Track-11 友達をさらしてまで。

 放課後、ボクらT-Massの3人は駅前のミスドに集まっていた。2週間後の学祭のライブに向けての作戦会議だ。マッスがボクらを代表したように言う。


 「俺達の目標は学祭のライブを成功させてバカにしてたヤツらを見返すことだ。やってやろうぜ!」

 「おう!オレなんかちんこ写真バラ撒かれたんだ!あいつら、絶対に殺害してやる!」

 「おれもこういう時のためにずっと家で個人練習してきたんだ。練習の成果をみせつけてやる!」


 ボクが2人の間に手を出すとマッスが笑い、あつし君がボクの手に手を重ねた。最後にマッスが手を重ねると言った。


 「いくぜ!」「おう!」「セックス!」


 ボクらは満員の店内で叫んだことを店員に注意されるとおもむろに席に座りドリンクを飲み始めた。外は小雨がちらついてる。


 「で、ライブでやる曲のことなんだけど」

 「ん?」

 「カバーの曲をやるか、オリジナルの曲をやるかだよ。本番まで時間がない。ティラノ、おまえ曲書いてるのかよ」


 マッスに聞かれボクは答えた。


 「そんな簡単にホイホイ名曲が浮かんできたら苦労はしませんよ。『ぼくどう』を三回歌えばいいんじゃ、ねぇの?」


 マッスが頭を抱え「それじゃカバー曲で決まりだな」と呟いた。



 今日の昼休みに学祭の実行員がボクの元に訪れてライブのきまりについて説明してくれた。


 「バンドの持ち時間、つまり演奏時間は10分でお願いします。ステージでの下半身の露出、放尿、脱糞などの行為をした場合、

すぐさまライブを中止にしますからね」


 女の実行員が恥ずかしそうに言うとボクは「そんなことするやついるのかよ。なぁマッス」と隣のクラスから来たマッスに言った。


 「おまえがやりそうなことをあげて言ってくれたんだろ。おまえの写真のせいで掲示板どころか、学校のHPも炎上してんだぞ」

 「あれはオレのせいじゃねぇ!勝手にあいつらがバラ撒いたんだろうが!」

 「でも平野さんは学校での評判があまりよくありませんからね。とにかく警察沙汰だけはカンベンしてくださいね」


 実行員がボクらの元を去るとマッスがボクを指差して笑う。ネットの驚異って怖いね。ボクは自分の悪口が書かれている掲示板を一度も覗いたことがない。見たらたぶんショックで死んでしまうだろう。



 「カバー曲だったらピロウズとかバンプとかがいいんじゃない?定番だし」

 「いいね~。でも他のバンドとカブりそうだな」


 ミスドの店内でマッスとあつし君がどのカバー曲をやるか話し合っていた。みかねたボクは話に加わった。


 「あのさぁ、せっかく年に一度の晴れ舞台なのに人の曲をやるってなんなの?個性無いの?日本人かよ」

 「いや、日本人だろ。俺達。右にならえの義務教育。それを9年間受け続けてきたんだろ」

 「それがダメなんだよ、あつし君。優れた才能が生まれる可能性を殺してる。岡本太郎をごらんよ。散々他人にバカにされても猛然と立ち向かって行っただろ?」

 「おお、ティラノにしては良い事いうじゃねぇか!」


 マッスにほめられ鼻の下を人差し指でさするとボクはカッコよく言い放った。


 「演奏する曲は全部オリジナルだ!あつし君の地味だけど堅実なドラミング。マッスの良くわかんないけど華麗なベース。そしてボクの

熱い魂のシャウト。最強じゃないか。モノマネ高校生なんか一発で妊娠確実の特濃精液。それをやつらに、ぶちまけてやろうぜブラザー!!」


 「あ~あ、最後の下ネタがなければ完璧だったのにな!」あつし君が冷やかした。マッスがボクを見て微笑む。


 「じゃあ、ティラノ。おまえ、今週中にもう一曲くらいまともな歌作ってこいよ。オレとあつしはスタジオでリズム練習してくるから。

雨が強くなりそうだから、そろそろいくぞ、あつし」


 そういうとマッスはベースの入ったケースを肩にかけあつし君と外に出る準備をした。カバンからノートを出すボクにあつし君が言う。


 「今度の曲はロッカバラードみたいな曲調がいいな。『ぼくどう』がパンク系だし」

 「そういえば『ぼくどう』って何の略だっけ。オレ、練習のせいで耳が少し遠くなってんだよ。大きな声で言ってもらえるか?」


 マッスがボクに聞いてきた。やれやれ。同じバンドメンバーのクセに忘れたのか。あの名曲を。ボクは耳をほじっているマッスに向かって叫んだ。


 「いいか、一回しか言わないからよく聞いとけよ。『ボクの童貞をキミにささぐぅ~』!!!」


 するとどうだろう。店の空気が一気に凍りついたではないか。まるでエベレストから降り注ぐブリザードを受けたように他の客の動きが止まる。


 マッスが両手で口を塞ぐと近くにいた女子高生のグループが「ちょ、いまの聞いた?」「え?なに?なんなの?下ネタ?」


 「よくわかんないけど警察に通報したほうがよくない?」


 と口々に言い、ひとりがきゃーという悲鳴を叫ぶと店員がこっちに向かってやってきた。入り口に走り出したマッスとあつし君が言う。


 「みなさーん、1年C組の平野洋一くんをよろしくお願いしまーす」

 「じゃな、ティラノ。そういうタイトルつけるからこういうことになるんだよ。新曲では下ネタはやめてくれよ」


 カラン、カラン、入り口のドアが閉まるとボクはひとり店内に取り残された。マッスのやつ、やってくれるじゃねぇか。その後、ボクは店員から事情徴収を受け、学校にボクが公共の場で暴言を吐いたと連絡された。はは、また今日も激しく燃え上がるぜ。掲示板が。


 家に帰るとボクはひさしぶりにパソコンのエロアニメの二次創作画像を集めたフォルダをクリックした。女の子同士がハダカで抱き合っている絵を拡大するとボクは机の前で激しく萌え上がった。2話連続でオナニーエンドってどういうことなんだよォーっ!!

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