだ。


こんな感じで処刑は進められ、最後は皆、元がどんな人間だったか分からないような有様になった。

バラバラの肉片は麻袋に詰め込まれ、深夜の内に海に捨てられた。


「終わったな、ラリー。ああ、まったくもって気分が晴れ晴れしたぜ。外道をいたぶり殺すって最高だよな。なあ、お前さんもそうだろ?」


本当に心の底から嬉しそうな様子のディオンに、ラリーは言った。


「……すまない、ディオン。あんたは命の恩人だし、俺の相棒だ。俺の復讐にも付き合ってくれて感謝している。だけど……だけどな、ディオン。俺はこれから先もあんたと組んでいきたいからはっきり言うよ。こんな事をしても、俺は気分が晴れはしない。奴らを処刑している時のあんたは、正直言うと怖かったぐらいだ。俺はただ、あいつら全員を殺して、みんなの仇が討てるだけで良かったんだよ」

 

と。ディオンはしばらくの間キョトンとしていたが、神妙な顔になると何度も頷いてから呟いた。


「分かった……すまなかったな、ラリー」


ディオンはこの一件以来、心の内に秘めた狂気をラリーの前で見せることは一度もなく――およそ一年後、盗賊組合の刺客に囲まれて命を落とした。

その時もディオンは、全身血まみれになりながら奮闘し、


「ラリー、逃げろ! さっさと逃げろっ!」


死に瀕しながらも、最期の最期まで相棒の身を気遣っていた。


ラリーの初めての相棒ディオンは、そういう男だった。

気風の良い、腕利きの賞金稼ぎで――最高にイカレた相棒だったのだ。

 

さて――。

それから色々な相棒と組んできたが、まあ何というか面白い奴ばっかりだったな。

で、今またティリスと別れちまったわけだが。

ああ、もうだいぶ陽が陰ってきてるじゃねえか。

俺ももう、結構な歳だからな。昔のことを思い出すと長くなるから困るぜ。

だがよ、まだまだ引退する気もねえし、ディオンの所に行く気もねえ。

相棒探し、始めるとしようかね。


(続く)

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