第46話 キョトン

 決着からわずかに遅れ、ラリーは戦いの場に到着した。


 くそっ、速すぎるんだよ、あいつら。

 先頭の赤目はまあいいよ、あいつは文字通りの化け物だから。

 マナ姐さん、ま、さすがに鍛えてるんだけあるよな。

 戴天踏地流剣術の師範代って言ってたけど、あれなら何やらしても一流になってたんじゃねえかな。

 あと足も長ぇし。

 で、ギル。問題はお前さんだよ。

 本気で走られたら、俺はどうやったって追いつけねえんだっての。

 身体のデカさが全然違うんだからさ。

 コンビってのは、呼吸を合わせるのが大事なんだよ。

 そこんところがあいつ、まるで分かっちゃいねえ。

 あ、でもいいのか、どうせこの仕事が終わったらコンビも解消だしな。


 とりあえず、後ろの連中とはかなり距離がある。

 そう、俺も他の同年代の連中に比べたらタフな方ってわけさ。

 あのデブなんかにゃあ、絶対に追いつかれねえよ。

 まあ、それはそれでいいとして……途中から赤毛の兄ちゃんが凄い勢いで俺の前を走り抜けてったんだが、ありゃ一体何者だ?


「ったく、遅いぜ、ラリー。もう終わっちまったよ!」


 短剣が身体の色んな所に刺さったままのギルが、呆れ顔で文句を言ってきた。

 並の人間なら少しは痛がるところだが、相棒の頑丈さは尋常ではない。

 さすがに歩くのは辛いのか、マナが肩を貸しているが。

 ともかく二人の様子からすると、あの赤目を仕留めたらしい。


 はは、本当に凄えな、お前さんたちは。

 相手はあの赤目、銀貨五百枚の賞金首だぜ?

 あんな人間離れした殺し屋を、二対一とはいえ倒すなんてね。

 

「ま、いいじゃないの、ギル。これで銀貨五百枚きっちり稼げたし、あたしたちも……まあ、無傷とはいえないけれど、何とか生き残れたんだからさ」


 首の辺りを血に染めたマナが、爽やかな笑顔を浮かべた。

 

 ああ、全く大した女だぜ。

 やると言ったことは必ず実行する、こいつはきっとそういう奴なのだ。

 もちろん、口で言うだけなら楽勝だが、実際はそうはいかない。

 このマナは、色々あっても最終的にはやり遂げちまう奴ってことだな。


 ラリーは背嚢から包帯を取り出し、二人の手当てをした。

 森の至る所に、赤目との激闘を物語る痕跡が残されている。

 想像を絶する戦いだったことだけは、間違いなさそうだった。

 

「で……赤目の野郎は? 何かさっきから、凄え臭いがするんだが……」


 ラリーの問いに、マナとギルはひょいと草むらを指差した。


 ああ、うん、そっか、なるほどね。

 ありゃあ、誰がどう見たって死んでるわな。

 いちいち確認するまでもねえって話よ。

 それにしても、あんなひでぇ死体は久し振りに拝んだぜ。


 だが一つ、気になることがあった。

 目的の銀貨五百枚、そいつを手中に収めるために絶対に必要な物。

 さっきから、そいつが全く見当たらないんだが……。


「で、あいつの首は?」


 治療を終えたところで訊ねてみたところ――。


「え?」「へ?」


 しばしの沈黙の後、二人はキョトンとした顔で首を傾げた。


 って、おいおい、勘弁してくれよ。

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