Track-9 20センチェリーボーイズ
「立ち上がれ大日本!勃ちあがれ!オレのチンポコ!」
ボクがギターをかき鳴らして叫ぶ。今日で三日連続でスタジオに来てる。ボクはアンプにつないだ時のギターの音に衝撃を受け、家に帰るとアニメそっちのけで「ギター 弾き方」「ギター 練習法」などの項目をググりまくった。すこしでも早くうまくなりたい。
もっとギターのいろんな「声」を聞いてみたい。そんな気持ちで衝動的にボクはページを読みあさった。ボクがCコードを8ビートでかき鳴らしていると急に音色が尖ったジャキジャキした音に変わった。マッスがアンプの設定をいじったのだ。へぇ、ギターってこんな音も出せるんだ。
「もっと色々やってみてよ」ボクがマッスにあごでサインを出すと今度は深みのあるシブい音色に切り替わった。ほほう、おもしろ!
「ポゥ!」マイケルジャクソンのように叫ぶとボクはギターをスタンドに立てかけ、水を喉に流し込んだ。2時間も歌うと喉がカラカラだ。
部屋の隅にあったランプがピカピカと点滅しだす。これは利用終了時間10分前を客に告げる合図だってことを昨日あつし君から聞いた。
ぼんやりとした感じでマッスが言った。「なぁ、バンド名、何にする?」それを聞いてボクははっとした。そういえばまだこのバンドの名前を決めていなかった。
ボクはなんとなく思いついていたバンド名を発表することにした。
「チェリーボーイズ・レボリューション、っていうのはどうかな?童貞達の革命、って意味なんだけど」
「却下。あつし、なんかいいのある?」
「うーん。ありがちだけどバンドメンバーの名前を一文字ずつとってつけるのはどうかな?」
「さっすが。地味男は考えることも平凡だな!」
「うっせ、だまれ!」
「とりあえずあつしの意見をとりいれよう。オレが鱒浦、こいつがティラノ。なんか良い感じにならないかな」
その時ボクに名案が閃いた。
「そうだ!痴漢車T-Massっていうのはどうかな!?」
「ティーマス...いいな、それ。痴漢車っていうのはいらないけど」
「ちょ、ちょっと!おれの名前が入ってないんだけど!」
あつし君が慌てて立ち上がる。ボクは哀れみの目を向けて言った。
「まぁ、あつし君はハイフンでいいじゃん。なんか地味だし、脱退しそうだし」
「そ、そんな...」
「あつし泣くなって。そんなことより残り時間があとちょっとだ。最後にみんな合わせてやってみっか」
マッスの呼びかけでボクらは今日最後の合同練習(ジャムセッションというらしい)をすることにした。合わせるといってもそれぞれみんな自分のパートで精一杯なので適当に思いつく発想で楽器を演奏するだけって感じだ。でもこのジャムをすると不思議と
「ああ、オレバンドやってる」という実感が沸いてきて充実感と満足感が得られるのだった。
あつし君がドラムを叩き始めるとボクはスタンドマイクに向かって話し出した。
「最後の曲になりました。武道館にお集まりの皆さん、聞いてください。『ボクの童貞をキミにささぐぅー』!!」
マッスが「またその曲かよ」という顔をしてベースを弾き始める。ボクはじゃかじゃかとギターを弾きながら歌い始めた。
初めてキミと会った時からしたいと思ってた、SEX SEX SEX
花に誘われるミツバチのように 迷い込むよ AN KNOWN ZONE
ボクの気持ち キミのめしべに ぶちまけちゃっても 問題ないよね? 訴えないよね~?
したい!見たい!痛い?SEX!
やりた~い そうさボクらお年頃だろ いまや小学生でもヤってる世の中
しまくり、しまくれ、ヤリまくれ!そしてそしてそしてボクのどーていをキミにささぐぅー!
じゃ~ん!じゃかじゃかじゃかじゃかじゃか、じゃ~ん!!ボクとマッスがタイミング良くジャンプするとあつし君が力強くシンバルを叩く。ボクらは「フゥ~」とテンション高くハイタッチをするとドアが開き「お時間になりました。退出お願いします」と店員が勝手に部屋に入ってきた。ボクが店員に抱きついて腰を振りながら「セックス!」と叫ぶと店員さんもちいさな声で「せっくす」と言い返してくれた(振り返るとかなり恥ずかしいことをした)。
「次からは時間内で機材を片付けてくださいね」という嫌みも忘れずに。ボクらが「いや~スッキリしたわ~」と言いながら部屋を出ると見覚えのある三人組が待合室に座っていた。青木田軍団だった。
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