第10話
俺は順当に勝ち進んだ。
なんだかんだで準決勝まで行き、本当に優勝が見えてきた。
準決勝
戌井涼梧vs.
相手の番井はこれまた上位ランカーの実力者。さすがにここまで来ると、雑魚はいない。名を連ねるのは上位ランカーの人間ばかり。
女性が相手でもやることは変わらない。叩きのめす。
《デウス》を吸って、試合に臨む。
『準決勝第一試合。戌井涼梧対番井香澄の試合を開始します。……試合を開始してください』
いきなりだった。
番井はこちらに
俺は咄嗟に鞘から刀を抜き、弾丸を斬る。
「あのへたくそに負けたくせに、私の弾丸は斬るだなんて」と番井が言った。
へたくそ。天之原のことか。
「あいつの弾丸は避けられなかったんだ」
不本意ながら。どういうわけか。俺は天之原奈月の放った弾丸を避けることができず、当たってしまった。
「それじゃあ、私の弾丸も避けられないわよね? ていうか、避けないで当たって。そして、負けなさい」
「やなこった」
そう毒づいて、俺は駈け出す。まっすぐ駈け出す。番井が持っているのはリボルバーだ。マシンガンみたいに一気にいっぱい弾丸が飛んでくるわけではない。
番井は素早く撃鉄を起こし、そしてまた引き金を引く。
放たれた弾丸は俺の足もとへ向かっていた。これは地面に着弾するな、と俺は踏んで、それを無視、気にせずに駈ける。――が、それが間違いだった。右足を踏み出したとき、その足の脛に弾丸が当たる。痛いと言うよりは熱く、しかし熱さを感じたその次には痛みが襲う。足の脛に受けた弾丸の衝撃で、俺はズッコケる。バカみたいに地面に伏して、これではまるで敗者の恰好。しかし、俺はまだ動ける。勝負はまだ終わっていない。
バン、と。発破音がする。うつ伏せになっている俺に対して番井が引き金を引いたのだろう。
俺はごろごろっと転がってそれを避けた。
弾丸は地面に当たって土埃を上げる。
俺は立ちあがる。しかし、右足の負傷により思うように動けない。
今まで番井が撃って来た弾丸は三発。リボルバーの装弾数は五~六発が標準だ。そう考えれば、残りの弾数は二~三発と見積もっていいか。
リボルバーは撃鉄を起こし引き金を引くことで弾丸が発射される。そして、引き金を引くことで発射される弾丸は一発。連射されるわけでもないし、一回で二発三発と発射されるわけじゃない。
このまま突撃してもいいのではないか。
突撃しているときに弾丸が飛んできても、俺はそれを刀で斬れる。
俺は足に力を入れ、駈ける。まっすぐ、番井に向かって走る。しかし、撃たれた右足を庇いながらの疾駆であるからスピードは出ない。
バン。
引き金は引かれ、弾丸が飛んでくる。俺は刀を振ってそれを両断。
バン。
立て続けに番井は引き金を引く。
弾丸は俺の頬を掠めるように、俺をスルーした。どこを狙ってんだよ。
弾数はあったとしても残り一発。
俺は着実に番井へ迫る。
番井は――笑みを浮かべている。
不意に。
俺の耳へ届くのは空を裂く風切り音。
「っ!?」
なんだ。この音は。横からだ。左横から聞こえて――俺は左に視線を遣る。
弾丸だ。
どこから来たのか知らないが弾丸が左横から迫ってくる。
いや待て。普通、弾丸とは放たれればまっすぐに飛んでくるものだ。番井は一度も銃口をこちら以外へは向けていない。いったい今迫りくる左側の弾丸はどこから放たれた――いや、そういえば、先ほど俺をスルーしていった弾丸があった。まさか、魔力を使って弾丸を曲げたのか。
なんにしたって、まずは迫りくる弾丸の対処だ。今、まさに俺のこめかみに迫りくる弾丸。早く対処しなければ、俺は頭に穴を開けることになる。
駈けるのをやめ、急停止。右足が痛む。しかし気にせず、俺は刀を振り、こめかみを狙わんとしていた弾丸を両断した。
そして、再び番井の方へ向こうとするが――
「はい、動かないで」
かちゃり、と。俺の後頭部に何かが突きつけられる。突きつけられているものが何かなんて予想するまでもない。
リボルバーだ。
俺が左から来た弾丸の対処に気を取られている間に、番井が俺の後ろに回り込みリボルバーを突きつけている。
「私としては、このままギブアップしてほしいんだけど?」と番井が言う。
「いやだと言ったら」
「引き金を引く」
彼女はそう言って、撃鉄を起こす。
「試合のルールを忘れたか? 意図的な殺害は禁止されている。今、お前に引き金を引かれたら、俺は頭に穴が開いて死ぬ。お前に殺されてしまう」
「知ってる。別に頭に弾丸を撃ち込むなんて言っていない」
「じゃあ、どこだよ?」
「ここ」
すると、番井は銃口を後頭部から移動させようと、腕を動かす。
俺はこれを見逃さない。
彼女が腕を動かす挙動を見せた瞬間に、俺はそれを感じ取りぐるっと振り返り、その振り返りざまに刀を振る。
金属音が響いた。
俺の振った刀は番井の持っていたリボルバーを弾き飛ばした。リボルバーは地面を転がる。
俺はゆっくりと刀を番井に突きつけて、
「初めから、撃ちこむべき場所にリボルバーを向けていればよかったんだ。わざわざ後頭部に突きつけて脅さなくても」
「だって、詰んだと思ったんだもん」
「さて、どうする。続行かギブアップか。斬られるか、否か」
番井はがくっと肩を落として、言った。
「負けを認めるわ」
その言葉が発せられた瞬間、アナウンスは勝敗を告げる。いつもの声で。
『勝者、戌井涼梧。敗者、番井香澄』
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