第4話
闘技場でサマーコンペティションのエントリーを受け付けているらしいので、そこへ行く。
ピークは過ぎているようで、エントリーの受付場所に人が並んでいることはなかった。手早くエントリーを済ませ、俺は今度こそ寮へと戻る。
不意に、肩を叩かれる。
振り返れば先ほどの家畜牛みたいにピアスをじゃらじゃらつけた男がいた。仲間を引き連れて。
「やっと見つけた。てめぇ、さっきはよくもやってくれたな?」
一人じゃ勝てないから、仲間を連れて報復へやってきた。そんなところなのだろうか。
俺が最強として君臨し続けていれば、まったくこんなことにはならなかったのに。天之原奈月にはつくづく腹を立てるしかない。
五人。ピアス男を含めて五人の男が俺の目の前にはいる。しかも、五人とも武器を持っている。刀剣、銃、
これは、あれだろうか。この五人と戦う流れになるのだろうか。
「やってくれたなって言うけど、お前が俺に絡んできたから、俺は返り討ちにしただけだ。俺、なんか悪いことした?」
「うるせえよ。最弱に負けたくせに」
また、それを言うか。
「なんだよ、その顔。文句あるか? 事実だろ。元最強」
むかつくな。挑発だとわかっているけど、事実を言われるとやはりむかつく。
とはいえ、相手は武器を持っているが、俺は今、武器を持っていない。ここで挑発に乗って喧嘩をすれば、分が悪いのはこちらだ。一人なら武器なしでもいなせるが、さすがに五人はきつい。いなせないわけではないけど、正直、疲れるのでいやだ。
「俺、武器持ってないんだけど」と言ってみる。
「あ? いらねえだろ。お前自身はまだ自分が最強だと自負してるんだろ? 最強なら武器なしでも上等だろ」
「挑発はもういいよ。お前らを相手にしてる暇ないんで。俺はここで帰らせてもらう」
言って、俺は踵を返す。
俺には録画したアニメを見ながらネットサーフィンをするという用事があって忙しいのだ。
と――刹那。
俺の横を一筋の閃光が走る。
その閃光は俺の横を通り過ぎ、植樹に当たりドカンと音を立てて煙を上げる。
「そのまま帰すと思うかよ!」
言って、ピアス男が先陣を切って、こちらに迫ってきた。
ピアス男は剣を振るう。両に刃がある西洋の長い剣。ロングソードというやつだ。男はロングソードを振り上げ、全力でこちらに斬りかかってくる。
ロングソードは振り下ろされる。
俺は横に移動することで、それを避ける。ロングソードは全力で地面を叩き、鈍い金属音を響かせた。
ピアス男は顔をしかめる。ロングソードが地面を叩き、その振動が手に伝わり、手がしびれたのだろう。
俺はそんな男の手を掴み、その手に膝蹴りを加える。手がしびれて力が入らないこともあり、男はすんなりとロングソードを手離してくれる。
俺はロングソードを手に取る。そして、その柄を使い、男の首筋を殴打する。それだけで、男はふわっと脱力して、地に伏した。
口だけは達者というのは、こういうことを言うのだろうか。
残りの四人は怯んでいるのか、険しい表情を浮かべている。ダガーを持った男、刀を持った男、銃を持った男、杖を持った男がいる。
すると、そのうちの一人、銃を持つ男がそれをこちらに向けてきた。
銃口が煌めき、閃光が放たれる。
だいたいこのようなレーザー光線は魔力を圧縮したものを撃ち出していることが多い。圧縮することでレーザーのように見えるのだ。魔力に対抗し得るものは魔力だ。俺は魔力をロングソードに注ぎ、高圧縮魔力を反射させる組成のコーティングを施す。
高圧縮魔力――レーザー光線はこちらへ迫る。俺はロングソードを振った。
レーザーとソードは激突し、ソードによりレーザーは払われる。ソードに当たってレーザーは屈折し、俺の横の植樹の根元へ飛んでいき、当たり、土を掘り返し、土煙が舞い上がる。
辺りがざわめき始めた。気付けば、あらゆる人々が俺たちを囲うようにして、観ている。やれー、やっちまえー、なんて声が聞こえてくるに、観戦者たちは完全にこの状況を楽しんでいるのがわかった。
俺はロングソードを構える。これはもう残りの四人も無力化させなきゃ終わらない。
四人は四人とも今もまだ怯んでいる。
なんだよ、これは。お前らから吹っかけてきた喧嘩だぞ。ちゃんとやれ。
誰も来ないのなら、こちらから行かせてもらう。
俺は、駈ける。
一瞬で間合いを詰めて、とりあえず近くにいた杖を持つ魔術科の学生へと斬りかかる。だが、間に男が割って入ってきて、魔術師を斬るには至らなかった。
そうか。なら、ダガーを振るうお前からにしよう。
俺は一度後退して距離を取り、もう一度間を詰める。
ロングソードを俺は振る。しかし、何度振ってもダガーの男を斬るには至らず俺の剣はダガーに阻まれる。
そのとき、右側に銃を構えている男を俺は横目で視認する。銃口が煌めく。そして放たれる高圧縮魔力の光線。
ちっ、と舌打ちをして、俺は後退。そのおかげで光線が俺に当たることはなかったが、避けてなかったら俺の頭は吹っ飛んでいた。つーか、マジで殺す気でかかってきているのか、こいつら。
ビビってるくせに調子に乗るな。
突然に。
背中に違和感を覚える。
振り返れば、刀を持った男がいた。
俺は後退した先で、刀を持った男に背中を浅く斬られたようだ。
雑魚のくせに。俺に傷を与えるのか? 痛みを与えるのか?
カッと、頭が熱くなり俺は手加減とかそういうのが考えられなくなる。
俺はぐるっと振り返り、振り返りざまにロングソードを振り、男の胴より下を斬り落とすつもりで腹部を斬る。だけど、そうはならなかった。胴体は繋がったままである。とはいえ、血がいっぱい出た。俺の持っているロングソードには血が滴っている。切り口からも血が噴き出し、地面に血の池を作る。瞬間的に大量の血を出したためか、刀を持つ男は意識を喪失させている。いや、死んだか。まあ、どちらせよ、まず一人、無力化に成功。
残り三人。
厄介そうなのは、遠距離からの攻撃が可能な銃を持つ男と魔術を扱う杖を持つ男。
ならば、この二人の無力化を優先させる。ダガー男、お前は最後だ。
銃口が再び煌めき、光線が放たれる。
俺は腰を低くし、その光線を避ける。光線は俺の頭上を通り過ぎる。
俺は自らの脚に力を加える。魔力による補強も加えて、俺は一息で銃を持つ男との距離を詰め、彼の懐に入る。入り、ロングソードを下段から上段へと振り上げるようにして振る。ロングソードは男の胴体を斜めに斬り上げ、傷を作る。傷口から出るのは血。ただし、こんどは浅く斬ったため、言うほど出血はなかった。だけど、痛みで銃を持つ男は気絶する。これで残り二人。
俺はこのまま杖を持つ男――魔術師の方へと迫った。
しかし、またもやダガーを持つ男が俺の行く手を遮る。お前は最後だ。そう決めたはずなのに、そんなに死に急ぎたいのか。
魔術師の男の方へ一瞬目を遣ると、杖を中心に魔法陣が展開されているのに気付く。
なるほど。魔術の準備が整うまで、このダガーの男が時間を稼ぐというわけか。
どんな魔術か知らないが、なんにしたってそうはさせない。
ダガーは短剣だ。おかげさまで男の動きはすばしっこい。こちとら長いロングソードだ。そもそも、これは馬上で使うための剣だ。地上で振るうのは結構疲れる。俺は疲れていた。
武器を変えるか。
俺は剣術科の人間だし、実家は剣術の継承している名家。変えるとすれば刀だ。さっき腹部を斬って倒した男が持っていた。
俺はその男の方をちらっと見る。隙を見て、あそこまで走るぞ。
ダガーとロングソードの鍔迫り合い。がちゃがちゃと、俺も男も辛抱強く拮抗する。
先に動いたのはダガーを持つ男の方だ。しびれを切らし、体勢を変えたいのか、一瞬、動く。隙ができた。俺は走って、刀を持つ男が倒れているとこまで行く。
当然、ダガーの男は俺を追いかける。
俺はロングソードを捨てて滑り込むようにして、刀の男のもとまで行き、その手から刀を奪おうとするのだけど、血がこびり付いていて刀が手から離れない。
「くそっ」
毒づいても刀は取れない。
ダガーの男は迫ってくる。
焦るな。刀から一本ずつ指を引き剥がす。素早く冷静に。
よし、取れた!
俺は刀を持ち、迫ってくるダガーの男と相対する。
男はすでに俺の眼前にいた。俺は低い体勢から居合の要領で刀を振る。
一瞬の交錯。
俺の刀はダガー男の横っ腹を斬る。
「ぐぁがっ」
変な声を上げて倒れたのはダガーを持った男の方だった。
しかしまだ終わっていない。
杖を持った男の魔術発動を止めなくて。しかし、もう焦る必要はない。
俺はダガーの男からダガーを奪う。
魔術師の方を見遣れば、彼は何がおかしいのか笑みを浮かべている。
「これで終わりだ」
魔法陣がこちらを向く。
いったいどんな魔術が放たれるのか興味はあったが、俺は先ほど奪ったダガーを魔術師の男に対して投げた。
あっけなく、俺の投げたダガーは魔術師の男の首元に刺さり、鮮血を噴き上げた。
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