第12話
というわけで、学園の外へ出る。
リストにある密売人をすべて倒したわけではないけど、生徒会長が「それはもういいから岩浦五十海を倒して来い」と言ったので俺は天之原と共に五十海のいる聖堂へと向かう。
学園の外は荒廃している……なんてことはなく、学園ほどではないが普通に住宅やお店が並んでいる。しかし、田舎感が拭えない風景であることには違いない。
いわく夕暮れ。空は茜色。
吹く風は涼しく気持ちがいい。
しばし歩けば見えてくる。三角屋根が特徴的なザビエル記念聖堂。
住宅街から離れた所にあるザビエル記念聖堂。周囲は雑草だらけで手入れなんてされていない。だから、聖堂もまた整備が為されておらず廃墟。
「本当にここにいるの?」
隣の天之原が首を傾げる。
「ここにいなかったらむしろどこにいるんだよ」
「すごい不気味なんですけど。幽霊とかでないよね?」
「出るわけないだろ。つーか、いるわけないだろ」
俺たちは聖堂へと足を踏み入れる。
こそこそするのは面倒なので、堂々と正面の入口から聖堂に入る。中に入れば長椅子がズラリと並び、前方には豪奢な祭壇。
そんな豪奢な祭壇に腰掛けているのは一人の少年。
「やっぱり来たか」
なんて独りごちるのは岩浦五十海だ。
「丘野がここのことを吐いたっていう情報が入ってきたからさ、涼梧くんが来るのも時間の問題かなって思ってたんだよね」
「なら、逃げればよかったんじゃないのか」
「逃げても、涼梧くんは僕を追うでしょ。なら、ここで一つけりをつけた方がいいかなって。僕が涼梧くんを倒せば、僕は逃げおおせることができると思うんだよね」
「俺が倒れても風紀委員がお前を追う」
「そうかな。最強を倒すことができれば、みんな怯んで僕を追うなんて考えないんじゃない」
「物事はそんなに簡単じゃない」
「ま、そうだね。だけど、姿を眩ませるのなんて簡単なことだよ。手段はいくらでもある。涼梧くんを退けて逃げさえすれば、こちらとしては何とかなってしまうものなんだ」
「逃がさねえよ。お前はここで俺に倒されるんだ」
「満身創痍でどうやって僕に勝とうと言うのかな?」
「俺はお前より強い」
「最強だから? うん、確かに僕は涼梧くんに勝てないよ。でも、それは涼梧くんが最強だから。だけど今の涼梧くんは本気を出せるほど体調がいいの? 違うよね。悪いよね、体調。たぶん、僕、涼梧くんに勝てると思うんだよね」
そう言って、五十海は刀を鞘から抜く。
「それに、そう簡単に負けるほど僕は普通じゃない」
五十海はさりげなくぶんと刀を振った。
すると、不意にびゅんと風切り音が響き、俺の肩口に切り傷ができあがる。
血が出た。少し痛い。
俺は驚いた。何が起こった?
「言ったでしょ。そう簡単に負けるほど僕は普通じゃないんだよ」
また、五十海は刀を振る。
風が吹き、見えない刃が迫りくる。見えないがゆえに俺は避ける術を持たず、その攻撃を受ける。
俺の身体は風によって傷つけられる。身体中に切り傷ができて、至る所から出血。傷自体はたいしたことないのに、そんな小さな傷が無数にあるがゆえに出血量は多い。
それに小さくても傷だ。ちくちくと身体中を小さな痛みが包み込む。
「ぐっ」と歯噛みし、顔を歪めたのは俺だ。
「次はバッサリ行こう」
そう言って五十海は刀を横に大きく振った。
集中しろ。目を凝らせ。さすれば見えるはず――そんなことはなく、風が、俺を攻める。
俺はがむしゃらに刀を振ってみた。だけど、風は俺の身体を斜めにばっさりと斬る。
浅くはない。深く、風の刃は俺の身体を斬った。
出血は多量。教会の床は俺の血で赤く染まり、血だまりを作る。
「ぐはっ」と吐血までして、俺は床に膝をつく。
「いくら涼梧くんが最強と言われていても首を刎ねれば死ぬよね。最強でも人間であることには変わりないから」
そして、五十海は刀を振り上げ――
――バン――
――刹那に銃声が響いた。
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