第7話

 二日目は六回戦まで行われる。


 そして、その六回戦がやってきた。


『六回戦第一試合。戌井涼梧対桟敷渓斗の試合を開始します。……試合を開始してください』


 アナウンスの声により始まる試合。対戦相手の桟敷渓斗は剣術科の人間で、上位五十位にランクインする強敵だ。


 ついにやりごたえのある奴と対戦できる。


 桟敷が持っているのは柳葉刀りゅうようとうと言われる刃の幅が広い片手刀。遠心力を使って斬りつけることで威力を発揮する刀だ。


 合図と開始に先に動いたのは桟敷の方だった。彼はぶんぶんと持ってる刀を振り回しながら、こちらに迫ってくる。


 俺は刀を鞘から抜いて、待ち構える。


 その瞬間。激突。


 大きく振り上げられた柳葉刀は勢いよく振り下ろされる。俺は刀を横にして、それを受け止めた。がしゃんと金属音が耳朶を打つ。


「っ」


 一撃が重く、俺は歯を食いしばる。


 俺は刀を払うようにして振る。桟敷もそれに合わせて後退し、俺と距離を取る。


 桟敷はぶんぶんと柳葉刀を振り回す。右手に、左手に、持ち替えながら振り回す。おそらく、こうすることでどこから刀が振られるか、惑わす魂胆なのだろう。実際、その挙動を読み取るのは困難。


 しかし、困難だからと言って諦めない。しっかりと見据えれば、刀の軌道を読み取れるはず。彼の挙動について行けるはず。できないわけがないのだ。俺は最強だ。これからも、ずっと最強でいる人間なのだ。


 桟敷が距離を詰めてくる。そして、彼の持つ柳葉刀は振られる。ぶん、と。真横から刀は繰り出され、俺はそれに咄嗟に対応する。


 ぎゃん、と。俺は俺の刀を柳葉刀に当て、その斬撃をいなす。やはり、衝撃は重く、俺は重心をずらされ、少しふらつく。だが、すぐに立て直す。


 桟敷は柳葉刀を振る。俺はそれをいなす。


 そんなことが何度か続く。


 俺もあいつも傷一つつかない。どちらかが傷付かなければ試合は進まない。決着もつかない。


 どこかに隙はないものか。


 願ったって見つかるわけはない。さすがは上位ランカー。そう簡単には倒せない。


 だけど、俺はお前を倒す。お前を倒せずして何が最強だ。


 ぎちち、と。鍔競り合いに持ち込む。俺は桟敷の顔をまじまじと見ることになる。


 桟敷が言う。


「どうした? ずっと俺の攻撃を受けてばっかだけど」


「お前が隙を見せないから、攻撃できないんだよ」


 と、俺は言って、足を上げて桟敷の腹を蹴った。


 桟敷は呻き、尻餅をつく格好になる。


「まあ、隙がなければ作ればいいんだけどな」

 

 俺は刀を振り上げ、桟敷に向かって振り下ろす。


 桟敷は柳葉刀を横にして、俺の斬撃を防ぐ。仕方ない。俺は数歩下がって彼と距離を取る。


 桟敷は尻餅の状態から、後ろでんぐり返しの要領でぐるっと回ってその勢いで立ち上がる。


 立ち上がり直後を狙おうと、俺は彼が後ろでんぐり返しをし始めた辺りから駈け出す。


 刀を振る。


 桟敷は立ち上がった直後で体勢も上手く整っていない。そんななか、彼は焦りの表情で柳葉刀を振り、俺の斬撃を防ごうとする。


 俺の刀と桟敷の柳葉刀が激突し、押されたのは桟敷の方だ。


 桟敷はふらつきながら後退する。俺はすかさず彼に迫り、刀を振る。桟敷はさすがと言うべきか俺の刀を振る速度についてきている。


 俺の振った刀が柳葉刀の刀身を火花を散らせながら滑り、桟敷の顔面に迫った。俺としてはこのまま目の一つでも潰そうかと思ったが、桟敷が身体を反らしたことでそれは叶わない。身体を反った勢いで桟敷は後退。俺と彼の間に距離ができる。


 睨み合う。


 桟敷の額から、うっすらと血が流れるのが見えた。さっき俺が振った刀が彼の額に触れたのだろう。


 数秒の間を取った後、合図もなく、俺と桟敷はほぼ同時に駈け出した。


 俺は桟敷と切迫したその瞬間に腰を低くさせる。ずざっ、と地面を滑り、俺は桟敷の後ろに回り込もうと試みる。


 上手く回り込めた。


 桟敷は咄嗟に振り返り、柳葉刀を振る。しかし、彼が柳葉刀を振るよりも速く俺が刀を振る。


 下段から上段へ、俺は刀を振る。


 桟敷の柳葉刀は間に合わなかった。


 俺は桟敷の胴体を下から上へと斬り上げた。俺の刀は桟敷の皮膚を肉を血管を裂く。


 桟敷は切り口から血を噴き上げる。噴き上がった血は雨のように地面を穿った。そして、血の雨が降ったと同時に桟敷は膝をつき、倒れた。


『勝者、戌井涼梧。敗者、桟敷渓斗』


 アナウンスは相も変わらず無機質な声で勝敗を告げた。






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