【序章:3】【属性】のあらましと【無属性】について

 円を描くように24種類のジョブがそこに表示されていた。

 あと、右下の枠外のところに【ランダム】とか書かれている。意味がわからない。


「これはまた、ずいぶんと多くあるな。……説明を聞いて選ぶのに時間がかかりそうだ」


 すごいな。中二病とか全開じゃないか。どれ一つとして現代社会の礎となっている職はない。……と思ったら薬術士さんがいる。現代風にいって薬剤師ってところか。

 って、【侍】がいるうううううううっ!!!

 うぉぉぉぉい!!!! あと【海賊】!!! なんでやねん!!!

 幸い手があるので、びしっと突っ込ませていただく。びしっ!


「どうかなされましたか?」


 イザベラは至極まじめに対応してくる。

 どうしよう。頭を抱えたいのに頭がないや。こんなものに命賭けなきゃいけないのってなんかやだ。

 まともなんだか、まともじゃないんだか。異世界ってどうなってるの?

 それとも俺がおかしいのか?


「いやなに、ただの考え事だ。続けてくれ」

「はい。まず、あなたには――」

「ちょっと待った。やっぱり一回はつっこんどきたい。なんでやねん。何でそんなよくあるジョブばっかりやねん。ゲーム脳か。中二病か」


 ああ、結局つっこんでしまった。コミカルに両手を使ってつっこみ入れてしまった。


「このジョブの多くは、あなたがた【選出者】が創り出したジョブになります。【転生】を行えると、その数はもっと多くなるのですが」

「まだあるんだ……」

「はい。まだまだ多くの特別なジョブがあります。ただし、それぞれの種族専用のジョブになりますが」

「あーなるほど、エルフならエルフにしかなれないジョブがあるってわけね」

「お知りになりたければ、先ほどの項目に戻り、【転生する】【エルフ】【ジョブ】のスロットに小玉をはめ込めば、ジョブの一覧を知ることができます」

「あー……、それはいいや。それより【転生する】で新世界に入った連中の割合を教えてくれ」

「わかりました。……全体的に62%が【転生】して、新世界エレクザードに入りました」


 結構多いな。


「ちなみに俺たち【選出者】ってのは老若男女問わず、選ばれるものなのか?」

「はい。ただ、【規約】がありますので、選ばれるのは意思疎通の行える年齢から、同じく意思疎通が可能な老人まで、様々な国の方々が【選定】され、ここにいらっしゃいます」

「なるほどな。ある程度の年齢以上の人間にしてみたら、記憶を持っての生まれ変わりは、願ってもないチャンスでもあるだろうからな」


 いくらなんでも80歳以上の老人が現役の戦士になろうなんて思わないだろう。

 俺でもあきらめて【転生】する。イケメンハイエルフのすっげーっ位の高いヤツにでも。

 そのままの年齢で通用する年齢層は十代からせいぜい三十代だろう。……だとしてもこっちの世界への帰還を犠牲に転生なんて選べるものなんだろうか。

 …………。


「じゃあ、現在新世界にいる【選出者】の転生割合を出してみてくれ」

「はい。……77%ですね」

「ほぉ……。だいぶ増えているんだな…………そうか、【女性】か。イザベラ、【選出者】の男女比はどうなっている?」

「以前に【規約改正】を行っており、全体の数値は出すことはできません。規約改正前では5:5。規約改正後では7:3で男性が多いですね」


 なるほど。

 転生を選ばなくて入った連中がことごとく死ねば、そりゃ転生割合も増えるわな。

 あと、男女比が改正されたとかって、なんか自殺率と転生率の因果関係に直結していて、そういうとこにも根深い感じがするんだよね。

 イザベラが俺たち【選出者】の顔を見ようとしないってのも、何かあるのかもしれない。

 考え過ぎか。


「じゃあ、イザベラ、改めてジョブのことを教えてくれ」

「はい。では、どのジョブのことをお聞きになりたいですか? ただ、各ジョブの知識は、やはり小玉をスロットに入れていただかないといけません」

「がめついなぁ。……これ全部の情報を引き出すだけでも24個もいるのか。まだ【一般スキル】のこともあるんだし無駄遣いはできないな」


 ずらっとあるジョブ眺める。

 もう少し若ければ、というか、ゲームオタの頃だったなら、想像だけで、もだえ狂っていただろうな。三日ぐらい想像だけで楽しめそう。

 ……あっと、時間制限がかかってたんだっけか。

 俺は隣の【砂時計】に目を移した。余談余談で結構時間が経ったのか、もう少しで中の砂が全部落ちてしまいそうだ。

 焦りは禁物だとしても、あまり余計な時間は使えない。

 ――と、俺はあることをひらめいた。


「ならイザベラ、今、新世界にいる【選出者】の【ジョブ別割合】をだしてくれるか?」


 100人中、何人がどのジョブでってわかるため、参考にしやすい。


「残念ながら【規約】により、現在新世界エレクザードにいる他の【選出者】の情報を明かすことはできません」

「そうか……。まあ、そうか。なら、今までに目的を果たしてきた【選出者】では、なんのジョブが多かったんだ?」


 引いて駄目なら押してみろ。

 石橋も叩いて渡った方がいいに決まっている。先人たちの知恵に期待しよう。


「【剣士】でしょうか」

「ふむ。なら参考程度に剣士に入れてみるか。ほい」


 俺は間髪入れず【剣士】のスロットに小玉をはめ込む。

 小玉は赤い光を点灯させ、その下にあった文字を浮かび上がらせた。


【剣士】

・識別色:緑

・オーブスロット:片手剣・両手剣

・特性:HP中上昇・腕力小上昇・敏捷性小上昇

・短所:魔力属性に耐性の偏りがある。毒属性にやや弱い。

・アビリティ:盾装備

・基本スキル:両手持ち


「【剣士】は攻防バランスが良く、スキルも充実しています。メリットデメリットの溝も深くありませんし、村や町でも歓迎してくれるでしょう。剣士全体の79%が剣士でよかったと答えています」

「おおー。なかなかいいな。で、この【オーブスロット】ってのは何だ?」

「【オーブスロット】というのは、【選出者】のみが扱える【オーブ】を、はめ込むスロットがある武器のことを指します。剣士であるなら剣になりますね。あなたが小玉を各スロットにはめ込んでいったように、剣士には剣士にだけ扱えるオーブ。そしてそれををはめ込むことができるスロットが剣なのです。剣士は、その剣で魔物を狩ることで魔力を吸収し、ジョブLvをあげることができるというわけです」


 簡単にまとめると、剣士だからって剣しか装備できないってことはないが、そのほかの装備じゃ、経験値がたまらないから、レベルアップできないと。

 イザベラに確認を取ると、だいたいあってる、という答えが返ってきた。


「なら、【識別色】ってのは?」

「識別色は、それぞれのジョブに色をつけ、わかりやすくしたものです。あなたにもジョブが決まり次第、【指輪】をつけていただきます。その指輪の宝玉色が【緑】になります」

「なるほど。指輪の色でジョブを見分けるわけか。まあ、便利なのかな?」

「【識別色】に関してはそうですが、指輪はオーブスロットを通して魔力の流れをスムーズにする効果があります」


 【魔力】を吸収とか言っている以上、魔物を倒したとき、剣を通してオーブスロットに吸収された魔力が、指輪を伝って【選出者】に溜まるって構造か。

 で、ある程度溜まればレベルアップと。


「【特性】って言うのは? HPとか腕力はわかりやすいんだが、ジョブに就いたことの恩恵みたいなものか?」

「その認識で構いません。いずれあなたも【パーティ】を組まれることでしょう。パーティの上限は6人ですが、その6人全員にそこに書かれてあるような特性が付与されます」

「パーティね。……いよいよネトゲらしくなってきやがったな。こんなことなら俺もネトゲで勉強しとくんだったぜ。あと、それならその次の【短所】もパーティ全員にかかってくるのか?」

「いえ、【特性】のみがパーティボーナスとして付与されることになります。【短所】はあくまで剣士の特有のものになります」

「わかった。次だが……」


 と、そこでピリリリ、ピリリリとアラームが鳴る。

 何事かとそっちを見ると、制限時間を計る砂時計の砂がもう尽きようとしていた。


「終了5分前の合図ですね。では、小玉を二つ目のスロットにはめ込んでみて下さい。それで、アラームが止み、砂が尽きれば自動的に反転いたします」

「もし、遅れたら?」

「残念ながら、【無職】での開始となります」

「そいつはゾッとしないな」


 俺は苦笑すると、先ほどはめ込んだ小玉の隣のスロットに、新しい小玉をはめ込んだ。

 何事もなかったかのようにアラーム音が止み、あたりは静寂に包まれる。

 改めてここは静かなんだと思い知らされた。


「次なんだが、短所に【魔力属性に耐性の偏りがある。毒属性にやや弱い】とあるけど、魔力属性ってのは何のことだ? ゲームによくある【火炎属性】【氷結属性】【疾風属性】【電撃属性】とかのことか?」

「ご推察通りです。ですが、【魔力属性】や【火炎属性】など、【属性】に関する全ての特性を話すには時間も小玉もかかりすぎますので、また後ほど改めてご説明いたします。ですが、せっかくですので【属性】の習得についてのあらましだけご説明いたします」

「うん。わかりやすく説明してもらえると助かるな」

「わかりました。【属性】については多くの数があり、それぞれに異なった特長があります。【火炎属性】【氷結属性】【疾風属性】【電撃属性】など、わかりやすいものから【聖属性】【光属性】【闇属性】【精神属性】【神経属性】など、相反するものもあり【属性】については性質や考え方によっては同一視されるものもあります」

「ふむふむ。それに【毒属性】とかが入って全部で10くらい?」

「いいえ。およそ18の……いえ20の【属性】がございます」

「20か……、結構多いな」


 あとなんだろ、【土属性】とか【水属性】とか?


「そしてそれら【属性】を構成する元素を【魔元素】と呼びます。魔元素には52の構成元素があり、それらは人それぞれが……いえ、生き物全てが、それぞれ違った魔元素を数種類もって産まれてきます」

「じゃあ、52あるって事は52種類の生物が存在しているわけだ」

「いいえ、個々ひとつずつではなく、ひとりでおおよそ8種類の【魔元素】を持って生まれてきます。もちろん、親からの遺伝がありますし、種族も違えば、人が持ち合わせることの出来ない【魔元素】もあります」


 52÷8だから、6種類か7種類? まあ、そんなことはないんだろうけど。


「わかりやすく説明申し上げますと、そうですね……52の【魔元素】をそれぞれ【属性】に割り振ってみます。適当に……10【火炎属性】15【氷結属性】20【疾風属性】28【電撃属性】25【土崩属性】30【聖属性】44【精神属性】49【魔力属性】51【闇属性】、たとえば9種類の【属性】があるとします。そして、1から52までの【魔元素】のなかで、あなたを構成している【魔元素】が、仮に『4.6.8.10.12.14.16.18』の8つだったとします。この8つの【魔元素】を使って足し算で【属性】を4つ造りあげます」


 全然わかりやすくないぞ、それ。


「うむ。算数は苦手なのでイザベラ詳しく」

「では、4+6で【10.火炎属性】、4+6+10で【20.疾風属性】、4+6+8+10で【28.雷撃属性】、4+6+8+12で【30.聖属性】4+6+8+10+16で【44.精神属性】の5つの【属性】が、あなたを構成する8つの【魔元素】から生み出されます。ですが、各々4つの属性しか肉体にとどめておくことが出来ません。そして、計算数の多いものから優先されますので、この場合【聖属性】【精神属性】【雷撃属性】【疾風属性】の4属性になります。もっともこんなにも構成式は単純ではありませんので、ほぼランダムであると考えた方がよろしいですが……」


 そこでイザベラは一旦区切る。


「あなたにはジョブを選択する権利があるため、属性については逆算される事になります。たとえば『剣士』は【魔力属性】、『治癒士』は【闇属性】に属することが出来ません。仮にあなたがジョブで『剣士』を選び、そして計算式で【魔力属性】を引き当ててしまったとしても、あなたを構成する【魔元素】が『4.6.8.10.12.14.16.18』であることには変わりありません。これは【転生】でもしない限り変化いたしません」

「じゃあ、どうするんだ? 『剣士』になることを諦めなきゃいけないって事なのか?」

「いいえ。システムを操作して【49.魔力属性】を【49.闇属性】に換えることができます」

「な……っ?! それってずるじゃないのか? だいたいそんなことが出来るんなら、それぞれのジョブに最適な属性を選べるって事じゃないか?!」


 イザベラはやんわりと否定する。


「わたくしたちが出来ることは、自分の意志で【ジョブを選べる】、という公平さを優先させることに限られてきます。それに先述した【魔元素】を含めた数字や計算説明はあくまでたとえ話でありますので、誤解なさらないようお願いします」

「でも、『書き換える』ことができるんだろ?」


 操作できるのなら、やってやれないことはないだろう。

 チート能力で大活躍の異世界モノとして出発できるのなら、アステアのオーブとやらもすぐに回収できるだろうに。


「……ビンゴゲームという遊びをご存じでしょうか」


 空気を読まずにイザベラは言う。また、たとえ話かなにかだろうか。


「ビンゴゲーム……って、あの、数字がランダムに羅列した5×5カードを使うやつ? 縦・横・斜めのいずれか1列揃わせるゲームのことか?」


 主催者側が発表する数字に一喜一憂するゲームのことか? 


「はい。そのビンゴゲームです。そしてあなたを構成する【魔元素】は、言わば主催者側が読み上げる数字と言うことになります。つまり発表される数字はランダムではなく固定。わたくしがシステム操作できますのは、【カード】の方になります。つまり、縦・横・斜めのいずれにも【魔力属性】を含まず、尚且つ、最初の5玉でビンゴとなる【カード】を選ぶことが出来ると言うわけです」

「……なるほど。わかったような、わからないような……」


 ややこしい上に意味不明なところもある。


「ですので、【ジョブ選択画面】に表示されたジョブであれば、制約なく就いて頂けますので、ご安心下さい」

「むぅ……」

「そして、【属性】を構成する【魔元素】の計算式についてですが、これは計算式の数が多ければ多いほど、その【属性】に対し親和性があると考えて下さい」

「それは足し算の数が多ければ……ってことなのか?」

「はい。つまり、【44.精神属性】は4+6+8+10+16の5つの数字の組み合わせですから、4+6+10の組み合わせの【20.疾風属性】より相性が良いと言うことになります。この場合、【精神属性】はLv5となり、【疾風属性】はLv3となります。もちろんLvが高ければ高いほど、その有効性が上がります」

「それは操作できないのか?」

「自動的にもっとも計算式の高い【カード】を選ぶように設定されてはいますが、個々の【魔元素】は固定されているため、全てを最高ランクにまで上げようとすることは出来ません」

「う~ん。でもまあ、自動的に一番高く設定されるなら……って、それじゃどんな【属性】が組み込まれるかわからないってことにならないか?」

「はい。そうなります。新世界エレクザードに降り立つまで、あなたの有する4属性がなにであるかはわかりません」

「それって、わかってないと損することある?」

「【属性】そのものの特性については、ジョブの選択を終えてから説明することにいたします」

「まあ、わかったよ。……でもそうなると、ジョブの選択でちょっと迷うなぁ。ひょっとするともっとも組み合わせが悪いジョブを選んでしまう可能性もあるわけだろ?」


 初期設定ってのは大事だ。

 どうせならより優秀な人材として新天地に赴きたい。


「でしたら、【ジョブ選択画面】右下にある【ランダム】を選択下さい。ジョブを含め、もっとも計算式の多いジョブに就くことが出来ます」

「【ランダム】ってそういうメリットがあったんだ……」


 ただのチャレンジ精神を試すものではないようだ。


「ただし、【属性】と同じで新世界エレクザードに降り立つまでどのジョブに就いたか識別は不明となりますので、ご理解頂いたうえでお願いします」

「やっぱりチャレンジャーじゃねーか!?」


 俺はうがーっと吠える。


「あと、【無属性】についてご説明しておく必要があります」


 だが、イザベラは全く意に介さず続ける。少し寂しい。


「実は【ジョブ選択画面】にて表示された24のジョブのうち、ひとつは【無属性】を2つ以上所有していないと就けないジョブがございました。また、あなたが【無属性】を所有しているため就くことのできないジョブが2つあったことを、今この場でご報告いたします」

「??? は? いや、たった今【カード】は好きに選ぶことが出来るって言ってたじゃん?」


 イザベラは、俺の【魔元素】の変更は出来ないけど、【カード】の変更はできるって。

 ……いや、ジョブは好きに選べるとは言ったが、それはあくまで【ジョブ選択画面】に表示されていた24のジョブだけだ。今話しているのは24以外のジョブの話だ。


「はい。ですから、【ジョブ選択画面】に表示されていた24のジョブに関しては問題なく就いて頂けると思います。それ以外については、【転生】しないと就けないジョブと同様表示されておりません」

「ちなみに俺が就けない2つのジョブってなに?」

「それは【情報】として2つの小玉を頂くことになります」

「むぅぅ。わかったよ。じゃあ、2つな!」


 俺は小玉を2つ取るとイザベラに渡す。


「はい確かに。……あなたが就けないのは、【アイテム士】と【時魔道士】ですね」

「なんと!」


 驚いてみたものの、それがどういったジョブであるか理解しようがないので、勝手に悔しがるわけにもいかない。

 【アイテム士】……まず名前がかわいらしい。FFでは初期のジョブに確かあったな。

 【時魔道士】……ヘイストとかそういうのが便利なやつだった気がする……。


 結論。問題なし。


「わかった。……なら、24のジョブの中で【無属性】が2つ必要だったってジョブはなんだったんだ?」


 イザベラはほほえみながらすっと手を出す。無言でその手に小玉を乗せる。


「【呪術師】ですね。呪術師の条件として【無属性】の所有が2つ必要になります」


 【呪術師】……呪われそう。いや、呪う側か。あまり就きたくない感じだな。


「わかった。で、その【無属性】とやらの説明をしてくれ」

「はい。では、先述しました52の【魔元素】のうち、約15種類が【無属性】にあたります。わたくしたちは、これをわかりやすく【素数】と呼んでいます」

「【素数】って、約数じゃない数字のことだろ? なにか関係あるのか?」

「はい。【魔元素】は52種類あることはわかっていました。そして最近になり、そのうちの15種が【無属性】であることが判明いたしました。52種のうちの15種ですから、つまり【素数】と同じ数であることからそう呼ばれるようになりました」


 はあ、そうですか。


「【素数】って1.2.3.5.7……」

「いえ、1は含みません。【素数】は1と自分自身以外に正の約数を持たない自然数で、1 でない数のことである、と定義されているので正確には2.3.5.7.11.13.17.19.23.29.31.37.41.43.47の15種ですね。ちなみに1は特殊な【魔元素】ですので、やはり計算式に入ることはまずありません」


 はあ、そうですか。

 ……ああ、だからさっきの【属性】の計算式も4.6.8.10……とか中途半端なところから始めて、しかも偶数にしたのか。素数って奇数にしかないからな。


「【無属性】は常に単体ですので計算式には組み込まれません。そしてあなたの場合、確定している属性は【無属性】【○○属性】【○○属性】【○○属性】の4つと言うことになります」

「……1つしか確定していないんですけど」


 でも、初めから1つでもわかったのは大きい。あとで【属性】の特性について説明するって言ってたから……って、あれ? イザベラ、さっき【無属性】について説明するって言ってなかったっけか?


「じゃあ、【無属性】ってのはなんだ? 属性がないってことなのか?」

「いいえ、属性がないと言うよりも、そもそも【属性では無い】と言う意味で使われています。【属性】であれば計算式に組み込まれることになりますから」

「いや、さっぱりわかんないんですけど」


 弱点をつくこともできない代わりに、軽減もされない属性とか思っていたら、よもや属性ですらなし、ときたもんだ。


「たとえ話で恐縮ですが……」

「たとえ話好きだなイザベラ……」

「野球という球技をご存じでしょうか」


 華麗にスルー。ははは、こいつめ。


「知らないと言ったら?」

「ご説明いたします。たとえ話ですが……」

「堂々巡りになる。やめて。野球知ってる。アイノーヤキュー」

「恐れ入ります」


 とにかく話を進めよう。もう、属性の話だけで小玉ひとつ分が終わっちゃうぜ。


「野球を野球たらしめているものは何だと思いますか?」

「おっしゃっている意味がわかりません」

「わたくしは、【試合は野球場で行われ9人対9人の交代制であること】【ボール、バット、グローブなどを用い、それぞれ間違った使い方をしないこと】【野球のルールを守ること】であると思います。いかがですか?」

「……? いや、その通りだと思うけど」


 イザベラのことだから突拍子もないことを言い出すかと思ったけど、案外普通だ。

 と言うか、野球たらしめるって何だよ。


「では、その野球という球技に【無属性】が入るとどうなるでしょう」

「は?」


 バナナはおやつに入りますか? みたいなノリですか?


「【無属性】がひとつ入ると、野球のボールが【テニスボール】に変わります」

「……は?」

「【無属性】は15種類ありますので、他にも【ゴルフボール】【ピンポン球】【ラグビーボール】【バレーボール】【サッカーボール】【ゲートボールの玉】【ハンドボールの玉】etc」

「ちょっとまてぇ!!」

「あと、【ペタンクの玉】」

「ペタンクの玉は金属製だぁ!!! 危ねぇだろうが!!!」


 殺す気か! デッドボールで死ねるわ!!


「つまり、野球という球技の概念を変えず、ボールだけを別のものに換えてしまいます」

「いや、待て。充分に別物だ」

「そうでしょうか。【ボール】は【ボール】でしょう。『体育館倉庫に野球のボールがなかったし、似てるからこれでいっかー』的なノリですよ」

「ペタンクの玉を用意する時点で、計画犯罪の臭いしかしねぇ!」


 犯人はおまえだ! ピッチャー、おまえだよ!


「あとは、【砲丸投げの玉】とか……?」

「二番煎じだ! そもそもそれ球技のボールじゃねーだろうが!」

「つまり、【無属性】がひとつでも入ると、一風変わった野球が出来ると言うことです。そして【素数】と表したのは数字が少しずつ増えていくからです。2や3は、ソフトテニスやテニスボールなど、一桁クラスだと笑って済ませられる程度でして。10の位だと、サッカーボール、バレーボール、バスケットボール、冗談が過ぎるくらいですね。20の位になりますとゴルフボールやらゲートボールの玉やらアタマ大丈夫ですかくらいです。30の位になりますと、ここでようやくペヤングの玉とかラグビーボールとかビリヤードが登場します。割と命がけですね」


 ……。


「40の位では、砲丸の玉とかですね。ピッチングスタイルが変わって、変化球とか投げにくいかもしれません」

「……40の位の【素数】って3つあるんだけど……」

「そうですね、【ボーリングの玉】とか?」

「……っ。あとひとつ!!」

「【雪合戦の玉】」

「お後がよろしいようで!! 打った瞬間粉砕するわ!!」

「中に石でも詰めておけばいいんですよ」

「意味わかんねぇ!!」


くそぅ、とんだ大喜利だったぜ。後半野球にならねーじゃねぇか。


「つまり、“野球という球技の概念を変えず、ボールだけを別のものに換えてしまいます”を言い換えれば、剣士というジョブの概念を変えず、しかし、一風変わった剣士であることには疑う余地はない、ということです」

「なら、【無属性】が2つある俺の場合は……」


 くそっ、嫌な予感がとまらねぇ!!!


「はい。もちろん、『間違いを探せ! ふたつあるよ!』的な」


 的な!


「【無属性】はそれぞれが独立した存在ですので、数が多くなればなるほど、『それって、野球……だよな?』『やってることは野球……っぽく見えるんだけど……あれ?』『え?! え?! それって野球……? え、まじで??! ちょーウケるンですけどー(笑)』と、こんな感じになっていきます」

「いやああああああああ!!!」


 絶叫する俺に、イザベラはクスクスとおかしそうに笑う。


「失礼、冗談が過ぎました。【無属性】の存在は決して悪いものではありません。むしろ、あるのとないのでは、あった方が有利に働く場合が多いのです」

「本当か!?」

「たとえるなら『七並べ』のジョーカーのようなものです。一枚でもある方が面白いでしょう?」

「ま、まあ。あるのと無いのじゃ戦略が変わってくるからな。あった方がいい……かな?」

「はい。ジョブの本質は変わりませんから。それに、生存率に関しましても、【無属性】を有している方のほうが、多いというデータがあります」

「おお!!」


 何か希望の光が差してきた。ぺかー!


「ですが、3つ以上【無属性】を所持している方の生存率は極端に下がります。4つ以上【無属性】を所持していて、再びここに戻っていらした方は、今までにございません。そもそも4つも【無属性】があると言うことは、8-4で4。残り4つの【魔元素】で3つの属性を構成しなければいけない。つまり【魔元素】が計算式の少ない属性となり、ジョブとしても少々力不足感が生じます」

「うごごごごごご……」


 【無属性】は2つまでがギリギリの線か! 俺はすでにギリギリか!

 答えは、新世界エレクザードについてから!


「以上が、【属性】のあらましと【無属性】についてになります。他になにか質問はありませんか?」

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