第6話
サウナと水風呂を繰り返すオッサンの気持ちはついぞ欠片もわからなかった。むしろ頭部にわずかな尊厳が残っていたら衝動と共に収穫後即廃棄してやりたい気分である。
まあそれだけ苦労したんすよ。どっちかっていうと鉄の剣の気持ちをおもんばかる方が俺も俺の外殻も喜ぶな。
初日は2回で降参した。拠点探さなアカンかったからしゃあないわな。しかも目的の鉱石も食えずに散々であった。
拠点は海と岩場の境目のような所にしといた。あと、近くにちょっとだけ砂浜があったのだが、そこに打ち捨てられた枯れ木があったので目印につかわせてもらった。
あっ、そうだ。なんかよくわからん果実?も見つけたゾ。色が若干禍々しい赤色だったけどトマトの仲間かなぁ…?
とりあえず食った。
もぐもぐ。なんでこいつ甘辛いん?いや、水々しさと後の引かないレベルの辛さで食べられこと食べられるんだが…あれか、不思議体験を受け止めきれない俺の小さな器のせいか。小さくて悪かったな。
まあ幸いにも低所に生えてるやつだから、入手は容易い点は評価に値するな。
次の日はなんとか目標地点まで行けた。目標の鉱石は多分だが、鉄鉱石だと思われる。
だって味とかだけじゃ予想するしかないじゃん。それに味も鉄っぽい風味が強かったしもう鉄鉱石でいいじゃん。じゃん。
なんか少し塩味効いてたし、いい感じの歯ごたえだったのは海に近いお陰だからかね?とりあえず継続して食べていける味で良かった良かった。
そして数日間ひたすら火山と海を往復し続けることで、ようやく1時間ぐらいはマトモに探索できるようになった。
このまま順調に行けば良かっんだが、突如頭上から何かが襲いかかる。ちと遅れたか。軽くはない傷を貰ってしまった。
そいつは赤と灰色と黒を使い分けて擬態を使いこなす岩肌の蛇だった。あの保護色ではそうそうに気付けないのも致し方ない。厄介な。
それを初見で見破れなかった代償は、鎧すら砕かんとする毒牙で支払われた。
幸いにも、頭上から噛み付かれた瞬間と同時に後ろへと滑り込むように跳躍するのには成功した。
損害を無闇に広げられずに済んだものの、その代償は法外な利子のごとく形勢を脅かそうとする。
痺れ、目眩。
だがこの感覚は肉体が既に何度も迎えいれ、あしらい続けてきた。
おかげでさしたる難もなく耐え切った。そして、口腔から繰り出される反射的な水の一撃は岩蛇には予想外だったようだ。
しかし捕食者は危なげながらも急所とはなりえない体部分で水の一撃を受け止めた。大したものでは無かったと言わんばかりに、もう一度噛みつこうと身構えた。
だが水撃はあくまで牽制と割り切り、真打だと言わんばかりに右の脚部で踏み込みながら右鋏を勢いよく捻り突き込んだ。
さしもの捕食者もこれには手傷を負ったが、致命傷では無い。さらにこちらの隙の大きい一撃は格好の反撃材料となった。
そのまま勝利を確信した毒牙は今度こそ仕留めんと開かれた大口を伴いながら迫り来る。
最も、左肘を曲げて固定した体制から撃たれた水撃によって貫かれ、その役目を果たしきることは出来なかったのだが。
結局、岩蛇の毒牙は2度目の攻撃を許されることはなかった。
本当に生き絶えたかはわからないので、俺はしばらく距離を取って、さらにもう一度軽く水鉄砲をぶつけたりして念入りに生死確認を行った。
うむ。なんとかなったか。無傷で済まなかったが、この程度なら儲け物だろう。
俺も最初より成長して大きくなったが、それよりも大きく、そして狡猾な敵だった。
今回の俺がやった近接用三連撃( 仮称 )は以前から試験的ではあるが、必殺を目指さんとして生まれた戦法のひとつである。
仮称なのは、必殺技ってのは必ず殺せなきゃウソになるから、そういうことなんだよ。うん。
奇襲をするぐらいの知能があるならこちらを警戒したり、逆に油断をするのならこちらから隙を作って反撃すればいいのではないかと。
一撃目の水鉄砲はわざと威力を抑えてぶつけることで相手に油断、もしくは隙を生じさせるのだ。
そしてニ撃目は渾身撃だ。これは水鉄砲の訓練がてら、必殺を目指さんと何度も反復練習をしたものである。
要領としては人間の正拳突きを真似てみた。ちなみに、足は人間よりも多いから予想よりも踏み込みが様になったのは嬉しい誤算だった。
最後の三撃目は、こちらも渾身撃だが内容は一撃目とは同じく水鉄砲だが、全力で放つので殺傷力に大分差が開いている。
こちらも日々修練をこなすことで、岩ならある程度まで貫ける威力にすることができた。やれば出来るもんだ。
とはいえ全力水鉄砲は体力を予想以上に使うためか、毒霧と同じく弾数に難があるのが欠点だ。
さてさて。頭を貫かれた岩蛇くんが丸々一匹手に入った。しかもここには火がある。つまり肉を焼いて食えるのだ!ヨッシャア!!
怪我した頭から体液が流れているとはいえ、そんなものは全く気にならんぐらいご機嫌だ。蛇って鶏肉に似てるらしいじゃん?こいつはマジで楽しみだぜフゥー↑↑!!
というわけで今日は早速バーベキューよ!
と喜んだのもつかの間。
突如として上の岩場から赤黒い大きな何かが岩蛇に死体の側に、音を立てながら着地した。
あっ、これあげますんで僕は定時で帰らせていただきま…何故唸り声を上げて此方の隙を伺っていらっしゃるのでせうか、あーはいうんそうですよね誰だって漁夫の利は得たいものですよねって第二ラウンド開始だよこんちくしょー!!
もちろんゴングなどという文明的かつ奥ゆかしい合図は無いので、代わりに赤黒トカゲはその脚力を持って跳躍し、その勢いのままこちらを捉えんと肉薄してくる。
幸いにも直線的かつ見切れる速度だったのでなんとか回避。
着地の衝撃で生まれた砂利が音を立てながら体を叩いてきたが、それに構わず全力後退跳躍をして僅かでも距離を離さんと試みる。
こいつよく見たら生意気にも岩みたいな鱗かよ。ならそいつの強度、試してやるぜくらえ水鉄砲!
あっ、あんま効いてない…。小石をぶつけたぐらいのダメージぐらいしか通ってないぞありゃ。
しかもなんか妙に警戒されたのか、素早さそうな仕草で此方の隙をうかがってる。
考えよう。こっちの勝ち筋は、やつが泳げない深さの水場に逃げ込む。これが安牌だろう。
まあそう簡単には許しちゃくれなさそうだが。今も時々、その機動性を見せつけるように威嚇しながら睨みつけている。
参った。結構いい脳みそ持ってそうじゃないかこいつ。だが戦法は既に決まってる。なんとしてでも毒霧をぶつけて即離脱するのだ。
難しいけどこれぐらいしか今の俺は思いつかないし、考える時間もくれなそうだ。
じりじりと俺が後退するのに合わせてあちらも注意深く距離を詰めてくる。
そして俺の後退する脚が石を砕いた音を合図に、ついにこちらを攻め立ててきた。
上等だ。俺は戦うのは嫌いじゃないが、逃げるのはもっと得意だ。命を賭けた起死回生の全力転進を、確かみてみろ!
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