「墜落」-3

***

「竜を墜落させたのはあなたでしょ」

 ピアは確信を持って颯を問い詰めた。颯が足を止める。人の手が入っていな

い森でたわわに実った果物と木の実を両手いっぱいに抱え、にらみ合う。

「私は魔術に疎いと言ったはずだ」

「そうだったっけ? いやね、年をとると忘れっぽくて」

 ピアはわざとしらばっくれたが、颯は眉ひとつ動かさない。この女の言うことは信じない。先月から、この友人への不信感は募るばかりだった。物事は彼女に都合のいいよう運びすぎている。親子揃って異例の大抜擢。

「別に魔術で、とは言ってないけど?」

 そうは言ってみるものの、颯が魔術を使えないことは知っている。伊達に長いこと生きて魔導師やっていないのだ。見ればわかる。この女に魔術の適正はない。ない。ないが、たまに妙なにおいがする。獣の、竜のにおいだ。

「あのお医者さんの彼氏はどうしたの? 環、ああ、イオレ、だっけ。あの子は父親と暮らすって言ってたけど?」

「聞きたいなら彼氏の盗み聞きをやめさせてくれ」

「彼氏じゃない。男がみんな女の良いように使えると思わないことね。あなたと一緒にしないで」

 心配して後をつけてきていた東が事務所に戻って行った音がする。颯はこれ見よがしに肩をすくめた。

 颯がどうやってこの三年間で王宮直属にまで上り詰めたのか。それは少し探りを入れただけの東にでも知り得た。軍と議会と王宮、それぞれ上層部の男達をたぶらかし利用する。女を武器にしてきた彼女に娘がいたとは。

「彼氏じゃないならアレイシアとの付き合いを許してやればよかったのに。可哀想だった」

「彼をどう扱おうが私の勝手でしょう。質問に答えて」

 確かに颯と知り合った頃、東とアレイシアの関係は複雑だった。アレイシアはピアに遠慮などしなかったが、東は忠誠心と恋愛を天秤にかけてどちらも選べなかった。だからピアが選んでやっただけの話だ。アレイシアは予想に反して辞めなかった。彼女は優秀だし辞めずにピアは助かったが、東はなかなか割り切れずにいる。

「医者とは別れた。娘の父親とは会ってないし今後会うつもりも無い。ついでに、娘と会えたのはつい最近だ。その時まであの子がお前の弟子だとは知らなかった」

 颯は淡々と答える。まるで用意していた原稿を読んでいるかのようだ。

「あなたが何を企もうが勝手にすればいいわ。私を利用するならすればいい。でもね、アレイシアは別よ。今後あの子を利用したり傷つけたり、万一、今日みたいな竜を近づけてご覧なさい。あんたを、殺してやる」

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