4、コンビニ店員、第一異世界人を発見し連行される
森を抜けた俺たちの目の前にあったのは、小さな村だった。
いや、村と言うには規模があまりにささやか過ぎる……というより、歴史がありすぎるというか……。
ありていに言えば、高床式倉庫や縦穴式住居が立ち並ぶそこは、俺にとっては縄文時代や弥生時代の集落を復元しました的なものにしか見えなかった。きっと吉野ヶ里遺跡って、元々こんな感じだったんだろうなぁ。
しかし、歴史公園的な展示物と違って俺たちが姿を現した途端、生活感溢れた建物の中からわらわらと次々人が現れ始めた。
てか、どんどん現れ始めた。怒涛のように現れ始めた。
「うおっ、うぉおおおお?」
そして俺たちはあっという間に、手に槍やら棒やら石斧やらをもったむさ苦しい男たちに取り囲まれてしまったのだった。
「ちょっ、なぁ、これっ! 大丈夫なのかよっ!?」
異世界人の集団は、俺たちを囲んだまま移動を始める。
人の濁流に流されるようにどんぶらこっこどんぶらこっこと連行されながら、俺はシオンに尋ねた。恐らく二度目であるシオンは、動揺なんてちらとも窺わせない顔で重々しくうなずく。
「うむ、問題ない。このまま着いて行くぞ」
そこには勇者らしい貫禄と言うものが見え隠れしているというか、なんというか。
ともかく俺たちは、そうしてこの集落で一番立派な屋根飾りのある高床式の建物の前に連れて行かれた。
そして待つこと数十秒。
「ウギュロワ、ブグロ、ナンチャッテナ」
建物から、白塗りお化けと形容しても過言ではない、お年を召した巫女らしき人物がなにやら手に捧げ持ちながら現れる。
その途端、周囲の原住民たちがいっせいに怒号のような歓声を上げた。
ちょ、なにこのスタンディングオベーション!?
「ギョナアリ、メゾシカ、ナンチャッテナッ!」
「ウオオォォォォォォッ!」
婆さん巫女は、大歓声をBGMに俺たちに向かって何事かを訴えかけている。
だが、ごめん。俺には何を言っているかさっぱり分からん。
「ベテロテ、ナマステ、ナンチャッテナァァッッ」
「ウワゥワァゥオオオォォォォォォッ!」
婆さんは、手の中のそれとすぐそこに見える山を交互に指している。
ああ、つまりそれを持ってあの山に行けとな。
分かったけど、婆さん! 唾ここまで飛んできてるから! あと、周囲の皆さん怖過ぎだから! 落ち着け、落ち着けっての!
村人たちのあまりの興奮具合に俺が慄く一方で、シオンはなにやら鋭い目で周囲を観察していた。
婆さん巫女は、年の割には力強い足取りで俺たちに近寄ると、手の中のものをぐいっと差し出す。
押し付けられるように差し出されたものを思わず受け取ると、予想外の重量によろめいた。ちょっ、婆さんあんた実はかなりの力持ちなんだな。
渡されたものをまじまじ見ると、それは銅で作られた剣のようだった。
刃も柄もつばもひと固まりとして打ち出されたもので、斬るというよりは殴るためのものだろう。
「もしかして、これが聖剣だったり……?」
まぁ、見回せば村人たちが持っているのは黒曜石を穿って作った穂先の槍や石の斧といったものばかり。
それを考えれば、この銅の剣が彼らにとってオーパーツ的な伝説の剣であったとしてもまったく持って不思議ではない。
不思議ではないのだけれど……、
「よりによって銅の剣かよっ!」
現代日本からやってきた俺からしてみれば、銅の剣なんて旧時代の遺物でしかない。
だいたい、某国民的RPGシリーズだって、銅の剣なんて最初の村の武器屋で買える程度の装備だぞ。
「まぁ、いいや。ほい、聖剣」
だが、よくよく考えれば聖剣を持って魔王に立ち向かわなければならないのは、勇者であって俺ではない。
せいぜい頑張ってくれよと俺はシオンに銅の剣を差し出すが、奴はまっすぐに俺を見たまま剣のほうには見向きもしない。
「……いや、それは君が持っていてくれ」
あぁ、はいはい。確かにあんたはすでに立派な剣をもっているみたいだしな。今更こんなロートルな聖剣を使う必要はないだろう。
だけど、俺が持っていてもさらにしょうがないだろうよ。俺ぁ、しがないただのコンビニ店員だぞ。
「そして、魔王を倒してきてくれないか」
「ああ、はいはい……って、えええぇぇぇっっ!!?」
思わず返事しちまったけど、さすがにそんなの頷けるか!
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