第13話

今までにないくらい身体が過剰な反応を示している。

ただし、四肢は意図して動かそうとすれば小刻みに震えるだけだ。


腹の奥底から込み上げてくる不快感、焦り、恐怖といった負の感情は吐き出すことが叶わずに渦巻いている。

口腔は最早、枯れ野原としか言いようがないほど水分を失っている。


こんな事態になってしまったことに対し、俺は場違いとわかっていても今までの出来事を振り返っていた。


俺は今までの環境や境遇を舐めていたのか。

それともただ運が悪かったのか。

だが、例えそれらが良くとも悪くとも、起きるであろう事象は俺個人の範疇なのが精々だろう。

よって、大きなエネルギーすら持っていない俺では、自ずと起きるであろう事象も限られる。


しかし、あの巨大な何かはその範疇を越えるどころか軽く踏み潰すだけではなく、欠片も残さず砕き尽くすだろう。

あれは、それほどのモノを感じさせてくる。

つまり、どうしようないのだ。

ちっぽけないち生命体に何ができるというのか。


どうすればいいのか、わからない。

頭が恐慌に陥ってることだけは分かる。

どちらにせよ身動きが取れないことに変わりはない。


唯々震えて祈ることしか出来無い。

煩悶し続けている内に脅威は間近に迫ってきた。


大きすぎる威圧感と足音の響きが俺を揺さぶる。

そして、唸るような吐息と唾液が糸を引くような粘着音がすぐ側で聴こえた。

これは、捕食が始まる音か。

俺にとっては断頭台の落下音。


これまでか。

諦めがつくと、逆に神経の高ぶりは沈んでいった。

動悸は止まりようは無かったが。



だが、聞き覚えのある爬虫類の威嚇音が耳に入ったと思うと、それを咀嚼する聞こえ始めた。


予想通り、獲物は何でもいいらしい。

相手の姿形が似通った存在でも胃袋に収められるとは見境のない奴だ。


そして次々と耳障りな金切り声のようなものが響き始める。

仲間を喰われて動揺したのだろうか。

だが、それはたいした時間も経たないうちに途絶えていった。

原因は先程から発生してる咀嚼音に違いないだろう。


やがて、巨大な気配はこの辺りで得た成果に満足して離れていくのが分かった。


完全に脅威が去ったと確信できるまで、どれ程待ち続けただろうか。

ようやく俺はかつてない危機が去ったと実感した。

だが、まだ安心しきってはいけない。

一刻も早くこの場から離れねば。


脱力しきった肉体に喝を入れ、鋏で頭を叩いて気合いを入れ直す。

相変わらず喉が渇いて動悸は収まりようがなかったが。


とりあえず海に向かって逃げよう。

どう見ても奴は泳ぎが得意なやつには見えなかった。

だが、そんなことに関わらず早くこの島を離れたほうが良いのは間違いない。

どれくらいの周期かはわからないが、定期的に食料を求めて島を巡回するのだろう。


ここが、あんなどうしようもない存在が徘徊する危険な場所てあるとは思いもよらなかった。

予定を前倒しして、ここ離れるなければならない程とは。


だがこれは逆にいい機会だっのかもしれない。

いずれはこの島を離れねばならなかったのだから。

そう自分に言い聞かせて足を動かす。


こんな急な旅立ちになるとは予想外だったが、仕方があるまい。

精々俺の体が島渡りに耐えらるように祈っておくか。

そういえば徒手空拳で旅行なんて初めてだな。


なんだか不思議な気分だわ。

さっきまで悲惨な気分だったのに、少しだけ紛れたかもしれない。


なんかここであった出来事とか色々思い出してたら、いつの間にか海に着いてたみたいだ。

よし、さっさと行くとしよう。

ドタバタと情けなく去ってしまうハメになったが、もう帰ってこないかもしれないけど一応言っとくか。



またな、二つ目の故郷。


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