第一章 負けた最強の末路

第1話

 二〇一四年。イラク・シリア両国の国境付近でi教過激派組織が国家樹立を宣言したことでi国が誕生した。その国家は、その後、イラク・シリア・レバノンを支配するに至った。i国がここまで勢力を拡大したのには一つ理由があり、いわゆる超能力者を戦闘に導入したことが挙げられる。超能力者は向かってくるあらゆる兵器を蹴散らせて、その強さを外敵に知らしめた。そして、その超能力者を持つi国は勢力を拡大していった次第である。


 このi国の一件で超能力者の存在が世界に認知されることになり、当然のことながら研究が進んだ。


 それによれば、超能力者は謎の成分を分泌する機構を備えているらしい。それが超能力の源らしい。その成分の詳しい内容は今でもわからないが、便宜上、魔力と名付けられ、それを分泌する機構はすなわち魔力分泌機構と称されることになった。そして、その魔力を自在に制御する能力を持った人が超能力者になれるらしい。


 その発祥がいつなのかは未だに不明だが、魔力分泌機構を備えた人間は突然変異的に少なからず誕生しているらしかった。


 魔力分泌機構を持った者同士が交配して子供を産めば、その子もまた魔力分泌機構を備えることから、魔力分泌機構は遺伝する。


 つまり、時が経てば、全人類が魔力分泌機構を備えるに至るわけである。


 少なくとも、俺――戌井涼悟がいるこの時代の人類は基本的にみんな魔力分泌機構を備えている。そういう時代になったのだ。


 i国も未だに健在。i国は世界征服という荒唐無稽な目標を掲げ、各地でテロを実行している。そもそも国と自称しているが他国から国家の承認を得てはいない。世界征服という荒唐無稽なことを言っているが、テロ行為をしていることもあり世界各国はこれを脅威として捉えている。


 i国という大規模組織に対抗するという名目で、世界各地は魔力を自在に操る超能力者すなわち魔力使いの育成に乗り出した。


 日本だってそうだ。


 日本には四つの育成機関があり、俺が通う沢瀉学園はその一つで、本州最西端に位置している。初等部から高等部まである全寮制の学園で、主に西日本の魔力使いが集う学園だ。


 沢瀉学園には三つの学科があり、それぞれ剣術科、魔術科、銃術科である。


 魔力使いは、学園入学時、それぞれの適性に合わせてその魔力をどのように使うかを決められる。剣術に魔力を注ぐか、魔術に魔力を注ぐか、銃術に魔力を注ぐか。俺は実家が古くから続く剣術を代々継承していることもあって剣術科に在籍することになった。


 昔から刀を振っていたこともあり、学園入学時点で俺はそこそこ強かった。魔力の扱いにしたってすぐにコツは掴めた。初等部のときは、さすがに低、中学年のときは一番になれなかったが、高学年になれば初等部で最強になることができた。中等部に上がれば、俺は一年生のときから最強だった。一回もその座を他人に渡すことなく中等部は卒業した。学園始まって以来の快挙とかそのときは言われた。高等部に上がっても俺は最強だった。一年生ながら上級生を抑えて最強の座に君臨した。しかし、そこまでだった。思い出すだけで腹立たしい一学期末の実技試験。なんてことはないはずの二回戦で俺は敗北した。あの屈辱は夢に出てくるくらいだ。だいたい今日もその夢を見た。だから、寝起きは最悪だ。


 天之原奈月。


 最弱と言われる彼女に負けた。


 彼女は魔力分泌不全症と言われる魔力の分泌量が少ない障害を持っているらしい。魔力の分泌量が平均より少ないくせに、魔力使いの才はあるので沢瀉学園に通っているようだ。


 魔力使いたちは魔力を使って超人的な力を出すのだから、魔力が少ない彼女は超能力の威力が弱い。しかも、剣術、魔術、銃術、いずれのスキルもないらしく、本当の本当に最弱。一応、銃術科に在籍してはいるものの弾が的に当たらないなどはざらにあり、成績は悪いらしい。


 本当になぜ俺は負けたのだ? 弾を的に当てられない彼女の弾丸をどうして俺は受けてしまったのだ。避けられるはずだった。なのに、当たって、俺は倒れた。


 負けたあの日以来、俺はいらいらしっぱなしだ。まだ十円ハゲができるまでには至っていないが、このままいらいらし続ければ、俺の髪は神速の如く飛んでいく。


 いらいらしていたら、もう昼である。


 時刻を意識するとお腹が空いてきた。何か食べに行こうかな。

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