第11話
俺は、最強だった。
だが、俺の掴んだ栄光は無価値だった。
《デウス》の使用が発覚して、たったそれだけのことで最強は地に落ちた。最強の冠は俺の遠くへ行き、俺は最弱よりも醜い存在となった。
偽りの栄光はとても脆弱で、小さな罅で壊れてしまう。
「このままブタ箱に連れて行ってもいいけど、曲がりなりにもかつての最強。私は君を利用してあげる」
大斗乃結実生徒会長が言う。
「【白花の誉】は知っているかな?」
「反社会的勢力」
「そう。学校社会に潜む悪。詐欺的手法で利益を追及する組織だ。噂では、テロ集団のi国に武器を売っているとか言われている。我々はこれの扱いに非常に困っている。願わくば一掃したいところだが、思った以上に根が深くてそれは難しい」
i教過激派組織、i国。世界征服を掲げているテロ集団。世界の脅威だ。そこと関わり合いがあるとは、【白花の誉】はそんなにも大きな組織なのか。
「まさか、俺に【白花の誉】の一掃をしろとでも」
「いや、いくら君でもそれは無理だろう。そもそも奴らは沢瀉学園だけの問題じゃない。……で、【白花の誉】はいろんな方法で資金を集めている。i国への武器の密売もそうだし、危険ドラッグ《デウス》の密売もそうだ」
《デウス》と【白花の誉】は繋がっていたわけだ。あれ、ということは……俺に《デウス》を売っていた五十海って……。
「それで、君もそうだったわけだけど、この《デウス》っていうのが今かなり学生の間で流通している。《デウス》に依存している奴は君だけじゃないってことだね」
「俺にどうしろと?」
「一度流行ってしまったものを根絶するのは難しい。結局はその場しのぎになってしまうだろうけど、君にはこの《デウス》の密売人の元締めを潰してほしい。とりあえず、この流行に一区切りつけたいからね」
「元締めって誰だよ?」
「あ、やるんだね」
「やらなきゃいけないんだろ?」
「いや、別に無理強いはしないよ。ただ、この話を断ったときは、即刻ブタ箱行きなんだけどね」
「じゃあ、やるよ」
「ブタ箱は嫌かな?」
「当たり前だ」
「そう。じゃ、青葉ちゃん」
大斗乃先輩が九条先輩を呼び、九条先輩は大斗乃先輩に紙束を手渡す。そして、大斗乃先輩はその紙束を俺に手渡した。
「風紀委員に調べてもらったんだ。《デウス》の使用者とその密売人。そいつはそのリストアップだ。まあ、そこに載っているのがすべてではないんだろうけどね。で、一ページ目に載っている奴が元締めだ」
俺は表紙をめくり、一ページ目を見る。
「岩浦五十海。彼の顧客は君だよ、戌井涼梧」
一ページ目にあったのは五十海の名前、そして隠し撮られた彼の写真。
いや、話を聞いた時点で察しはついていた。【白花の誉】は《デウス》の密売をしている。ならば、俺に《デウス》を売っていた五十海は【白花の誉】の構成員なのだろう。
とはいえ、元締めというのは予想外だった。
でも、五十海ならすぐに見つかりそうだ。今から寮へ戻り、彼の部屋を訪れればすぐに捕まえられる。
「あ、たぶんなんだけどね」と大斗乃先輩は言う。「岩浦五十海はすでに姿をくらましていると思うよ」
「え?」
「そりゃあ、そうでしょ。顧客が捕まったんだ。すぐに逃げるに決まっている」
「でも、俺が捕まったことなんて……」
どうやって、五十海の知るところになるのだ?
「【白花の誉】の根は深い。風紀委員の中に仲間がいる可能性だって充分ある。風紀委員は君を捕まえることを知っているからね、風紀委員に潜んでいるかもしれない構成員が情報を流したかもしれない」
不意に、九条先輩のスマホが鳴って、彼女はそれに出る。そして二言三言、会話をして通話は終了。
九条先輩は言った。
「岩浦五十海の部屋はもぬけの殻だそうです」
「ほら、やっぱり」
「じゃあ、どうすれば?」
どうやって五十海を見つけて、彼を潰す?
「そんなの決まっている。見つければいい」
「いや、そんな無茶な」
「できなければブタ箱に行くまでだよ。それに、どうせだからさ、君にはそのリストにある密売人、全員を潰してきてよ。潰して回っていれば、岩浦の居場所もわかってくるんじゃないの?」
「他人事だ」
「他人事だよ。私は君じゃないからね。できたらそれでよし、できなかったら次の手を考えるまで。まあ、一応、期待はしておいてあげる」
「わかりました」
「うん。《デウス》なしで、きついだろうけど、頑張りな」
「え? 使っちゃダメなの?」
「これ以上、罪を重ねる気? これ以上、最強に泥を塗るつもり? 《デウス》なんてなくったって、君は強いんじゃないの? そんなことを言っていた気がしたけど?」
《デウス》が使いたいと言ってしまったあたり、俺はまだ《デウス》に依存をしているようだ。
しかし、それはダメなのだ。《デウス》を使って得られるのは偽りの強さ。
真の強さを手に入れるためには、真に最強になるためには、《デウス》との決別を覚悟しなくてはならないようだ。
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