第2話
沢瀉学園は初等部から高等部まである超マンモス校である。そういうこともあり、学園というには大きすぎる敷地を持っており、それはもはや一つの都市とも言える。だから、学園内には街がある。お店が軒並み連なっているストリートが存在する。
マーケット区画、M区画と言われるそこへ俺は繰り出した。昼飯を食べるためだ。
一学期末実技試験はもう終わっているので、今は夏休みに突入している。そのためM区画は人でごった返していた。リア充とかいう人たちがいっぱいいた。きゃっきゃうふふと、こちらの気も知らないで手を取り合って歩いている。つーか、身体寄せ合いながら歩いているけど暑くないのか、お前ら。ただでさえ暑いのに、こんなに人がいれば汗がダラダラ出るのも納得である。
暑い。蝉うるさい。リア充爆発しろ。
涼む意味合いも込めて、俺は適当に見つけたハンバーガーショップに入った。ウィンと自動ドアの向こう側へ行けば、世界が変わる。冷気の込められた店内は俺の体温を下げ、俺は涼しさを感じる。カウンターでテリヤキバーガーセットを買って、店内で食べる。ここもやはり周りはカップルや友達同士で来ている団体ばかり。
そりゃあ俺だってついこの前までなら、あの中に入れたんだろうけど。なにせもう最強ではなくなった。最強である俺の傍について甘い汁を吸いたい奴らは、ほとんどみんな俺のもとを去った。だから、夏休みだと言うのに俺は一人で昼飯を食っている。
「あれー、おひとりー?」
最強でなくなったことで取り巻きは去ったけど、最近よく絡まれる。
テリヤキバーガーを食ってると声がして、振り返ると貴金属をチャラチャラとぶら下げているセンスのおかしな男がいる。耳にピアス、唇にピアス、鼻にピアス。なんだよ、こいつ、どこの牧場からやってきた家畜牛だよ。つーか、校則違反だろ、それ。自分の強さもわきまえず、俺に絡んでくるなんて。
「ちょっと表出ろよ」と男は言う。
「なぜ?」
「言わなきゃわかんねえのかよ、この雑魚が。あの最弱に負けたくせに、いつまで最強を気取ってんだ」
俺が最強であることにみんながみんな納得しているわけではない。中には俺が最強であることが気に喰わない奴もいる。自分の強さを勘違いした自信過剰のバカのことだ。
今まで俺は最強だったから誰も歯向かってはこなかった。しかし、俺が最弱の彼女に負けたことで、俺のことが気に喰わなかった奴らは鬱憤を晴らすかのように俺に立ち向かってくる。最弱にも倒せたのだから、俺/私にだって倒せるはずだと意気込んで。
「はあ」と溜息を一つ。俺が彼女に負けたあの日以来、何度か絡まれたことがあった。だから、こういうのは慣れている。「飯を食ってからでいいよな」
「ふざけんなよ! 舐めてるのか?」
「舐めていると言えば舐めている」
刹那、男は俺の胸座を掴み上げる。バーガーが喉に詰まりそうになる。
周囲は小さな悲鳴のようなものを上げる。がやがやとした空気は一瞬で静かになる。嫌な注目のされ方をしている。店員さんもこちらを見て、困ったのような顔をしている。
ここは素直に表へ出よう。
「わかった。お前に従うから、手を離してくれ」
「うるせえ!」なんて声を荒らげながら、男は拳を振り上げる。店内で始めようというのか。
派手にやらかしたら大変だ。
俺はすかさず足を振り、男の股間を蹴り上げる。
「うおぅ! ぐぅ……っ」
変な声を上げて、蹲る男。喧嘩をしようっていうのなら、プロテクターの一つでもつけておけ。
「雑魚はどっちだよ、まったく」
このまま食事を続けるわけにもいかなくなった。あまりにもここに居た堪れなくなったから、俺は店を出た。
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