第9話
今でも快活な日差しと湿度から、特徴的なこの島の気候を感じ取れる。
そして、それなりの期間をもって島を歩き回っていたことで、ある範囲に近づくと気温が僅かに上昇するのを体が記憶していた。
ある範囲とは、火山の周辺。
かつての手痛く苦い記憶を否応にも思い出させてくれる。
近くに寄るたびに無様なほど警戒をしていたが、今この瞬間は違う。
ただひたすら己を高めたのだ。
かの場所で貰ってしまった黒星を白く塗りかえしてやるのだ。
あれ?
黒を白く塗るのって無理じゃね?
…大丈夫だ、問題ない。
無いんだよ。いいね?
久々の硫黄臭やら煙たさなどを嗅覚で懐かしんだ。
懐かしんだついでに、かつての拠点を手始めに覗いてみることにした。
赤黒トカゲから逃げ切った場所に近かったから、戻る気がしなかったんだよなあ。
今の俺なら逃げられる確率は高いだろうし、万が一でも大丈夫だろう。
というわけで、あの長き修行期間で得た素晴らしき忍び足( 当社比 )を披露してしんぜよう。
今までは脚が多いわ、体の質が硬いわ、図体でかくなっていくわで、そもそもうまく忍ぼうとすることすら考えてなかった。
しかし音が原因で危機に至ること回数が3つに入ったところで緊急脳内会議を発足。
約2秒後に隠密行動訓練法が可決された。
だって文字通りケツに火点いたもん。
しょうがないもん。
熱かったのはヤドのあたりだったけど。
というわけで探索の旅に訓練を課したお陰で、集中してその気になればそれなりにコソコソ動き回れるようになった。
見よ!満員電車の乗客が憤死するほどに理路整然としたこの足運びを!
媚びろ〜!俺は天才だ〜〜‼︎
フハハハハ‼︎!
特に問題もなく、大体数分ぐらいで海辺に近い拠点に到着。
ここは離れてからそれなりの時間が経っていたので、汚れとかの様子次第ではリフォームも辞さない。
無論、匠的な意味で。
まあ杞憂で済んだみたいだが。
一応軽くだが掃除でもするか。
水が近くにあるし早く済むだろう。
水ドバァー。
鋏でゴミとか要らないのはつまんでポイーでキレイキレイしましょうね^〜
しかし、せっかく素手で採掘出来るぐらいは鍛えたのに、トング以下の扱いをするのは自分でもどうかと思う。
が、仕方ないのだ。
掃除道具とかいう文明の利器はこの大雑把な手では生み出せないのだ。
というわけで、やはりこの手に限る。
ん?何か間違ったかな?
元々それなりに大きい場所だったので、さらに成長した俺にとっては少し狭くなったぐらいで済んだ。
自慢の鋏リフォームが披露できなくて残念だ。
残念ダナー。
よし。水分補給が終わったら今度こそ火山に再冒険だ。
探索中に見つけた別ルートを使って侵入してみようと思う。
島を探索していたとき、回数こそ少なかったが、複数匹に遭遇したことがあったのだ。
いずれも火山に近くだったから、多分縄張りとかそういう話なんだろう。
念を入れて損はないはずだ。
今この瞬間、臆病で何が悪いのかと主張する小心者と俺は、心が一つになった。
今ならロン毛の親善大使にだってなれそうな気分だ。
そして無事、見覚えのある岩場に到着。
もちろん高所に陣取っている。
さらに周りの草木やらも総動員して擬態もしておいた。
その出来たるや、イベントで負傷したら無敵固定砲台化のオマケをつけくれてもバチは当たらないぐらいだ。
そして、このまま伏せて待つことにした。
あいにく、練り歩きながら奇襲の機会を掴めるほどの隠密技術はもってないんだ。
たしかにコソコソするのは上手くなったが、そこまで自惚れてはいないからな。
時間がかかろうが安全な選択肢を選んで何が悪い。
俺は悪くねぇ。
さあ準備は上々、あとは待つだけ。
はよ来い、はよ来い………
〓〓〓
なんか眠くなってきたゾ。
というか居眠りしまくってたよ。
でも誰もこなかったからいいよね。
もう夕焼けだから帰ろうかなぁ。
あれ、ん?なんか奥で動いてる。
もっと目を凝らしてみよう。
いた。
しかし、距離。
全然射程が駄目。
これでは必殺とは到底なりえない。
焦るな、むしろ見逃すぐらいの心持ちで潜み続けろ。
まだだ、まだだ。
………なんで2匹いるんですかねぇ…。
これは、撤退待った無しじゃね?
無駄骨は心にくるものがあるが命を危険に晒すよかマシだ。
というわけで、このままこっそり離脱だ。
振り返らないことが大事、って誰か言ってたけど、後ろ歩きして下がればさらに安心だな。
難点は見た目と後ろ歩きが難しいことだな。
と言うわけで、バックしまーすバックしまー…あっ、おい、待てゐ!
何やってんだお前らって、アッ、アッーー!!
上に乗って、そのまま…”ナニ”してんじゃねーよバァカ!!!
前世童貞な上に、今生も含めて初濡れ場目撃がコレとかもう、馬鹿なの?死ぬの?
しかもブルーKAN上等なアベックだし、彼女いない歴史イコール年齢の俺に見せつけるとかもう、fool?die?
むしろ爆ぜて捩じ切れねろ。
いや俺が殺す。
もうこの際どうだっていい。
この怒りは正当なるものである。
節度をわきまえず、よりにもよって日々を清貧に生きるものを尻目に、淫行に耽る不届きものは断じて許されない。
だが我らが非モテの神は、邪悪なる蛮族に鉄槌を下してもよいとおっしゃっている。
おっしゃってるんだよ。
いいんだよ、どっかの大体の宗教も脳内で勝手にそうやってるから大丈夫だよ。
いまや、この喪男の清く気高き義侠心は不埒なる存在をぶっこr……天に滅っさんと咆哮している。
もはや誰にもこの敬虔たる清使徒を止めることあたわず。
待ち伏せも必要ねぇや、へへへへ……誰がてめぇらなんか、てめぇらなんか怖かねぇ!
野郎ぶっ殺してやああぁぁぁる!!
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