Track-10 風に舞い上がる×××

 青木田はボクらの顔をそれぞれ見渡すと含み笑いをしながら話し始めた。


 「どっかで聞いたことのあるイヌ声がすると思ったらお前だったのか。俺達に感化されて本当にバンド始めやがったか。それにしても酷いな、おまえら」


 青木田が言うとお付きのふたりがゲラゲラと笑い始めた。「なんだったっけ、岡崎」「ぼくのぼくのぼくの童貞をきみにささぐぅ~」


 岡崎が変な顔をして歌うと3人が机を叩きながら笑う。くそ、聞かれていたのか。ボクはすこし恥ずかしくなった。笑いの収まった青木田が言う。


 「大口叩いてどんなメンツ集めて来たかと思ったら去年辞めた山崎じゃねぇか。ケツの穴は直ったのかよ」


 岡崎が思い出し笑いをしながら言う。


 「こいつのケツにホースで水突っ込んだら、死にかけてやんの。おかげでウザい先輩連中に責任押し付けて退学に追い込めたからスカッとしたけどよ」


 あつし君が伏し目がちに視線を落す。ひどい。そんなことされてたのか。青木田がマッスを見上げて言った。


 「おまえはどうやらこいつらと毛色が違うみたいだな。こんなガキみたいなやつらと一緒にいて恥ずかしくないのかよ。幼児退行ってやつか?」


 馬鹿にされたマッスが青木田を睨み返した。


 「こいつらはオレの友達だ。これ以上こいつらを馬鹿にしたら先輩だろうがただじゃおかない」


 マッスがそういうのを聞いてボクは胸が震えた。おーかっけー!今のお前ならボクのアナル童貞、捧げても構わないぜ!後ろから店員さんが


 「部屋の準備できました!」というと「おせぇんだよ」とわめきながらミヤタがベースの入ったケースを抱えてボクらの前を横切った。


 岡崎もボクとあつし君に顔を近づけてきて2人はボクらがさっきまで使っていた部屋に入って行った。ひとり残った青木田が言った。


 「おまえらに関わっても時間の無駄だけどよ。今度の学祭のライブ、エントリーしといてやるよ。ステージに立たせてもう二度とバンドやりたい、なんて思えないようにしてやる」


 ほう、怖い顔して親切な所があるじゃないか。いや!だまされるな洋一!ついこのあいだこいつにションベンを飲まされたばかりじゃないか。


 ボクは勇気を振り絞って叫んだ。


 「ボク達のバンドはT-Mass!てぃー、ハイフン、エム、エー、エス、エスだ!あんた達のバンドを蹴散らして、逆に恥かかせてやる!」


 いうだけいうとボクはマッスのおおきな背中に隠れた。マッスの背中、あったかい。「俺達にケンカ売ったこと、後悔すんなよ」青木田が立ち上がるとギターケースを持ちボクらの前を通り過ぎてAのスタジオに入って行った。



 スタジオの帰り道、ボク達は無言で歩いていた。となりにいたあつし君が急に歩みを止め、話始めた。


 「おれ、1年の時、あいつらにイジめを受けてたんだ」

 「もういい、あつし言うなよ」


 マッスが制止した。ボクもあいつらにイジめを受けていた身、あつし君の気持ちは痛いくらいわかった。


 「おれ、悔しかった。ずっとあいつらに復讐したい、その気持ちだけで毎日過ごしてた。だから今度の学祭、絶対にあいつらを見返してやりたいんだ」


 あつし君が初めて自分の本音をボクとマッスにぶつけた。半泣きのあつし君の肩に手を置くと夕日をバックにマッスは言った。


 「そうだな。オレもお前達と一緒にバンドを組めて本当に楽しいよ。学祭のライブ、絶対成功させような。ティラノ、おまえはちゃんとした曲作れよ」


 マッスにそう言われるとボクは波止場にあったでっぱりに片足を上げ、太平洋を見つめながら叫んだ。


 「青木田のチンカス野郎ども、調子に乗ってんじゃねー!!ステージで失禁させてホースで丸洗いしてやる!おまえのアナル処女、オレが奪ってやる!」


 ボクがあごを突き出し、中指を立てるとあつし君が笑い、「思い出してケツがうずくからやめてよ」と言うと「あ、おまえそういう性癖に目覚めたんだろ」


 と珍しくマッスが下ネタを言った。そんなわけでこの出来事をきっかけにボクらは団結した。そして3日後の朝、悲劇は起こった。



 ボクが登校中に落ちているプリントを見つめるとその紙にはちんこの絵がプリントされていた。女の子達がきゃー、きゃー、と声をあげている。


 ぶっそうな世の中になりましたな。本当に。ボクが校庭に入るとそのちんこのプリントが無数に散らばっていた。風に舞い踊るたくさんのちんこ。異様な光景にボクは目を疑った。ばす、突然視界が真っ暗になる。ボクが顔についたプリントを剥がすとそのプリントを見て心臓が飛び出そうになった。


 「はいはい~学祭ライブの発表バンドの紹介だよ~」

 「付け根のホクロが特徴的~。プリントに写っているのは1年C組の平野洋一くんのチンポコだよー」


 ボクが声のする方を見上げると屋上で拡声器を使って喋る2人組の姿が見える。おそらく軽音楽部のミヤタと岡崎だろう。畜生!


 やられた!以前体育館の準備室にハダカにされて閉じ込められた時撮った写真を使われたのだ。ナントカふじこ!!終わった。全校生徒にちんこ見られた。


 ボクが膝を折って倒れると後ろから声がし、「ティラノ君、ティラノ君のだよね!?これ?!」と三月さんが聞いてきた。ボクが三月さんに顔を向けると「キモ」「てか高校生になってムケてないってどういうこと?」「ありえね。指輪入るんじゃねこれ」とギャルの集団がボクとプリントを見比べながら笑った。頼む、だれか、いますぐオレを殺してくれ。ビッチで有名な篠岡冥砂が


 「メイサ、こんなのじゃまんぞくできな~い」とニヤけながらボクのちんこの写真を舐めた。ボクの下半身が勃ち上がる。ロッキーのテーマが頭に流れるとボクは上半身を上げプリントをばらまいている2人を睨んだ。


 「屋上のてめぇら!いい加減にしやがれ!この腐れ脳みそが!頭おかしいんじゃないか!こんなことやって!

おまえらは生まれ変わったら一生劣等民族だからな!覚えとけよ!この基地害畜生野郎共!」


 ボクが叫ぶとちょうど体育の先生が屋上に駆けつけプリントをばらまくのをやめさせた。マッスとあつし君が走ってこっちへやってくる。


 「おい、おまえ、大変なことになったな」マッスが息を切らせて言う。あつし君がプリントを指差す。


 「おれたちのバンドの名前も載ってる。青木田のやつ、ほんとにおれ達をエントリーさせてくれたんだ」


 ボクは目の前に落ちていたプリントを拾い上げて見つめた。パソコンで編集してあるのか勃起しているように見える。ボクが T-massの文字を探すと「あった。ここじゃない...?」と隣にいた三月さんがプリントをちょんちょん、とつついた。ちんこの先にエロ漫画の規制のように黒く線が入っており、その中に白く「T-mass」と書いてあった。


 「まるで文庫本のドグラ・マグラだな」デザインにマッスが感心したように頷く。


 あいつら、絶対殺してやる。ただし!ステージの上でな!!ボクは決意を新たにすると床に落ちたプリントを全部拾い上げ焼却炉へ持って行った。



 そしてその夜、ボクは篠岡冥砂に間接的にフェラチオされたことを思い出し、抜いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る