1、コンビニ店員、ピザまんを買う客にビビる


 では、お前は誰なんだと問われれば、胸を張って答えるわけではないが名前を依田一誠よだいっせいと言う。

 あだ名はヨーダ。当然ながらフォースの力は感じ取れない。よっこいせでもない。

 三流の大学を卒業した後、三流商社に入社したが無理ゲーすぎるノルマと横暴な上司にブチ切れて10ヶ月で退職。その後はコンビニで深夜アルバイトをして暮らしている。(ついでに言っておくと、俺のバイト先は7と11のあそこだ。)

 経歴を述べればどこにでもいるような、至極平凡な一青年だと分かってもらえると思う。

 ちなみに顔はジョニー・デップとキアヌ・リーヴスを足して2で割ってしょうゆ顔にしたようだと言われている。いや、もちろん嘘だが。

 今から話すのは、そんな俺が否応なく巻き込まれた世にも奇妙な異世界召喚物語だ。



 さて、その日も俺は深夜のコンビニでアルバイトをしていた。

 客は居らず、眠気を我慢して棚の整理をしていたところ、ふいに自動ドアが音を立てた。


「いらっしゃ……」


 条件反射で声をあげ振り返った俺は、しかしそのまま固まる。

 コンビニに入ってきたのは一人の男。

 そいつはフルヘルメットやマスクを被ったいかにもコンビニ強盗という怪しげな姿な訳でも、ヤンキーや酔っ払いといった要注意印の客のわけでもない。

 黒い皮のコートに黒いズボンに黒いサングラス。

 特徴だけ並べるとただの格好付けしぃの勘違い野郎に思えるが、そいつにはそんな侮りなんて寄せ付けない迫力があった。

 言うなれば、エージェントスミスやハンターもかくやというところだろう。

 悔しいがマジで背が高くガタイもしっかりした、いい男だった。

 もう一人の店員が俺の中途半端な挨拶に何事かと奥から出てきたので、俺はもう一度「いらっしゃいませ!」と叫んでレジに向かう。その客はさっさと商品を買い物籠に放り込んでレジに向かってきた。

 こいつはいったい誰なんだ。何処から派遣された刺客なんだ、なんて考えながら待ち構えていた俺にその客はピザまんと肉まんも頼む。


「袋は別にしますか?」

「いや、一緒で構わない」


 ……やっぱり一般人だったか。

 別にヒットマンはピザまんを食わないと思っているわけではないけれど、他の普通の客とまったく違わない平凡なやりとりにどこか肩透かしを食らった気分になりながらレジ袋に商品を入れていく。


「813円になります」


 客の出した一万円を受け取り、まずは札を数えて渡す。そして小銭を差し出したとき、何の拍子か指先が相手の手に当たった。そして――、



「な、なんだこりゃあぁぁぁぁ~~!?」



 俺は薄暗い森の中にいたという訳である。



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