第三章‐2『全速前進DA』
3
そこで、
では、健闘を祈る。
――という命令を受け、現在、七城市のガーディアンである
「阿波乃リーダー、この事件、どう思います?」
黒髪の女性、奏多深優が尋ねた。
それに運転をしている渉が答える。
「とても嫌な予感はするな。この前の電車の事件といい、いくらなんでも事件の間隔が短すぎる。もしそこにアイツがいれば間違いないだろう」
「アイツ、というのは榊原君のことですか?」
「そうだ。先の電車の暴走事件。それは榊原結城を狙ったものだった。そして今回もそれなら、アイツはとても危険な目に合っているに違いない」
「ふひひ、いいゾ~これ。渉×結城は最高の組み合わせ。異論は認めない!!」
と、訳の分からない言葉を吐く美樹に、深優はドン引きしていた。
最近になって七城市のガーディアンになった彼女は、その場にいたガーディアン一同を引かせていた。いわゆる腐女子、オタク、それに該当する美樹をどこかしらおかしな人を見る目で見ていた。
だが人間、馴れる生き物のようで一緒に仕事をしていく中で段々と気にならなくなっていた。案の定、渉は美樹に対してのスルースキルが格段に上がっている。そして彼の妹である茜は美樹のことを気にかけている始末。
この奏多深優は一向に美樹のことを好きに――もとい馴れることはなかった。
なぜだか彼女の言っていることが理解できてしまう自分が嫌になってしまったからだろうか。
「藤坂さん、少し黙っててもらえますか?」
できる限り笑顔を絶やさないようにしているが、今回は無理だったらしい。引きつった顔になっているその表情は、美樹を引っ込ますには十分な威力を持っていた。
「さ、サーセン」
「ったく。では急がないとダメですね」
「そうだな――」
そのときだった。目の前でとんでもないことが起きたのである。
交差点で、自動車の衝突事故。フロントバンパーがひしゃげ、エンジンルームが軽く潰れ、フロントガラスはひび割れて真っ白になり。車内はエアバッグが飛び出していた。
しかし、事故を起こした自動車は交通ルールを破ったわけではない。どちらの車も、信号無視などしていないのだから。
「なんだこれは?」
車から降りて現状を確認した渉は思わずつぶやいてしまった。
「信号機が、すべて青だと!? なぜこんなことになっている!! 奏多、交通管制センターに連絡を!」
「すでに連絡を取っています。少々お待ちください」
深優は取り乱すことなく、常に落ち着いた様子で電話を片手に交通管制センターに連絡を取っていた。表情が少し歪みはするものの、声色は変わらず冷静。
「阿波乃リーダー。この混乱は警察の方で対処するそうです。我々ガーディアンは、当初の任務であるオーシャンリゾートに向かうように、と」
「そうか。しかし歩きでは少々遠いが……やるしかあるまい」
「どうして、こんなことが?」
「おそらく時間稼ぎだろう。よっぽど俺たちをオーシャンリゾートに近づけさせたくないらしい。だが、そんなことをされれば意地でもそこに行きたくなるというもの。奏多、藤坂、申し訳ないが軽いマラソンに付き合ってもらうぞ」
「わたしは大丈夫ですが……その、藤坂さんが」
「こ、ここはわたしに任せて先に行け!」
いったい何を任されたのだろうか。ここは警察が請け負い、自分たちガーディアンはオーシャンリゾートに一刻も早く到着しなければならないというのに。
いや、いかにもインドア派な美樹にマラソンを要求すること自体が間違っている。
でもここで彼女をやる気にさせる魔法の言葉を渉は知っている。
「無事完走できれば、お前が前から欲しがっていた例のクソ高い同人誌、買ってやらんこともないぞ。オークションで落札できるまで入札し放題だ」
「なん……だと……」
深優は頭を抱えた。だが、これで彼女がやる気になってくれるなら万々歳である。
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。やります。ボクは走ります!」
なぜか一人称がボクになっているのは気にしない。深優も渉も、スルースキルが身についているからだ。
「いくぞぉぉぉぉぉ!! 全速前進DA!」
なぜか、美樹が一番やる気になっている。パワーの源は同人誌らしい。
なんとも腑に落ちないが、渉たちは美樹の後ろを走る。
目指すはオーシャンリゾート。
その道のりは、とても長い。
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