第10話
簡易擬態はそのままに、低所へ移動を開始する。
高所は森に繋がっているため、当然ながら緑が多い。
なので、素人擬態をした俺でも、誤魔化しながらある程度は気付かれないずに移動できる。
だが、下の岩場までくれば緑の擬態はただただ目立つ無用の長物と化す。
火山に近づくたびに灰色や赤、黒、黄色、茶色などの色合いが増え、青々とした植物は見当たらなくなるからな。
オーガニックな簡易擬態セットは目立たないよう、適当な場所に慎ましくポイ捨てした。
エコと慎ましさは比例するとは思わんかね?
思えよ。
まあいい。
この俺に利用されたことを噎び泣きながら喜んで生まれた場所に帰るがよいぞ。
君は大変エコなゴミだったよ。
フハハハハハハ!!!
低所に行くと、そこは岩場が広がっており、その先を200mほど進むと、火山道とも言うべき道に続いている。
この200m内の距離に2体の目標(アベック)がいる。
新水鉄砲の有効射程距離は5m強がいいところだ。
幸い、やつらは神秘的儀式行為( 肉 )に耽っているので注意が散漫だ。
出来るだけ静かに近づき、最後は一気に全力で接近する。
今の俺の体色は黒に近いものだが、この岩場においてはフロートのアイスクリームぐらいには溶け込めているだろう。
まあいまさら体色を気にしてもどうしようもないから、スニーキングの成否は成るようにしか成らないんだけどね。
岩だらけの場所で擬態なんて、それこそ岩そのものにならなきゃまともに出来ないからな。
軽く状況を確認したらいよいよ移動だ。
少しずつ、少しずつ静かに、小石を砕かぬよう、砂利などで足を滑らせないよう、距離を詰めていく。
そろり ソロリ そろり、と。
こういう時、足が多いと余計に気を使って面倒なんだよなホント。
なんか硬いし、踏む面積が狭いからうまく踏ん張れないこともあったし、多脚で良かったことってあんまりない気がする。
二足歩行が恋しいなぁ、とかなんとかしみじみと思いながら進んでいったが、いつのまにか目標から10mの距離まで辿り着いていた。
ちょうど良く、あちら側からは見えないような岩陰もあったので有難く利用させてもらう。
あとは最大の隙を伺うだけだが、ここで一つ面白い事を思いつく。
今使っている岩の上から強襲できないか、というものだ。
跳び上がらなら近づけば意表を付けるし、それなりの跳躍力を生かせるのではないか、と。
なによりアレだ。
カッコいいじゃん。
一度でいいからやってみたかったんだよ。
東映版の男みたいにやりたかったんだよ。
うん、決まりだな。
というわけで、早速登る。
あ、多脚だから意外と楽に登れた。
さっきはけなしてごめんな、俺たちはズッ友だょ!
うむ、まあまあの高さだ。
着地の衝撃が空恐ろしいが死にゃせんだろう。
キノコ狩りの男のBGMをひたすら脳内再生し続け、着地の痛みとかは忘れるように努める。
さあユクゾ!
これより俺は、逢瀬狩りの男!スパイダーマ!
とぉぉ↑おう↓!!!
〓〓〓
あ、やべ、久々の浮遊感が怖い。
だがっ、俺はいまやキノコ狩りの魂をもつ男!
ふんす!
身体の奥底で水を圧縮、丹田に集めるように意識するのは岩によじ登る最中に済ませた。
跳び上がる瞬間に空気を肺容量上限まで大きく吸入、すぐさま水の凶器の推進剤とすべく、こちらも圧縮を意識して溜める。
最後に、口腔内の毛筆上舌と歯を発射に適すよう揃える。
幾度もなく繰り返してきた反復練習による熟練度は、一連動作を自由落下中であっても成功させてくれた。
大地に引かれながら、衝撃を利用して両鋏全脚部を地面に打ち込む。
無茶な着地を責めるように痛覚が訴えてくるが、無視。
そして、安定姿勢確保完了。
目標はようやく接敵に気付いた模様。
遅かったじゃないか…。
口腔内で練り上げられた凶器を、定めた標準に従い、解き放つ。
荒れ狂う反動が体内を起点に、文字通り全身を打ちのめす。
そして視界の先には、すでに肉体をいくつかに分かたれた、2組の生命体だったものが体液を撒き散らしながら横たわっていた。
反動でまだ頭も体も復帰していなかったが、結果が視界を通じてようやく伝わってきた。
本当に、これで終わったのだろうか。
それも無傷で完封という結果で。
その事実をゆっくりと噛み締めた俺は、声に出しても収まりきらない感情を喉から、腕から、全身から溢れ出させた。
ついでに口からも色々でた。
キモい音やらよくわからん液体やら泡やら。
だが、はたと気付いて周りを急いで見渡す。
右良し、左良し、後ろ良し、上良し。
うん、大丈夫だ。
最後の安全確認がちょっと遅かったが、良かった。
本当に、良かった…。
俺は緊張感から解き放たれ、その場でへたり込んだ。
ここまできた動機がアレだったので、まさかこんなに上手く行くとは思わなかった。
が、終わり良ければすべて良し、とはよく言ったものだ。
こころの中で、再び完全勝利のガッツポーズ。
成し遂げたぜ。
…そういやこいつら、食わなきゃダメかな。
いやまあ、食わなくてもいいんだろうよ。
でもなんか、食うため以外に積極的に殺すのは俺のルールに反してるっぽいし…。
つまり、食わないとルール違反というか、俺自身が納得できないわけで。
まあ、あれだな。
雪辱の記念だと思おう。
まだ茶トカゲみたいな味と決まった訳じゃ無いし。
見た目とか骨格とか似てるけど違うって大丈夫だってイケるイケる。
というわけで、ちょっとだけいただきます。
パクッ
モグ、モグ
うん!おいs
ヴォオエエッッ‼︎‼︎‼︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます