3、コンビニ店員、お茶を飲みつつイケメンに呪いをかける
「失礼いたします」
そう言って入ってきたのは、腰に剣を下げ、俺よりも若干年下に見える青年だった。
茶色がかった金髪に凛々しい表情、ぴしっとノリの利いた軍服っぽい制服をまとった、ありていに言えばイケメンだ。よしっ、イケメンは爆☆発しろ。
青年はびしっと背筋を伸ばして、拳を胸の前に当てた。
「宰相閣下の指示により参上いたしました。近衛騎士団第三支部所属、サ・ルー=マーゲルと申します。魔王軍、および魔王領についてご説明をさせていただきに参りました」
おっけー。サルまげ君ね、了解。そんなに格好よくてもサルまげ。
思わず悦に入っていた俺だったが、めずらしくふいに気が付いた。
「あれ、マーゲルってことは……」
「はい。宰相のウァン=マーゲルは自分の祖父にあたります」
ワンまげ宰相の孫が、サルまげ君。
なるほど、一家全員エリートってことか。七光りの有効活用結果かどうかは、分からないけど。
「自分は、半年前の戦いでは前線におりました。何を聞かれてもお答えできると思います」
「近衛騎士団所属の騎士が、前線に立つというのは珍しいな」
シオンがカップを受け皿に戻す。まぁ、確かにそうだろうな。普通に考えて、使い捨ての一卒兵が一番危険な前線に出るもので、宰相の孫のいかにもエリートって感じの騎士が出張るのはおかしい。だいたい近衛ってつくくらいだから、普通は王様のそばにいるもんだろうに。
そんなふうに考える俺の前で、サルまげ君はふいに表情を引き締めた。
「前線には、自ら志願いたしました。一秒でも早く、魔王を倒したくて」
サルまげ君はそう言うと、突如その場に土下座をした。
すげえっ、異世界にも土下座の文化がある! 俺はその事実に心から感激する。
「勇者様、お願いです! 魔王討伐の旅に自分も同行させてください!」
必死な表情で、勇者の顔を見上げるサルまげ君。
「自分では勇者様のお供に力不足なのは充分承知しております。しかし、足手まといにならないようでしたら、どうか自分を連れて行ってください。自分はどうしてもこの手で姫を救い出したいのです!」
「え、あんたお姫様にホの字なの?」
素で尋ねた俺は、サルまげ君から冷ややかな視線を向けられ凍りつく。ご、ごめん。不謹慎だったか? 勇者に恋のライバル登場っ! なんて芸能ニュースばりの展開を期待してみたんだが。
「では、名誉欲に駆られてのことか?」
ソファに腰掛けたまま、シオンが表情を変えずに問いかける。サルまげ君は、一瞬顔を赤く染め反発するようなそぶりを見せたが、相手が勇者であることを思い出したのだろう。小さくかぶりを振った。
「もちろん、そうした思いが皆無だとは言いません。しかし、それだけではないのです」
サルまげ君は、こちらを苦々しい表情で見た後、再び勇者に視線を向ける。ちょっ、なんかすげぇ嫌われてるよ!? 俺、なんかしたっけ!?
「私は純粋に姫君をお救いしたいのです。私と姫は、世間一般に言う幼馴染の関係にあります。まだ幼少のみぎりより、お傍に侍ることを許されておりました。私は姫に仕える一番の騎士として、この手で姫を助けたいのです」
「ここで「やっぱり惚れてるんじゃね?」なんて言ったらめちゃめちゃ怒られそうだからやめておこう」
「……はっきり口に出してますよ」
「うおっ、しまったっ」
じとーっと冷たい視線を向けられ、俺はびくっとする。すまん、悪気はあったんだ。
「我々、騎士が姫君に向ける思いは忠誠心であって恋慕ではないっ。下衆な勘繰りはやめていただこう!」
ムキになってるのがますます怪しい……おっと、ここら辺でやめておこう。
すると、隣でシオンがふぅっと息を吐く。
「着いて来たいと言うのなら、止めはしない。ただし、いざと言う時には『必ず』私の指示に従ってもらう。……それでもいいか?」
「もちろんです。ご快諾下さり、感謝いたします」
サルまげ君は深々と頭を下げて感謝の言葉を口にする。
「ヨダ、君もだ。今回はどのような危険があるかが分からない。周囲に気を配り、指示にはすぐに従ってくれ」
今回はっつうか、前回も普通に危険だったけどな!
「しかも、俺は同行したいとか一言も言っていないんだが……」
むしろ望むらく留守番の方向で。俺は安全な部屋で大人しく帰りを待っていますので。
何しろこちらと平凡なフリーターだ。
「いいのか? ここは君にとってあまり安全な場所とはいえないぞ」
その言葉にぎょっとしたのは、むしろサルまげ君の方だった。
「とんでもありませんっ! この部屋は勇者様の部屋として相応しく、設備も警護も最上級の対応を——、」
だがその言葉は、シオンの一睨でしおしおと立ち消えた。
「まだすぐに出発するつもりはない。だからそれまでに良く考えてくれ。君なら、私の言う意味が分かるだろうから」
そんな不安感を煽る言葉を俺に言い残し、シオンはさっそくサルまげ君と魔王討伐の打ち合わせを始めるのだった。
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