竜の婚約者
「さて、アレイシア。教えて貰おう。なぜ来た」
「ピアに会うため。会って、なんのつもりか聞くため」
泣きそうな声だ。震えている。情けない。でも今はそれが精一杯だ。
「お前は聡い。昔からずっと。こうなると分かっていて来たはずだ。そこまでする理由は本当にそれでいいのか」
それは真実ではないと言いたげだ。ナディアのひとことひとことが頬をなぶる。確認する口ぶりは、何を言わせたいのか。
「何を言わせたいの」
絶対に言ってやらない。これは意地だ。ピアを問い詰めるつもりで来たのに、彼女は彼女自身のために行動している。なんて空回りだろう。その上こうして食べられようとしている。一つくらいなにかできたっていいじゃないか。
ナディアは笑った。細めた眼に温かさが見える。
「真実を」
真実。真実なんてない。
未練がある。この世界で唯一の研究が私を待っているのだ。
だけどピアを連れ戻すためには、ここに来なければならなかった。
それは本当? 私はそんなにピアが大事?
違う。自問自答して、余計にわからなくなる。思い出せ、竜に対する、命を失う恐怖以外の事を。
自分が目にするには尊すぎる。ナディアと出会ったときに最初に思ったのはそれだった。この身を晒してしまったことがとても罪深いことのように感じた。
鋭利で直線的なかたちをしているのに、触れるとしなやかで、ずっと触っていたくなった。ざらついているのに肌に刺さる感覚はない。このこそばゆさが、手のひらにずっと残っている。また触りたい。もっと触っていたい。
この手のひらは十数年前にナディアに触れた。あの感覚も、未だこの手のひらに宿っている。
「触りたい。もっと、ずっと」
そうか。勝手に転がり出た答えを聞いてナディアは眼を細め、喉を鳴らした。まるで猫だ。手のひらに懐かしい感覚がある。ざらついているのに、吸い付くようにしなやかで、冷たいようでいて実はとても温かい。知らずに伸ばしていた手を動かす。竜は動かない。鱗の固く冷たいのに、それを隔ててなお伝わってくる熱がある。
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