第009話 02月21日(日曜日)その弐「兄ちゃん、まさか、童貞?」

――座標軸:風見ナミ


「けれどもナミ。道場では魔力の使用は禁止だろう?」

 不審の念を隠しもしない目線と不信の念を思い切り匂わせた声で、レイジが彼女に問いかけた。

 それはかつてナミ自身が口にしていたことでもあり、加えて先日の剣道の手合わせでも小さくコトが持ち上がりかけた件でもある。武道の場で魔力を上乗せするとは道にもとる、という意識も彼自身の中に強くあることだろう。

 それはもちろん、ナミも同じだ。

「でも、今日はちょっと、相手が……ね」

 語尾を濁し、どこか不遜な笑みを浮かべるナミを、レイジが更に怪しいとばかりに見下ろしている。

「誰か、来るのかね?」

 二人がそうして話をしながら道場に入って行くと、既に神矢悟朗が道着で道場内を清掃していた。

 少年が屈託のない笑顔を二人へと向けてくる。

「よっ! 風見、レイジさん」

「悟朗、すっかり体はいいみたいね」

「そりゃあ事故だなんて言っても俺は大したことはなかったし。それよか、やっぱ地区大会ともなるとレベルが高かったよなー」

 彼によると、同乗者の怪我も言われていたよりも軽く、加えて後遺症その他の心配も無く順調に快方に向かっているという。そこで、悟朗の関心は事故よりも、終ってしまった剣道の大会の反省と、その反省をどう活かすかに意識が向いているのだろう。話題の方向性からそうナミは見当をつけて、彼に同意すべく穏やかな微笑みを浮かべた。

「でも、今日は拳道の日じゃない。しかも、クラスは悟朗の実力よりもランクが上よ」

「だって、須田兄ィが来るだろ? 顔見せておかないと。心配してくれてたし」

「……ああ。そりゃそうだわねー」


 道場は稽古の開始時間よりも大分早いとあって、三人しかいない。まだ他の門下生が来ることの無い時間帯である。三人となった為、悟朗が取り掛かり始めていた掃除も早くに片がついた。いい塩梅だと、ナミは、思いつきを装って悟朗に声を掛ける。

「ねえ、悟朗とレイジは、取り組みをしたことないのよね?」

「ああ。でもレイジさん、強いんだろ?」

 空気を読む能力が極端に欠けている悟朗でも、流石にナミの質問の意図に気がついたようだ。いささか腰が引けている。

 二人が並ぶと、二十センチ以上の身長差があることを、彼女は見て取る。悟朗も決して背が小さい訳ではなく、平均的な中学三年生の男子の身長であり体格ではある。だが、相手となるレイジが大き過ぎた。以前の雑談の際にはレイジも百九十センチは無いと言っていたが、しかしどう見ても大きい。加えて、鍛えられた体は全体的にがっしりとしている。

 それに、拳道にはさほど熱心ではない悟朗の実力を想像すると、この二人に取り組みをすすめるのはちょっと酷な気もする。

 だが、他の門下生が来ない内であれば魔力行使のお試しが可能かも、という誘惑に勝てなかった彼女は、駄目元で軽くもうひと押ししてみる。

「むしろ胸を借りる感覚でいいんじゃない?」

 レイジには、ナミの意図はお見通しだろう。

「レイジもどう? 少し稽古付けてあげるといった感じで」

「ふむ」

 先程まで彼女の提案に不本意だと言いたげな表情をしていたレイジが、今はさほど否定的ではない様子で少し考え込むような仕草をしている。あるいは、魔力的な縛りで、彼女の指示に対して抗えないだけかもしれない。はたまた、彼自身にも魔力を乗せた自身の身体面に対する変化に好奇心があるのかもしれない。彼の顔からはその内心までは窺えないものの、彼の行動面では少なくとも否定的な感情の表出は抑えられている。いい傾向だと、彼女は小さく喜んだ。

 レイジは悟朗へと向き直ると、しっかりと少年へと視線を合わせてきた。

「拙者はどちらでも構わぬぞ」

「……だから、『拙者』は止めなさいよ」

「……ごめん」

 小さく謝るレイジがまるで子どものように見えて、ナミは小さく吹き出した。そんな彼女に釣られて悟朗も笑顔になるが、自身よりも年長で海外からのゲストということもあり、彼女のようにはっきり笑うでもなく、失礼にならない程度に笑いを抑えている。

「じゃあ、普通に組み稽古ということで」

 それでも、二人は合わせて礼をして、一応の型から入ることにする。

「はじめっ!」

 かけ声だけナミが担当したが、後はあっという間だった。スピードもパワーも全然違う。魔力を封じたナミですらもっと時間を堪えられたというのに、悟朗は十秒足らずの短時間であっさり一本取られてしまった。これでは使い魔への魔力行使のお試しも何もない。

 それにしても、レイジの体術の素早さ、動きの無駄の無さに、ナミは改めて驚かされた。拳道者の端くれとして、ナミは第三者の視点から、術者としてのレイジの体術の技量に舌を巻く。技術的な巧さだけではなく、基本的な体力が違うのだ。そしてそれがしっかりと、技術の向上へと結びついている。

 取り組みの後で、悟朗がレイジの体を文字通り「借りながら」、突きの確度やその判断といったポイント、足捌きのコツなどをあれこれ尋ねている。特に嫌がる風もなく、レイジは悟朗の質問にも丁寧に答えていた。

 そこに、道場の扉が開く乾いた音が響いた。

「いよう、ナミ。今日は来たか」

「あら、須田兄ィ、こんにちは。一週間ぶりだっけ?」

「ああ。あいかわらずちっせーな、お前」




――座標軸:須田タツヤ


「いよう、ナミ。今日は来たか」

 須田タツヤが拳道の指導者役を担当しているのは、日曜日の午後、大人が中心のやや実力を必要とするクラスである。

「あいかわらずちっせーな、お前」

 胸がな。

 いつもは、そういうセクハラツッコミでからかうところだ。だが。それを唇に乗せる前に、風見ナミの後ろに見知らぬ大柄な外国人がいることに気がついて、彼は口を噤んだ。

 ナミに対してはニヤニヤと軽薄に手を振り、その向こうにいた悟朗と初見の外国人に対しても、いつもの軽いノリで、「よう!」と二人分、まとめて声を掛けてみた。続けて、

「悟朗~無事だったかー?」

 と、確認を取る。

 須田タツヤも、自身の師匠から息子の悟朗が交通事故に巻き込まれたことを聞いていた。更にその後の無事を聞いてはいても、顔を見るのは事故後、この日が初めてだった。そうやって実際にその無事な姿を見た彼の頬は、自然と緩んだ。

「はい、おかげさまで。須田兄ィは……聞くまでもないか。相変わらず元気っすね」

「相変わらずっつーか、まあぼちぼちってとこだなぁ、こりゃあ……で、そちらさんは最近噂の外国人門下生、ってワケか」

 一通り知り合いへの挨拶を済ませると、彼はその奥にいる初見の男へと視線を向けた。

 強そうだな。ニヤリ、と自分の唇の端がつり上がるのが、須田には判った。恐らく相手には、やや挑発的な笑みに見えることだろう。

 だが、男は鋼のような瞳の色をしたまま、表情を変えることはない。真一文字に口を結んではいるが、何の感情も表出しない。

「強いヤツはいい。大歓迎だ」

 はじめまして、といった定例の挨拶もなく話し始める。傍にいた風見ナミが呆れたように彼を見上げているのが自身の視界の隅に入ったが、彼は気にせず真っすぐに赤毛の大きな男を見遣る。

「須田兄ィ、初対面ならば言うことがあるでしょ、もっと。レイジ、こちらはこの道場の拳道指導者の一人、神矢のおじさまの門下生で稽古のサポートをしている、須田……」

 風見ナミが、牽制なのか仲介なのか、彼に代わって紹介をしてくれる。ありがたい。

「須田タツヤでいい」

 身長は彼自身とさほど変わらないだろう、というか、相当大柄だ。まあ、この国の人間から見れば、という範疇でだが。

 和国の平均的な男性の身長と比べて、須田タツヤもまたその初見の男と同様に、かなり高い方である。但し、目の前の男は自分とは筋肉の付き方が随分と違う。

 いくら食べても太らない体質の彼は、長身の割には細く、鍛えていることもあり、筋肉質ではあるものの体脂肪率は極めて低い。だが、目の前のこの男は、どちらかというとがっしり系で全体的に造りがごつくできている。骨格も、骨そのものも大分違う。それに比例して筋肉量も差がありそうだ。多分、パワーの面では押されるだろう。

 男は、彼のまとめられた長髪や、武道者らしからぬ両耳のピアスの穴に目を留めているようである。どうやら、俺のことが理解できているようだ。そう思って、彼は笑顔を浮かべて男を見遣った。

「見て分かる通り、ナミたちと同類だ」

 双方、別に殺気を放っているわけではないが、物理的な距離が縮まらない。恐らくは、精神面でもそうだろう。やり合うのが楽しそうなヤツだ。須田タツヤは沸き上がる喜びに一旦蓋をして、親しげな空気を纏って彼へと足を踏み出す。

「レイジも挨拶しなさいよ」

 そう言って、彼の傍らにいるナミも隣の大男へと歩を進める。

「神矢師匠に昔お世話になった者だ。師からは『レイジ』の和名を頂戴している」

「魔力無しに、通称、か……にしても、強いんだってな、あんた。あのソージに魔力使わせたんだって?」

「わたしも伸されたわよ」

「おめーは体格差がこんだけありゃ、リーチだけでアウトじゃねえか」

「パワーもスピードも桁外れだよ、レイジさんは」

 悟朗までもが加わって、彼と新顔との間を取り持とうとしている。

「まあ、悟朗レベルじゃ拳道っつー土俵じゃナミにだって箸にも棒にもかからねえからな」

「俺は剣道一筋で行くんだから、いいんだよ!」

「まー、お前は高校行っても剣道部だもんな」

「そりゃもちろん。公立高だから県大会出場狙えるかどうかは微妙だけど」

 悟朗が進学する予定の公立高校は、この周辺の公立校の中では剣道部の活動が比較的盛んだ。彼が、偏差値的にはかなり無理をしてその学校を選んだのはそこに要因があるということを、須田も解ってはいた。ただ、その対戦成績がいいとは言っても、所詮は公立高のレベルでしかない。しかも学校そのものはまだ歴史が浅いという話だ。その先どこまで進めるかは、正直読めない範疇の話ではある。それでも彼の中学までに培ってきた実績と実力、その熱心さからすれば、そうした大きな大会を目標にしたいところなのだろう。

 瞳を輝かせながら話をする少年のことばは、風見ナミや須田タツヤのような付き合いの長い人間には理解のできるところだ。

 そこで一人。この話の輪に加わらない男がいることに、須田は気がついた。

「でもさ。その剣道でもこっちの兄ちゃんはつえーんだろ?」

 男が話に加わるかと思って水を向けたつもりだったが、その表情に特に変化は見られない。

「そりゃ兄ィは竹刀とは無縁でしょ。剣道ならレイジの方に軍配が上がるんじゃないの?」

 その上、風見ナミまでがそうやって新顔の外国人の顔を持つ始末だ。

「つーか、ナミ。その兄ちゃんと随分仲がいいんだが、お前の知り合いなの?」

「まあ、成り行きで」

 面倒だから説明はしない、と言いたげな彼女の端正かつ涼やかな顔つきを見て、彼はそれ以上の追及は控えることにした。この強情な小娘がこういう顔をしているときは、頑として己の意思を曲げることは無い。無駄だ。

 そこで彼は、改めて男を見遣る。

「つか、鍛えてんのなー」

 それが悪いのか、と言いたげな目を、赤銅色の外国人が須田へと向けてくる。先程の自己紹介時の発音といい、声を聞いている限り和語に不自由はなさそうなのだが、あまり口を開く質ではないらしい。

「どうだい。みんながやってくる間、一つ取り組みをしてみるっつーのは?」

 ナミと須田、それに悟朗が、それぞれ、道場に設置された時計に目を向ける。

「そろそろ他の通いの門下生も来るから、せいぜい時間は……」

 悟朗がそう言いかけると、

「三分でいいんじゃない?」

 と、風見ナミが笑顔と共に少年のことばを遮った。微妙に積極的な身振りの少女が気になったが、言いだしっぺは自分である。「ま、いっか」と思い直して、須田タツヤは念入りに柔軟を開始する。

「ああ、それでいい。兄ちゃんは?」

「よかろう」

 悟朗だけが、「稽古が済んでからの方がいいんじゃないか」などと間の抜けたことを二人に対して言い出すが、彼が空気を読まない、読む能力が低い天然だということは承知しているので、彼もナミも、無口なその外国人も無視している。

 それに今日は、稽古の後に特別行事が控えている。悟朗は、そのことも失念しているのだろう。

 相手が待っている為、彼は手早く柔軟を終える。道場の真ん中へ進み、二人は向き合った。礼を交わす。

 相手の男は音も無く、真っすぐ前に立つ。当たり前だが、姿勢がいい。表情は静かなものだが、目だけが強く鋭く光っている。

「じゃあ、三分で……はじめっ!」

 審判役をナミ、副審を悟朗が受け持ち、そのナミの一声で取り組みが開始される。


 構えだけでその実力は窺える。彼は、なかなか男に手が出せなかった。それは相手も同じようで、こちらにおいそれと手を出せないとばかりにじっくりと隙をうかがっている。当然、隙など見せることは無い。だから、お互い鋭い眼光を向け合ったまま、暫く膠着状態が続く。

 先に動いたのは、相手の方だった。

 早い。

 拳のスピードと目的地点への的確な判断。躱す自分の体の動きの先の先まで読んでいるかのような、次の打撃の繰り出し。

 とはいえ、やられっ放しは御免とばかりに須田もスピードを乗せて拳を繰り出す。体の方が先に動く。無心で相手の動きを察して、その更に先へと拳を向ける。

 普段よりも足を使わせやがる。相手は拳も足も早いが、スピードに関しては自分の方に分があるようだ。ガツン、と肘で攻撃をかわし、間を置かずカウンターを繰り出すが、それは読まれて避けられた。足を使い更に踏み込む。相手も体重をかけて大ぶりな拳を突き出してくるが、それを紙一重で避け、こちらは足技で仕掛ける。が、それも読まれていたのか、あっさり躱された……強い。




――座標軸:風見ナミ


 ナミは道場に据え付けられた時計へ、ちらりと目を走らせた。

 両者共に攻め、両者共に上手く躱している。実力は拮抗している。いつものふざけた須田兄ィの顔からは予想もできなかった真剣な表情を見て、その早い展開と二人の男の立ち回りの見事さに、彼女は思わず見惚れた。

 正直、須田兄ィと神矢レイジとの実力について、どちらが勝つか、あるいは実力差がどのくらいなのか、一度レイジと取り組みをしたナミであっても、そこまで深く想像はできていなかった。

 だが、この組み合いを見る限り、レイジは恐らく、ナミとの取り組みでは手加減をしていたのだろう。先刻の悟朗との組み稽古も同様だ。そのことに思い至ると、非常に悔しい。彼女は不機嫌な様子で顔を顰めた。そしてまた、時計へと目を遣る。

 それにしても、あの、どんな相手であってもいつも飄々と振舞い軽やかに相対する須田兄ィが、公式の試合以外でここまで本気の顔を見せるとは。これもまた、彼女の予想を超えたものだった。

 とはいえ、そうして試合を惚けて眺めている場合ではない。三分の時間を有効に使わなければならない。そうでなければ、今ここにいる意味がない。

 副審である悟朗も、二人の取り組みに見惚れるように眼を見張っている。六十秒の秒針は既に二回り、そして三十秒、四十秒、五十秒……


 ――拳に力を、体にスピードを! ――


 二分五十秒を過ぎるか過ぎないかといった秒針を確認し、ナミが術式を解放し強く念を送る。


 彼女の体の中で、魔力が唸りを上げる。


「おい、そりゃねえだろ!」

 叫んだのは、須田兄ィの方だ。


 ……気付かれたか? まずい……!

 レイジの足技が決まり、姿勢を崩して倒れ込んだ須田兄ィの上。レイジが急所の直前で拳をピタリと止めている。

 そしてナミの予想通り、魔力探知器がビービーと鳴っている。

「俺は鳴らしてねぇぞ!」

 レイジが姿勢を戻して、倒れた須田兄ィに手を貸して立ち上がらせていた。

「お前、魔力持ちか?」

「いや、違う」

「ごめん、須田兄ィ、わたしがちょっとしでかしたの」

 ナミが駆け寄って、須田兄ィに頭を下げる。

「……どうやって? 何を?」

 憮然とした顔でナミを見下ろしながら、須田兄ィは仕組みが今一つ理解できなかった魔力行使に対してナミに全開で突っ込んで行く。

「レイジに加勢したのよ。わたしが」

 だから、ごめん。ナミは、きちんと謝る。その後ろでレイジがぼんやりと立っている。彼女はその姿を一瞬だけ目に捉えるが、表情からすると、彼の代わりに頭を下げていることに納得がいかないといった顔だ。

「どういう術の行使だよ、ありゃ。あり得ねぇだろ、それ」

「それは企業秘密にしておいて」

 魔女のね。と、彼女は付け加えると、

「おーおーおー、しょーがねーな」

 根に持つことなく、なぜかあっさり、須田兄ィは彼女の言い分を飲む。仕方がない、と割り切った表情になった彼は不貞腐れた様子もなく、彼女と、彼女の背後のレイジとを交互に見ていた。

 そうして彼も落ち着くと。

「その代わり、今度デートしろよー」

 そう、いつものチャラい兄貴といった様子で、いつもの戯言を口にする。

「またそれかよ」

 と、呆れた声を挟んだのは、既に近くに寄ってきていた悟朗だ。

「そんなことあっちでもこっちでも言ってると、いい加減ハルカさんにまたヤキ入れられるわよ」

 ナミも、彼の女房の名前を引き合いに、いつもと変わらぬアホ丸出しの台詞に変わらぬ返事を返す。

「それはもう毎日のことだからな。諦めてるっての」

「そういえば、今日もハルカさんは来られなかったんだ。残念」

「今日は俺の代わりにバイトのシフトが入ってる」

 そして須田兄ィは、「はあ」と大きなため息をついた後。

「あんた、悔しいかい?」

 手前にいる二人の中学生を無視して、レイジを真っすぐに見ていた。

 彼は、特に答えない。

「そのままやってても勝てた、てな顔、してるじゃんかよ」

「どうだろうな、君も強い。拙者は、段などは特に持っていないからな」

「……『拙者』?」

 ぷ、と須田兄ィが噴き出す……それがやがて大きな笑い声になり、ギャハハハハハ、と転げ回んばかりの勢いとなる。悟朗は、笑い声こそ抑えてはいるが、表情は吹き出す一歩手前だ。それを必死で堪えている。一方のナミは顰め面、当のレイジは困惑したの表情だ。

「いやー、ソージのメールにあったから、まさかと思ったけどよー、あんた本当に時代劇で和語を勉強したんだなー」

「……そうだが。おかしいのだろうか。やはり」

「おーい、ナミ、お前一応知り合いなんだろー、もちっとまともな話し方教えてやれよーーー!」

「もう何度も言ってるわよ」

 ナミはジロリ、と自分の使い魔を強く睨みつける。

「ふむ……やはり『拙者』はおかしいのでござるな」

「あー、また地雷!」

 ナミが彼の口を止める間も無かった。

 一瞬の静けさの後、初日のナミの笑いっぷりを彷彿とさせる須田兄ィの笑いが、道場に響き渡る。それどころか、「ござる」を聞いた悟朗も、ついに噴き出して、須田兄ィと一緒に肩を叩き合いながらげらげら笑い始めた。これではもう、彼女には手がつけられない。

 ナミは呆れた顔で、困った顔の使い魔を放置して、日曜の門下生たちが入ってきたのを視界に確認すると、そっと場所を離れた。




――座標軸:風見ナミ。


 拳道に限らず、こうした習い事のような集まりを口実に、魔女、魔力持ちが集まりを持つ機会は多い。

 とはいえ、「拳道」は魔女、魔力持ちたちが特に集まりやすい場ではある、という傾向が強くあった。主には護身を動機とした流れで始まっている例が多いのだと、ナミも聞いていたし納得もしていた。彼女自身が拳道を始めたのも、それが主要な目的でもあったのだから。


 この神矢の道場も、元を辿ると、魔力無しの神矢氏が、魔女・魔力持ちたちへの支援の意味も含んで開いているものだ。

 また、もう一つの集まりである剣道教室の師範が魔力持ちの沖田ソージという点を取っても、この道場で行われる武道の集まりは魔力持ちと魔力無しの交流の場としての意味を持たせていると言えよう。

 神矢老人や彼の息子である悟朗が、須田タツヤや沖田ソージのような魔力持ちと親しく付き合っている様子からもわかるように、ここ中野町の小さな道場をそうした交流の場として機能させるべく、神矢老人はその運営に骨を砕いていた。

 この日の拳道の指導は、神矢老人の現在の若手門下生の中では一番弟子に当たる、魔力持ちの須田タツヤが受け持っている。こうして、指導者レベルで魔力持ちたちを参画させることで、この道場が魔力持ちに対しても開かれていること、またその属性ではなく実力でもって遇していることのアピールともなっていた。

 沖田ソージに関して言えば、その実力や教え方の巧みさ、また女性受けの良さなどが長所となって交流が盛んだし、拳道の須田タツヤにしても、軟派なように見えながらも手堅い実力と誰とでも気軽に話のできる人柄から、魔力持ち、魔力無し、いずれからも慕われている。

 神矢老人自身、その半生を、「魔女狩り」の違法化と魔力持ちの人権向上の為にずっと力を注いできた人だ。結婚が遅かったのもそうした社会運動に取り組むが故の多忙さが原因かということすら言われているが、まあそれは措いておくとして。

 ことに、二つの魔女に関する重要な法律の制定に向けて、政治的な面で流れをつくり、具体的なかたちとなるように力をまとめられたのも、この老人の存在が大きい。それらは、彼が半生をかけて脈々と培ったその土台から芽を出し、実を結んだ結果でもある。

 この道場も、「戦争」とナミたちが呼んでいる先の魔女狩りの間こそ閉じていた。実際に火事による半壊という大きな被害も被った。だが、終結後はすぐに再開された。

 それから九年。拳道の師範としての神矢老人自身の人望もあり、政治的にはやや複雑な立場にありながらも、十年程前までの魔女狩りが非合法でなかった時代のような危ういこともなく、道場は平和に運営されてきている。

 なにせ先の「戦争」では、魔女側についた『裏切り者』として、神矢老人当人はもとより、家族に対しても、魔女狩人ウイッチハンターからの殺人予告が入っていたのだ。魔女狩り勢力から見て政治的に好ましくない人物の筆頭とされていたおかげで、老人以外の家族は、西乃市を離れて遠く首都圏の親類を頼って避難をしていた程であった。実際、その後、道場周辺を含む中野町が、魔女たちの住宅を中心に焼け野原となり、道場だけではなく神矢家もその一部が消失した。

 しかしそれも、もう昔。あれから九年が経つ。道場も、また中野町も、魔女狩りの痕跡を一切残さず復興している。多大な人的被害があったことは事実だが、人命の喪失以外の面に関しては、概ねこの地には平和が戻ってきた。

 その平和の象徴の一つが、この中野町の神矢道場だと言えよう。


 この日は大人が中心のやや上級者向けのクラスだが、ナミはその最年少組の一人として門下生の末席に加わっている。

 定時が来て、いつものように基礎練習が始まる。この日はナミだけではなく、悟朗、そしてレイジもそれぞれ参加ということになった。

 基本の型をみっちりとこなした後、組み稽古なども含めて小一時間ほど汗を流す。そうしてやや短めのスケジュールを一通り終え、そこで稽古は解散の流れとなった。


 用心深く周囲を見回しながら、ナミは、レイジに早くに退出するよう、念で促した。須田兄ィとの手合わせの後にすぐに練習に入ってしまった為に聞けなかった、魔力行使の影響について、己の使い魔からの詳細な報告が欲しかったのだ。

 しかし動き出そうというナミたちに鋭く目を止めていた須田兄ィは、散り始める門下生たちの流れに乗って、出口近くで二人を捉えにやって来た。

「お疲れ様、兄ィ。じゃあね」

「よう、ナミ。今日は夜の集会に参加するんじゃねーのかよ」

「……うーん、まだ保留なんだけれども、今晩はレイジと約束があるから、その進行具合によるわ」

「あ、そう。それ、俺も混じっちゃダメ? ってか、今日の記念集会に出るんなら車出したげよーかと思ってたんだけど」

「兄ィ、バイト生活の癖にやたらと物持ってるねー。車ってこの間言ってた新車? 見せつけたいの?」

「まー、バイトは掛け持ちだし。車くらいはナントカなる、ってーの」

「でもごめん。今年は別にゲストとして呼ばれてもいないし、気が向いたら行くってことにしておいてもらえる?」

「えー、ハルカも顔見たがってたぜー、ナミの」

 兄ィが、ナミも慕っている、自身の連れ合いでもある姉魔女の名前を出してくる。道場には来なかったが、今日の出先で二人が合流するからだろう。

「ハルカさんには会いたいけどさー、今日はね。またねー」

「つれねェなあ」

「それより、他の女にひょいひょい声を掛けまくるの何とかしなさいよ、兄ィ。ま、兄ィの目に又、青タン出来てるのを見るのもいいけどねー」

 須田兄ィのパートナーであるハルカの、生真面目で融通がきかず、且つ口下手な為に口より先に手の出る性格を思い出しながら、ナミはこのやたらと女への声かけにマメな同族の男のちょっかいをやり過ごすべく、あーでもないこーでもないとのらりくらりとその話を躱し続ける。

「お前さん、昨日で半成人だろー。性交も出産も一応オッケーになったじゃんかよー」

「まあ、魔法文化上は婚姻可能になったけど。でも、そんなの実感無いわよー」

「別に結婚しようって言ってるんじゃねぇんだしさー、種が欲しくなったらいつでも声を掛けろって言ってるだけだぜー」

「あーはいはい。兄ィにそれ、一生無いわ」

 種、という言葉を聞いて、彼女の隣で立ち止まっていたレイジの長身の身体がピクリ、と固まった。

「まったくもう、『中野町の種馬』には羞恥心ってものが無いのかしら」

 だいたいハルカさん泣かせすぎよ、と続けるナミは、しかしレイジのその変化に気がついてはいない。

「ハルカはそんなんじゃ泣かないっての。つか泣くタマかよ、あの女が」

「そうねー、泣く前に拳がすっ飛んでくるもんねー」

「つか、武道の師範役をやってる俺より強い女って、どうよ?」

「うーん、いいんじゃない? 見てる分には惚れぼれするわよー。ハルカさん美人だしさ。それに、あの動きの切れに至るまで、拳道頑張ってきたんじゃない、彼女。ハルカさん見てると、わたしの拳もまだまだ修行がいると思うわー、マジで」

 そう、どこか他人事のような声でナミが言う。

「で、そちらの兄さんよ」

 急に、須田兄ィがレイジに話題を振ってくる。ナミが振り返ってみると、彼女の脇に立つ彼は、誰の目から見てもその不機嫌さが伝わってくる表情をしていた。

「さっきのあの勝負、物足りなかったんだろ?」

 彼女の使い魔はことばも無く、瞳で、威圧するかのように須田兄ィを強く睨む。

その瞳にギョッとしたのは、ナミだ。しかし須田兄ィは動じることなく、それを真正面から受けて立つかのように、目に力を込めてレイジを見つめ返している。

 ナミもそうだが須田兄ィにも魔眼は無いので、これは完全に魔力無しの人間の「ガンの飛ばし合い」と同じ意味を持つ行為となっている。

「次は魔力無しで、じっくりやり合いたいもんだな。いや、逆にアンタらコンビで魔力込みで、こちらも魔力解放で、というのもアリかもしれねーがな」

 そこで、クックック、と笑いを零して挑戦的にレイジを睨みつける。他の門下生が殆ど残ってなかったからだろう、もう遠慮は無しとばかりにレイジの強い目線と対抗する。

「つーか、ナミ。なんでコイツにそんなに肩入れしてんの、お前?」

「それは種馬のお前に言われる筋合いはない!」

 先ほどのナミの須田兄ィへの、若干の軽蔑を込めた「中野町の種馬」の呼称を……その呼称自体は須田兄ィをよく知る人びとの間ではよく囁かれていた呼び名ではあったのだが……そのまま須田兄ィに叩き返すかのように、レイジは肉食獣が唸るような低い声で言い放つ。和語が母語ではないというのに、何と耳聡い、とナミはどこか場違いな感想を抱いて、怒りを持って放たれる獣のようなレイジの声を呆れた顔で聞いていた。

「貴様、さっきから聞いていれば、ナミに随分と失礼な物言いいのようだが」

「へ?」

 と、彼女から間抜けな声が漏れる。

 なんで、この男は怒っているのだろう? 

 彼女自身は理解できていないのだが、どうやらその原因が須田兄ィと自分との会話にあるようだとおぼろげに推測する。レイジのあまりの怒りの沸点の低さには驚くしかない。理由が判らず場を収める何らかのことばも出せぬまま、彼女はその場で動きを止めた。

「おいおいおい、兄ちゃんよ、俺たち魔力持ちの文化を知らねぇのか?」

 全身から怒りを隠さないレイジに対して、どこか薄っすらととぼけた口調で切り返す須田兄ィが、「さーてとどこまで話すかなあ」といったばかりの様子で相手を小馬鹿にしたような笑いをニヤニヤと浮かべる。

「俺たち魔力持ちには子どもが足りねぇんだ。要は、俺たち一族の未来が廃れないように、ってことよ。まあ、男としちゃあ機会があればそれに乗るのは義務っつーもんだし。別に強姦するわけじゃねぇんだし、気の合う同士でイイコトするのに、他人サマにお伺いを立てる必要は無いんだってーの」

「っていうか、レイジ、真に受けないでよ」

 漸く、ナミが割って入る。

「まあ、兄ィはこういうちゃらんぽらんな人だけども、半分以上は本気じゃないから。殆ど挨拶みたいなもんだし、ナンパは数打ちゃ当たる、って考えているだけの人だから」

「っつーか、兄ちゃん、まさか、童貞?」

「……」

 グッと、言葉に詰まるレイジ。

 あーあ、言っちゃったよこの人、と冷ややかな視線を須田兄ィに向けるナミ。

 そして。

「レイジ、答える必要はないわ!」

 売りことばに買いことばは拙い。咄嗟に彼女は、彼を制して二人の間に割って入る。だが、これが、「指示」となって、レイジの言動を縛る。勿論、彼女はそれに気がついていない。

「ちょっと、『中野町の種馬』、いい加減にしてよ! 外国からのゲストを相手に、恥ずかしいと思わないの? 和国の恥を晒さないで頂戴」

「ああ、恥ずかしいだなんて思わねぇな」

 今度は須田が唸るような低い声となって、返事を返す。その声には、今までの声には無かった本気の怒りが潜んでいた。

「つか、ナミ、お前も共犯だろうが……どうして、試合ではない手合わせとはいえ、魔力を使った?!」

 ここで初めて、ナミは腑に落ちた。

 ああそうか。須田兄ィがレイジの売りことばをあっさりと買ったのは、先の勝負、そこでのナミによる魔力行使、その不正への不満があってのことか。彼女もそこまで言われて初めて理解する。

 怒りがストレートにナミに向かわなかったのは、須田兄ィなりにその感情をどうにかやり過ごそうとしていたからだろうし、このタイミングで出てきたということは、それに恐らくは失敗したから、なのだろう。根が単純な須田兄ィは、そうした感情のコントロールが元からあまり上手い方ではない。己の思考を冷静に分析して考え直す、などという習慣は、彼の日頃の行いの中には無い。

 彼女たち、魔女と使い魔コンビの行った不正は、武道者でもある兄ィにしてみれば、侮辱にも等しい仕掛けをされたことでもあったのだ。そして彼の思考は、そこで止まっている。

 とはいえ、彼女へのセクハラ込みの下ネタトークは、いつもと全く同じペースだったからナミも当たり前のように流していたし、須田兄ィの気持ちをそこまで見抜けなかったのは彼女の落ち度でもある。但し、そうした彼の物言いそのものがレイジの怒りの理由だとしたら、2人の怒りの方向性はまるで噛み合っていない。

「兄ィ……」

 謝罪の言葉が、上手く出てこない。軽はずみにも、兄ィをテストケースにして使い魔への魔力行使を確認しようなどということやらかした、彼女が完全に悪い。兄ィならば多少のことであれば許してくれる、という彼女の甘えた気持ちそのものが、彼のことを侮辱していたようなものでもある。

「……兄ィ、ごめん。本当に」

 それでも、ここで「人間」を使い魔にしているという状態を、いかに親しい間柄とはいえ、明らかにするのはまずい。どうせ契約はあと数時間で切れるものだし、このことは時間切れを狙って隠し通したい。そう彼女は焦りながら思うものの、ではどこに着地点を見出すか、といった解答はまるで見当たらない。

「ごめんなさい。もう、しないから」

「んなこたぁ、たりめーだっ!!!」

 神聖な道場を穢した、若輩者が年長者を侮辱した、という辺りの感情が、上手く言語化されずに彼の頭の中でぐるぐる回っているのだろう。

「つーか、兄さんよ、あんたもナミの悪戯に乗ったんだろ。もちっとそういう武道に外れるような小細工を諌めるのが筋ってもんだろーよ。まったく三十路も過ぎててそこいらの道理も判らねぇのかってーの」

「……三十路は過ぎていない。まだ二十七だ」

 これまでナミの魔力で発言を抑えられていたレイジが、渾身の力で、漸く口を開く。勿論、彼女はそのことも気づいていない。

「ま、四捨五入すりゃあ三十じゃあねーか。俺はまだ四捨五入すりゃナミや悟朗と同じ二十歳だぜ」

「それもあと数カ月でしょ。わたし一昨日までは十四歳だったのよ。同じ枠に括らないでくれる?」

「って、こんな歳の小娘に鼻毛抜かれてるんだからよ、まー事実かどうかは別として、三十路で童貞にしか見えねえんだよ」

 そこで。怒ったような困ったような顔をして、レイジがナミへ顔を向ける。

「ナミ。済まないが、『鼻毛を抜かれる』とは、どういう意味のスラングなのかね? 文字通りの意味ではないのだろう? これは、説明を求めてもいいか?」

 彼のことばに、彼女は絶句した。「三十路」や「種馬」といった語彙は理解できるのに、そこの和語の言い回しは解らないのか! と彼女はツッコミを入れるべきかどうか、頭を抱える。彼の教本たる時代劇への軽蔑も含めて。

 どこで割って入ろうか、ぼーっと三人のやり取りを聞いていただけだったらしい悟朗が、そこで呆れた顔、呆れた声で、ぼそりと漏らす。

「須田兄ィ、それ言い過ぎだよ。だいたい、『中野町の種馬』が言うと、洒落にならないだろ、それ。海外からのゲストの顔くらい立ててよ。大人ならさー」

「あぁ、悟朗、お前もまだいたのか。式典、遅れるぞ。おやっさん、神矢のお師匠さんと合流すんだろ、お前も」

「ああ。それはいいんだけどさ。兄ィも、そしてレイジさんも」

 悟朗は、それぞれの顔を見て、それぞれの目と視線を合わせながら、続ける。

「今度はきちんと手合わせすればいいんじゃないの? 公平に、魔力の行使とか、そういうの一切無しで」

「そうだな、それは願いたい」

 と、須田兄ィは即答する。

「確かに。次は二度と不正はないようにしよう。約束する」

「じゃ、ナミ、そのペナルティってことで、今度デートな! おごるからよ!」

「嫌よ!」

 彼女の返事を聞く前に、須田兄ィの方が先に道場を飛び出していった。


 今日は、この西乃市でも、魔力持ちたちにとって大切な法律でもある人権法と文化保護法のできた記念式典が行われる予定となっている。実際の記念日は昨日であるが、今年は諸事情から日曜日の今日がその式典の日に当たっている。

 そうした式典への参加といった事情で、この日の神矢の道場は、いつもの時間よりも大分早くに道場を閉めていた。鍵を持った悟朗がナミたち二人を送り出しつつ、二人の予定へともう一度会話を振った。

「風見は本当に行かないのか?」

「ええ。姐さまが来ると思うから会いたいとは思うんだけども、どうしても今日中に片づけないといけないことがあって」

 午後の日はゆっくりと落ちかけている。じゃあまたね、と声を掛け合って、悟朗は母家へ、ナミとレイジは連れ立って風間の家へと戻って行った。




(つづく)

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