第9話

【白化の誉】。


 天之原がホテルで言っていた言葉だ。


 俺にはこの言葉が何を意味するものなのかわからなかった。


 校内新聞。


 天之原はそんなことも言っていた。校内新聞に【白花の誉】に関する何かが載っているのだろうか。


 俺は寮へ帰る途中に、図書館に行って、フリーペーパーとして発刊している校内新聞を手に取った。


 図書館から寮へ帰る途中に、俺はそれを読む。とくに【白花の誉】という言葉に注目して。


 そして見つけた。【白花の誉】という言葉を。


『【白花の誉】 一掃は不可能か』


 そんな小見出しの記事があった。内容としては、【白花の誉】という反社会的組織があり、それは沢瀉学園に根深く潜んでいるとか。そして、根深いゆえにそれらを学園から一掃することは無理かもしれないと記事には書かれている。


 反社会的組織【白花の誉】。学校社会に反し、暴力、威力などを振りかざし、利益を追及する組織。


 なるほど。【白化の誉】についてはわかった。だけど、だから、何なのだ? 天之原はどうしてこの言葉を口にした?


 なんだかよくわからんな。


 まあいいか。


 俺は寮へ帰る。一日ぶりの自室で《デウス》を吸おう。



 ♢  ♢  ♢



 バッグの中には二袋の《デウス》を入れていたはずだ。


 先ほど、ラブホテルで《デウス》を吸おうとバッグを漁ったとき、《デウス》は一袋しか見当たらなかった。そのときはバッグの奥の方にあるから今は見当たらないだけか、と楽観していたわけだけど。


 寮の自室に戻り、改めてバッグの中を確認してみると、《デウス》は一袋しかなかった。どこかに落としたか? いや、そんな記憶はない。思い当たる節もない。


 いつまにか一袋消費しちゃった? いやいや、それなら憶えている。


 俺の記憶では一袋消費した覚えはない。


 どこへ行ったのだろうかと、少し悩んで、俺はすぐに諦める。


 一袋紛失したとか、そんなの関係なく俺は今ものすごく《デウス》が吸いたかった。最近、吸うことで得られる満足感の持続時間が短くて、すぱすぱと頻繁にヘビースモーカーみたいに《デウス》を吸ってしまう。さっき吸ったのに、俺はもう吸いたくなっている。


 煙管パイプを取り出して、《デウス》をセットして、俺はそれを吸う。


 吸えば満足になる。幸せになる。神様みたいな感覚に陥る。


 煙管パイプの葉片がなくなれば、また葉片を盛って火をつけて、吸って――そしてまたなくなれば、葉片をセットしてまた吸う。


 そうして《デウス》を嗜んでいると、不意に呼び鈴がなった。


 ――ぴんぽーん。


 時刻を見ると朝の十時。いったい誰だ? 自室を訪問してくる奴がいるなんて俺は聞いていない。


 吸いかけの《デウス》を捨ててから、俺は扉へ向かう。そして、扉を開ける。


 扉を少しだけ開けて、顔だけ出す。


 目の前にいたのは二人の男子。知り合いではない。しかし、腕章をつけていて、それには風紀委員と印字があった。


 風紀委員がいったい俺に何の用だ。怪訝に思っていると、男の一人が言った。


「風紀委員です。戌井涼悟さん、ちょっと一緒に来てくれますかね?」







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