第三章 その栄光に価値はあるか
第1話
目覚めれば、俺は最強になっていた。
決勝戦を終えた直後に俺は倒れて、その後、保健室に運ばれた。数時間ほど眠った後、目覚めて、そこで正式に戌井涼悟がサマーコンペティションに優勝したという報告を受けた。
俺は優勝した。優勝したということは、俺はこれで最強に返り咲いたと言うことだ。手放してしまった最強の冠は再び俺の頭に載せられた。
とはいえ、優勝を実感するというのはなかなか難しく、俺はまだ自分が優勝した実感を掴めずにいた。
保健室のベッドの上から窓を見遣ればもう夜で空は暗い。だけど、たぶん闘技場周りの出店はまだ出てて、後夜祭的な賑わいを見せていると思われる。
保険医からはもう少し寝てていいと言われたが、別にもう歩けるので俺はベッドから降りる。
《デウス》はとっくに切れていて、倦怠感が凄まじいが、もう慣れっこだ。足はふらつくが大丈夫。歩けないわけじゃない。寮へ戻るまでは保ってくれると信じている。頑張れ、俺の身体。
早く帰って《デウス》を吸いたい。その一心で、俺は歩く。保健室を出て、外へ出る。
ざわりと夜風が吹く。涼しい夜風なんだろうけど、そんなことを考えている暇も、感じている暇もない。
足が重い。身体が重い。足を引きずり歩く俺。
こんなのでも、俺はサマーコンペティション優勝者だ。
俺は栄光を掴んだ。
なのに、どうしてこんなにも、身体が怠くて、怠い身体を押して、俺は歩いているのだろうか。
俺は最強なんだろう? ならば、お迎えの一つでもあればいいのに。リッチにセレブに高待遇に、俺を扱ってくれないか。
夜に一人、怠さを感じながら寮へ帰るとか、これが栄光を掴んだ者のすることか。
気付けば寮へ帰り、自室へ戻っていた。
すぐに《デウス》へ手を伸ばし、煙管パイプでそれを吸う。
途端に、俺は調子を取り戻す。怠さは吹き飛び、頭はスッキリ。気分は幸せ、神が如し。
俺は最強だ。最強のはずである。
《デウス》に振り回される、最強だ。
最強?
俺は最強なのか? いや、最強のはずだ。最強でなくてはいけない。
たとえ、ひとつまみの葉片がなくても俺は最強だ。
だから、まあ、要するに、あれだ。
俺は最強だから、《デウス》を吸っても問題ない。うん、別に問題ない。
吸いたいから吸う。吸って楽しくなるから、吸う。
結論。
――幸せなら、それでいい。
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