第3話



俺が捉えられてるのは頭部。

まだ間に合う。まだ足掻ける。



鋏を振り上げた勢いのまま何度も何度も捕食者の深い茶色の爪に攻撃を加えた。


すると短く太い鳴き声で怯み、拘束が緩んだ。

機を逃さずに追撃、振り払う。すかさず自由を得んとするために離れゆく大地に向かって必死にもがく。


成功。自由落下へ移行。

次の問題は落下衝撃と爪による頭の負傷と敵の追撃。


致命傷回避と最低限の機動力確保

を優先すべく、左鋏を起点に受け身を取るために身構える。


衝撃と着地。一瞬だけ内臓が潰れるかのような錯覚が襲う。

思考と神経は痛みを訴えながらも離脱のための命令を全身に発した。

浜辺と反対の密林に向かって懸命に体を動かして距離を稼ぐ。



がむしゃらに慣れない足を運び続け、痛みに耐え切れなくなる頃にようやく俺は止まった。


頭からは青い体液が流れ口からはいくぶんか薄い色の泡が止めなく溢れていた。

幾分か日光が遮られるところまで密林に潜り込めたがまだ安心できない。


どこか隠れられる場所を探さねばならない。身体を休め、空から見つからないような場所を。


疲るきった足を動かし、とりあえず視界に入った大木を目指して這いずるように進む。



それなりに時間がかかったが、目的地まで這々の態をさらしながら近づくと、そこにはなんとか潜り込めそうなスペースが根元に開かれていた。


助かった。これで休める。


もはや脳内と肉体は諸手を挙げて休息を要求していたので、俺もその意見に賛成するかのように数秒で意識を失った。




〓〓〓〓




眼が覚めると全身が痛かった。特に頭と左手が酷い。それに足のダルさもハンパじゃなかった。


どうやら安全にやり過ごせたようだ。死んでないのが証拠である。


さて、体は痛いが察知の状況を把握、整理するぐらいはできる。

あの時は本当に無我夢中で頭が空っぽのまま全力逃走してたからなあ。


襲ってきたのはおそらくは鳥類か何かだろう。断定できないのはアイツの脚部と鳴き声が少しばかり異質に思えたからだ。


思い切り頭に爪をめり込んできたが、その際妙に指の数が多かった感じがする。あとちょっとモフッてた。毛皮みたいなのに覆われてたのか?


もう一つの違和感である鳴き声は鳥が出すにはあまりにも低くくて特徴的だった。とっさに思い浮かべたのが放水ホースだったし。


あれも俺のように地球の基準にあてはまらない生物だったんだろう。


それにしても今回は運が良かった。鋏で抵抗したときすんなりと怯んでくれたが、あれはたまたま怪我をしていたか、俺のようなヤドカリは反撃しないと高を括って

油断していたんじゃないだろうか。


まあつまりはだ。再会したら即食料化の未来へレディイゴー!するわけだ。どうしたもんかね。


しかもアイツ以上の脅威だっているはずだ。頭痛くなってきた。すでに物理的に痛いけど。


そういえば体液でっぱな上にめっちゃ動いたせいなのかもう腹が減ってきてる。


いまの外の状況から考えるに襲われてから半日はたっただろうか?


現在進行系で夜明けを向かえそうな時間に目覚めたのでそこから大雑把に予想してだけなんだがね。

さらに付け加えると、この世界の太陽が地球と一緒だとはわからないので本当に大雑把であてずっぽレベルの予想である。


とにかく食糧確保は急務だな。


というか、傷を治したいなら何か食べればいいじゃない理論を支持する俺としては、安全に行動するのは今この瞬間がチャンスな気がしてきた。


まだ完全に明るくなってない上に大体の奴らは寝てる…はず…メイビー、きっと。


というわけで胃袋に従って餌探しにいこうかね。もちろん全方位警戒態勢で慎重にな。




おっ。早速食えそうな黄緑色の花を発見。とりあえずムシャリ。あんま美味くないわ。やっぱ花弁だけじゃケツを拭く紙にすらなりゃしねぇ。次行こうぜ。



赤いキノコってなんだか殺意の味だよな。だってさ、赤い水玉キノコ見つけらヒアウィーゴーしちゃうじゃん?腹も減ってたらノリで食っちゃうじゃん?

まあ案の定だったわけでしばらく痺れちゃったよ。

なんかこの迂闊なところ本気で直しとかないといかんな…。この状況だとシャレにならんわホンマ。

いやぁ丈夫なヤドカリに産んでくれてありがとう見知らぬマザーよ。


しかし味は悪くなかった。それにまるまる一つ一気に食ったからさっきみたいになったんだから少しずつならいけるかもしれない。

毒が蓄積して早死にする?まあそんときゃそんときだな。食われて死ぬより食って死ぬなら本望よ。



ふーむ。もうちょいまともかつ長期的に食っていけるもんが切に欲しいな。

その点だと黒い石は得難い存在なのかもしれないな。だって多分だれも食わんでしょあれ。

他生物とバッティングしにくい食物が一つでもあるとちょっと得した感があるよな。


つくづく思い返してみると、ヤドカリみたいのじゃなくてムカデやらGやらみたいなのに生まれ変わらなくて本当によかった。


あの時点から運がいい方だったのかもな…いや、ほんとによかったら人間に生まれ変わって現代知識使って二度目の人生イヤッフゥーー!!の可能性があったりしたのでは…。

やっぱ世界ってクソだわ。



ようし次はさっきから聞こえてくる川のような音がする方向に行くか。

こっからが本命だからさっきよりも気合入れよう。俺と同じく水が欲しくて他の動物やらと遭遇する確率はそれなりにあるからな 。



何というか、思ったより穏やかな河原に着いたな。キャンプができそう。

相変わらず日は余り差さず気温は高く、よくわからん鳴き声もときどき聞こえるが、普通だな!



さーて水だ水だ水だ!一つと言わず全部だと叫ばんばかりのテンションで水辺に向かおうとするが、

流石の俺も二度の失敗談を思い出してヒャッハーは控えた。


俺だって痛い目を見れば学習しますよ◯渡さん!

というわけでコソコソカサカサと進む。おかげで何も起きず水に辿りつけた。いざ飲水。


思ったよりも水分を失ってたのかそれなりに飲んだ。満足したので水辺を観察することにした。


なんかいい感じの小魚的なサムシングがいないかねー。よし、もうちょい進もう。バシャバシャ。


おっ。お魚を発見、ってキミなんだかヒレ多くありませんかねぇ…?

まあ俺もあんまり他所様のってこといえないんだけどさぁ…。



まあ気を取り直して試しに捕獲できるか試してみた。



ダメだった。知ってた。ええぃ貴様らちっとは俺の胃袋を助けようと思わんのかアァン?!

とかナントカちょいおこ気味に地団駄を踏んでたら口からドバァ!


『は?』


なんか出た。水鉄砲?一体何がどうなってんだよ。誰か説明しろよお願いMyゲロDay!


うおっ。しかもハサミからも何かちょっと滴ってるじゃねーか。もう一体なんなんやコレ…。


まあ試しにもう一回出してみますか。まずは口から出してみる。今度は痰吐く感じでやっみよう。


ヴォエッ!!ってなんか赤黄色い!?汚ぁい!!


もう一体なんなんやコレ…( take2 )。俺の体液は青かったはずなんだがなぁ。なにか原因が…ってアレか。さっきの1upキノコか?

うーむ。つまりあの痰には痺れ効果があるんかね?機会があれば試してみよう。


そしてハサミズテッポウも再現してみた。なんか水ゲロより勢い無いな。これじゃあキラ君のハイマットフルバースト撃ちごっこぐらいしかやることが思いつかん。

いや、まあ、口で撃てない時のサブウェポン的には考えてたよ?



とりあえず手札が増えたのは確かだ。色々試しがいがありそうだしこれからは要練習だな。

さて、もうちょうい腹を満たしたら一旦帰ろう。まだ復調しきってないからな。


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