第9話

 朝起きて部屋中が散らかっていたけど、それよりも真っ先に《デウス》が空っぽなのに気がついた。


 これは部屋が汚いことよりも重大な事件である。


 俺は財布から一万札を取り出して、それを握りしめて岩浦五十海の部屋まで行く。


 ふらつく足で五十海の部屋のままで行き、その扉をドンドン叩く。


「はいはーい」と扉の向こうから声が聞こえて、がちゃりと扉は開かれる。


 五十海が顔を出す。


「あ、涼梧くん。どうした?」と言って彼は笑顔。


「《デウス》だ。これでどのくらい買える?」


 俺は一万円札を五十海に見せる。


「二袋だね。買うの?」


 俺は首を縦に振った。


「毎度あり」


 五十海は俺の手から一万円札を受け取り、一度部屋に引っ込んで、《デウス》を持って戻ってくる。


「はいこれ。《デウス》二袋」


 俺は五十海から攫うようにして《デウス》を受け取る。


 俺の様子を察してか、五十海が言う。


「今度からは《デウス》を切らす前に、買いに来なよ。切らしてから買いに来るから大変になるんだよ」


「そうさせてもらう。ありがとな」


 早口でそう言って、俺はすぐに自室へ戻る。


 吸いたい。早く吸いたい。


 俺は煙管パイプに《デウス》をセットし、点火して、ようやく一服するに至った。


 吸うや否や頭がスッキリして、気持ちがよくなる。何者にも代えがたい快楽が俺を包み込み、幸せにしてくれる。


 今日は、サマーコンペティション三日目、すなわち最終日。


 俺の名誉がどうなるか、今日で決まる。


 しかし、負ける気などしなかった。


 今の俺は神よりも強い。そんな気がした。

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