学園最強であるはずの俺はなぜか最弱の君に勝てない
硯見詩紀
序章
序
『勝者、
闘技場内に響くアナウンスは無情にも俺の敗北を宣言していた。
その二回戦で、俺は負けた。
自分で言うのもなんだけど、俺の実力を以てすれば優勝することはほぼ確実だった。だって、去年――俺が高等部一年生のときの学期末実技試験でも、俺は優勝していたのだから。一学期末、二学期末、三学期末。いずれにおいても俺は一年生ながら優勝し、最強の称号を手に入れた。だから、二年生になっても俺は最強でいられるはずだった。
なのに、二年生になって初めての一学期末の実技試験、それも二回戦という早い段階で俺は負けてしまった。しかも、最弱と言われている天之原奈月にどういうわけか負けてしまった。
俺と同学年である天之原は銃を使う女子だ。対する、俺は刀を振る。刀と銃なら、銃の方が有利かもしれない。だけど、俺は最強だからそういう有利不利は超越しているはずだ。
いったい何が起こったのか。
二回戦が始まり、すぐさま一発の銃声が耳を劈き、気付けば俺は倒れていた。
俺の胸の辺りを銃弾は貫き、瞬時に熱さに似た痛みが俺の全身を駆け巡り、俺は動けなくなった。胸の辺りを貫かれてなお俺が生きているのは、きっと天之原の温情だ。彼女はわざと弱点を外して、弾丸を俺に当てたのだ。まあ、ルールとして意図的に相手を殺害することは禁じられているから当然か。
とはいえ、いっそのこと殺してくれればよかったのにと思う。
最弱に負けた最強は、最強ではない。
今まで築き上げてきた最強の礎は、最弱の手で瓦解した。
どうして? なぜ? なぜ俺が負けるのだ? 俺は強いはずなんだ。一年生のときに上級生をも抑えて一番になった俺だ。最強で無敗を誇り続ける自信があったのに、どうしてここで俺は最弱に負けるのだ? そもそもどうして最弱のくせに俺を負かすのだ? 最弱は最弱らしく負けていればいいものを。
胸の辺りがもやもやする。いらいらする。マグマみたいなドロドロしたものが俺の心中で渦巻いて、カッと湧き上がる。これが怒りというものなら、俺は何に怒っているのだろうか。悔しいのだろうか。そうだろう、悔しいのだろう。最弱に負けてしまったことで最強の誇りとか自尊心とかプライドとか、そこら辺の諸々が傷つけられて悔しくて、むかつくのだ。赦せないのだ。誰を? そんなの決まっている。こうなったのは天之原奈月の所為だ。憎いのだ。俺を負かしたあいつが、俺は憎いのだ。
いらいら。いらいら。いらいら。いらいら。
どこまで行ってもいらいら。
最強の冠を失った俺は、いつかその冠を取り戻す決意をする。このいらいらを失くすには、もう一度最強になるしかない。
どんな手を使ってでも。
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