【序章:2】締結
「……うちには、帰れるんだろうな」
俺はうなだれるように呟いた。
「ご心配はいりません。あなたがアステアのオーブを探しだし、ここに持っていただけたなら、またすぐ元の世界にお戻しすることができます」
「……そのアステアのオーブってのは、すぐに見つかるものなんだろうな。もし仮にこれが夢の中の出来事だったとして、探してる間に目が覚めたらどうするんだ?」
「この空間と、あなたの世界と、新世界エレクザードに時間的な繋がりは一切ございません。今仮にあなたが新世界エレクザードに入り、10年をかけてアステアのオーブを持ち帰ったとしましょう。その後、あなたの意識を元の世界に返したとしても、そこに10年の時の経過はありません。今ここでこう話している間であっても、あなたの世界では時は停まったままなのです」
「まてよ、10年もかかるのかよっ!?」
「いえ。早い方では4年ほどで……、ああ、今までの最短は2ヶ月でしたね。でもそれは特殊なケースで、おおよそ6年ほど掛かります。今までで一番遅い方ですと、16年と2ヶ月ですね。現状では依然として78人の方が探索を続けております」
イザベラは目の前にあるグラフらしきものを指で動かしながら絶望的なことを言った。16年てなんだ……? 気が遠くなるような年月だ。
いや、16年って言えば、俺が働き出してちょうど16年か……別にそんなにも長くないか。
なんて言えるほど、俺の気は長くない。
「……あんたは自分で、アステアのオーブを探してこようって気にはならないのか?」
「わたくしはここを離れるわけにはいきませんので。わたくしは【選出者】に道を示す【案内人】としての役目がありますから」
「ははは。……で、その【案内人】さんにちょっと聞きたいんだけど、いいか」
「どうぞ」
「あんたは、今その新世界にいる残り78人全員が、あんたの欲しがっているものを見つけてこれない場合はいったいどうするつもりなんだ?」
殺すのか?
「新世界エレクザードに存在する【選出者】の数は、常に100人と決まっております」
「それじゃおかしいだろ?! なら、100-78の22人は、元の世界に戻ってないってことになるじゃねぇかよ! 16年もかけてたやつは、どうしたんだよ! ちゃんと元の世界に返したのかよ!!」
俺は食って掛かるが、相手には姿が見えないし、瞼がないのか俺は睨むことすらできていない。
「その22人は、元の世界に戻ることを断り、新世界エレクザードに残ることを選んだ方々なのです」
「はぁ?! じゃあその16年頑張ってきたやつも、元の世界に戻るのを拒否したってこのなのかよ?! 信じられねーな!」
「いいえ。彼女はわたくしが要求した物を持ち帰りましたが、元の世界に帰るのを断り、新世界エレクザードに戻ることを選びました」
女もいるのか。
「そ、それじゃ残りの連中はちゃんと元の世界に戻ったのか?」
「いいえ。その22人は現在は定住の意志を示しています。ですが、そのうちの何人かはおそらく元の世界に戻ることを望むようになるでしょう。なぜなら新世界エレクザードでの【寿命】が尽きる前にわたくしの前に戻りさえすれば、そのまま、元の世界へと戻すことができるからです」
「…………っ」
寿命。
寿命とか、意味わかんねぇよ。これじゃまるで、
「それじゃまるで、そいつら、その新世界で生き……生活してるみたいじゃないか」
「はい。あなたも今まで自分の世界で生きてきたのでしょう? これからはしばらくは新世界エレクザードで生きることになります。アステアのオーブを探す目的を携えて」
…………。
駄目だ。いろいろ駄目だ。いろいろ聞きたいことはある。でもいろいろ駄目だ。
イザベラは俺を、その新世界に送り込むことを前提に話をしてやがる。
「俺に拒否権はあるんだろうな」
「ございません。が、納得し理解していただくことが初期設定から次の項目へと必須条件となっております。幸いこの空間の時は無限にございます。考える時間も。嘆く時間も憤る時間も。言葉を吐き出し叫き散らす時間も。眠る時間も。神に祈る時間も。そしてあきらめる時間も十分にございます。今までここにいらした、ほぼ全ての【選出者】の方々と同様に」
イザベラの瞳は変わらない。はじめからずっと。たぶん俺を人としてみていない。
「……なんで俺なんだ?」
「その質問に関しては、返答しかねます。あなたを選ぶ権限は、わたくしにはございません。わたくしは【案内人】。新世界エレクザードであなたが迷わないための【道】を行き示すものです。知恵と目的をあなたに教えることができます」
…………。
「イザベラ。今までに、元の世界に戻れたやつは何人いる?」
「その質問には、お答えできません。ですが、全体の統計上の数字を出すことはできます」
「それでいい」
イザベラは指を動かし、グラフを操作する。
「おおよそですが、全体の2%以下になります」
「……新世界に100人いたら2人しか戻ってこなかったっていうことか?」
「厳密にいえば、戻る意志を示した方が全体のわずか2%という数字になっております」
「戻る意志を示さなかったヤツや、オーブとか言うのを手に入れることができなかったヤツはどうなる」
「寿命やそのほかの原因で亡くなられます。その場合、元の世界の肉体にも死が訪れます」
やっぱりな。最低だ。
俺は爆発しそうになるのをぐっとこらえた。罵詈雑言を吐き出したところで、喋られなくされるだけだ。それよりも大人しくして、より多くの情報を聞き出しておいた方がいい。
「イザベラ。今までにそのアステアのオーブとかいうのを見つけることができた連中は全体の何%くらいだ?」
それがわかればアステアのオーブとやらの発見の難易度がわかる。
「はい。おおよそ26%ほどになります」
「3割以下ってか……。こりゃどう考えても死ぬなぁ……。じゃあ、イザベラ、目的をあきらめたり、現在進行形なヤツらが74%……って、あれ?」
あれあれあれ? ちょっと計算が合わないぞ?
100人中22人が成功してる。でも、全体の統計からして26%。元の世界に帰った人数が全体の2%……。
あれ、俺何か勘違いしてない?
「イザベラ。ちょっと確認するけど、現在、新世界には100人いて、うち22人が目的達成の隠居状態なんだよな」
「表現に語弊がありますが、今現在そのような割合になっております」
「ならさ、俺たちの世界から選出された人間が目的を達成できなくて死ぬ確率って何%くらいだ?」
先ほどの質問と真逆の問いだ。俺の違和感がそこでわかる。
イザベラはグラフに目を通した後こう答える。
「94%程になります」
「……ああ、わかったよ、くそったれ」
思った通りだ。
俺は勘違いしていた。【成功率】なんて存在しない。どんな計算したんだか知らないが、最初の質問の仕方が悪かった。
前にイザベラは言った。“新世界エレクザードでは常に100人”と。
おそらくだが、その人数が1人でも欠けると、今の俺のように補充されるわけだ。
たとえば、100人新世界にいたとしよう。そのうち3人がクリアして20人が死んだとする。確率は成功率3%。死亡率20%なんていう、単純なものじゃない。
アステアのオーブを発見できたとしても、それを持ち帰ることができるわけじゃない。見つけることができただけだ。
イザベラは【何人】という質問には答えなかった。あくまで【%】計算だ。
なんかもう説明しづらくて難しいのでこれ以上はやめとくけど、つまり、今までに挑戦した人間が成功した確率は6%程だそうだ。94%の確率で『いずれ』死ぬ。
「一番何が原因で死ぬ確率が高い?」
「自殺になります」
「……ああ、そう。二番目は?」
「殺人になります」
「三番目は?」
「事故でしょうか」
「四番目は?」
「魔物に殺されています」
あ、やっぱり魔物ってでるんだ。
最初の方にイザベラがどこどこ地方には魔物がどうのこうの言っていた気がする。
それにしても、自殺、殺人、事故の順か……。
…………。
…………。
殺人、ねぇ。
「病気で死んだって言うのはあるのか?」
「全体の8%未満になります」
「ちなみにガンとか?」
「いいえ。疫病がほとんどです」
と、そこで目の前が一瞬ぴかっと光ったかと思うと、目の前に長細い砂時計のようなものが現れた。
驚いている間もなく、目の前に透明な画面が現れた。
同時に、右手にも違和感を感じ、再び俺の右手とご対面する。
「すみません。初期設定画面に切り替わったようです。画面にある【同意書】に指でサインと、先ほど行ったようにスキャニングをお願いします」
「この空間の時間は無限じゃなかったのかよ」
「ええ、無限ですが、先ほど行った初期設定のボーナスポイント発行から次の項目へ進むまでの時間は限られていますので」
ご了承下さい、とイザベラ。
「もし、このまま俺がなにもしないでいたらどうする?」
「そういう方は以前に何人もいました。幸い、ここから次の項目までは、時間制限がございません。気が済むまで悩むことができます。……ちなみに、最長は1689時間と38分です」
「……ああ、そう。俺はそこまで悩むつもりはないけど、まだ少し時間が欲しい」
「ごゆるりと。覚悟か決まりましたら、お声をかけて下さい」
そう言ってイザベラは口を閉じた。
だが、その双眸ははただじっと俺の方に向けられている。
気が散って集中できない。
「イザベラ。一度俺の視界を閉じることってできないか?」
「できます。元に戻す場合には、またお声をかけて下さい」
イザベラは指を動かす。
俺の視界は真っ暗闇になる。
音もない暗闇の中、俺はしばらく黙考する。
なんか頭の中がクリアだ。はじめと大違いだ。
ああそうだ。遺書とか書かなきゃ。生きて戻れる確率低いし。
「遺書とか書ける?」
「あいにくここにはなにもございません」
「ですよねー」
イザベラの話を信じるなら、オーブを持ち帰ることで元の世界に帰還できる。時間は停まったままなので戻ることさえできれば、むこうのことは無視していい。
もし俺が死んだら。父さん母さん泣くだろうな。
…………。
やだな。
あれからどれくらい時間が経ったんだろうか。
眠っていたような気もする。
いろんな思い出が思い起こされて、笑い声を漏らしたり、気分悪くしたり、辛くなったり、悲しくなったり、幸せになったりした。
思い出せる限り最古の記憶を呼び出して、順を追って最新のものへと思い出を進める。
恵子。
とつ、と俺の嫁だった人の名前が浮かび上がって目が覚めた。
そしてしばらくそのまま回想を続けて、おわる。
もう2年前の話だ。バツイチになってからの2年間は、特になにもない。
まあ、一度人生終了したわけだし、再婚のめども立たない。
新世界で花を咲かせるのも、また一興か。
それとも死ぬか。それもいいかもな。一生懸命生きた後でなら。
「イザベラ。視力と顔と両手を出してくれ」
「顔はここの【規約】に反しますので、視力と両手を召喚します」
「ああ、それだけでいい」
視界が戻り、目の前にはイザベラと両手が見えた。わきわきと両手の指を動かし、確認する。
「イザベラ。今から結構でかい声を出して気合い入れるからな。なんだったら耳をふさいでいろ」
「わかりました」
イザベラは素直に従い、両耳をふさぐ。
「うあああああああああああああああああああああああああああ!!!!! いやだぁあああああああああああああああああああああああ!!!! なんでおれなんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! ちくょぉぉぉぉ!! うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
両手を強く握りしめ、息が続く限りの声を絞り尽くす。
小学五年のころから剣道やっていたからか大声には自信があった。それもやめてもう十数年経った。竹刀もとんと振っていない。何処にあるのかも覚えていない。
おそらく喉がないおかげだろう、久しぶりの大声でも喉が痛くなっていない。
「すっきりした。イザベラ。もういい。覚悟はできたから、サインする」
「了解いたしました。では、同意文をお読みいただき、サインをお願いします」
「わかった」
そう言って、目の前にある画面に書かれた同意文に目を通す。
要約すると、『死んでも構わない』という内容だった。ふざけんな。
「サインはどうやるんだ?」
「下の空白部分に指でお願いします」
「わかった」
指で“任田孝弘”と書き込む。
「では、もう一度、画面に右手で触れて下さい。スキャニングを行います」
俺はサインの隣に右手を添える。
【スキャニングしています。手を動かさないで下さい】
しばらく待つ。
【スキャニングが終了しました。ご登録ありがとうございます】
「新世界エレクザードの世界にようこそ。心より歓迎いたします」
イザベラはそう言うと深々と頭を下げた。
俺はもう何も言う気にはなれない。
それよりも、先ほど現れた『細長い砂時計』が点灯し、スキャニング終了と共に反転すると、さらさらと中の砂が下に落ち始めていた。
目の前の画面も切り替わり、いくつか記入する項目が現れる。
始まったらしい。
「それではまず、任田孝弘様の生年月日、血液型をお願いいたします」
「嘘付くかもしれないぜ」
「その場合は登録できません」
「わかったよ。19○○年11月11日、××歳だ。血液型O型」
「結構でございます」
イザベラは指を動かすと、名前や生年月日等が記入されていく。
「これで初期設定は終了いたしました。続きまして、あなたが新世界エレクザードでのキャラクター設定に移りたいと思います。よろしいですか?」
「わかったよ、進めてくれ」
俺はさらさらと流れる砂時計を見つめながらいった。
「では【新世界エレクザードに転生いたしますか?】」
何にも動じないつもりだったが、さすがに目が点になる。
「……は? それはどういう意味だ?」
「あなたの魂をそのまま新世界エレクザードに送り、出生の瞬間から始めることができます」
「は、ははは……。なんだ、それ、もうむちゃくちゃだな。赤ん坊からやり直せって言うのか。いったい何年計画だよ」
「時間はかかりますが、大きなメリットがございます。それは【種族の選定ができる】そして【貴族などの上流階級の子として生まれることができる】ですね。王族には設定できませんが、ある程度の身分の貴族の子として転生することができます」
「なるほど。……続けてくれ」
「はい。では、まずこちらに、先ほどあなたが得たボーナスポイントを使っていただけますか?」
「ボーナスポイントってあの、63ポイントのか?」
「そうです。あなたは現在『62ポイント』持っています。ただいまそれを可視化し、今後それぞれのスロットに入れて、【知識】【ジョブ・情報】【スキル】【時間】に割り振っていっていただきます」
やはりイザベラの講習料は先払いの1時間1ポイントのようだ。しっかり消費されている。
何があるかわからないので、できるだけ無駄な時間は取らないように話を聞くことにしよう。
「まずは小玉の形で62ポイントお取り下さい」
イザベラはそう言うと、指を動かした。
すると、なにもない空間からフッと箱が現れた。ふたを開けると箱の中には光るビー玉のようなものがいくつも入っていた。ぱっと見たくさんあるので、中身は62個の小玉とやらだろう。
つまり、ボーナスポイントの見える化ってことになるのか。
俺はツルツルした小玉を指で触って確かめる。
「今後はその小玉を、提示するステータス画面のスロットにはめ込んでいっていただきます。ただし、注意することが一つあります。一度スロットにはめ込まれた小玉は取り出すことはできません。キャンセルする場合は【キャンセル用スロット】に小玉を入れなければなりません。すると一つ前のスロットの小玉が消滅いたします」
「わかった」
つまり、やり直しはきくけど、ペナルティもあるよってことか。
慎重に行かないとな。
「なお、進行上、小玉を消費し、スロットを埋めていただく必要がある場合があります。これは【知識】としてご了解を得たいと思います」
「わかった。おおよそ進行上必要な小玉の数を教えてくれ」
「8個ほどになります」
「わかった、8個だな」
俺は上ぶたの上に8個小玉を入れる。これで箱の中にある小玉は54個だ。
「続けてくれ」
「はい。では、こちらの画面の中央にあるスロットに小玉をお入れ下さい」
「わかった」
俺は言われるままスロットに小玉をはめ込む。
と、小玉が赤く光り出し、画面に文字を浮かび上がらせた。
・転生する ・転生しない
その下にはずらりと種族名が書かれている。ざっと見て20あまり。
「それでは改めて説明いたしますと、新世界エレクザードには、魔物を除いた、およそ26種もの種族が存在します。エルフやドワーフなど、中にはご存じな種族もあることと思いますが、それぞれがそれぞれ特徴を持って暮らしております」
俺はその種族名をつらつらと流し読む。
エルフだけでも、ハーフエルフやらダークエルフ、ハイエルフやらある。ドワーフはもちろんホビットやらメジャーなものからマイナーなものまで全26種類もあって、とても覚えきれない。
「悪いんだけど、何かメモ帳みたいなものってないか? あっと、ポイント消費していいから筆記用具一式出して」
「それではこちらの【一般スキル】、【記録】に小玉をはめ込むといいでしょう。【記録】のスキルが身につき、覚えたことは忘れずにいられます」
イザベラが画面を切りかえ、【一般スキル】と書かれた画面のなかにある【記録】というスロットを点滅させた。
「おお、何か便利だな。最近物忘れというか、物覚えが悪くて困っていたんだ」
年のせいとかじゃなく、俺の場合、あまり興味のないこととかが頭に入ってこないのだ。
ゲームオタではあったものの、その内容を逐一記憶できていたかというと、そうではなく、何度も説明書を見返したり、ネットで調べたりしていた。
俺は【記録】のスロットに小玉をはめ込む。
小玉が赤く点灯し、【記録】と書かれてある文字が色濃く浮かび上がる。
と、その周辺を見ると、ずらららーと、【一般スキル】が並んでいる。これみんな便利スキルなんだろうか。
あとでイザベラにその効果とか聞いておこう。
「【一般スキル】についてはあとでご説明いたしますので、今はまず順を追って説明していきたいと思いますが、よろしいですか?」
「わかった」
「では、改めて画面をご覧下さい。【転生】項目にスロットがあります。これは先ほど申しました通り、転生することができる項目になります。【転生】を選べば選択の幅が格段に広くなり、より新世界エレクザードの世界に適応しやすくなること間違いございません」
「たとえば?」
「種族を選定して転生することにより、その種族に生まれかわることができます。エルフであればエルフの、ドワーフであればドワーフの特長を生かした【ジョブ】をより効率よく活用することが可能となります」
「エルフの特長って何だ? イメージからすると弓とか魔法とか使ってる感じがするんだが」
「種族の特長をお知りになりたい場合は、小玉を使い、エルフのスロットにはめ込まなくてはなりません」
あー、なるほど。何となくこのシステムの全貌が見えた気がする。小玉を使うことによって【知識】の先取りができるわけか。
このポイント消費制度、なかなかあくどい商売だな、おい。
「わかった。後回しにする」
「了解しました。では、【転生】の利点としましてもう一つ。人間に転生した場合、貴族など、一般人よりも高い階級から始めることが可能です。もちろん小玉は消費いたしますが、より効率の良い【ジョブ】や【スキル】が獲得できる可能性が高まります」
「それはどんなものだ?」
「その説明は、【ジョブ】の項目でお話しいたします。順を追っていきますので、ご了承下さい」
「わかった。いちいち口出しして悪いが、性分なんだ。悪いな」
「いいえ、構いませんが、わたくしのレクチャーは全て時間制となっております。今一度心にとどめておいて下さい。ただ、全てお話しいたしましても、充分1時間以内に収まりますし、一般スキルの説明を全て選択いたしましても、この場で得られるスキルの上限数は決まっています。ただ、【知識】のスロットを埋めることによって戦略の幅が広がるのは間違いありませんが、それでもやや余る計算になっています」
まあ、63ポイントは、最近じゃ一番多いっていっていたもんな。
逆に、17ポイントじゃ、だいぶ取捨選択を頑張らないといけなかったんだろうか。
「余った小玉はどうなるんだ?」
「新世界エレクザードに赴かれる前に、この場で全て破棄していただきます」
「破棄って、捨てるのか。何かもったいないな。って、ともかくまだなにも決まっていないんだし、イザベラは説明の続きを頼む」
わかりましたと、イザベラ。
「そして【転生】の最大の利点として、年齢があります。任田様は36歳。肉体としてもおそらくはピークを過ぎております。それを転生することにより、より新世界エレクザードに適した肉体で、“今の記憶を維持したまま”新しいご両親の庇護の元、じっくりと成長することができます。新世界エレクザードでの成人は15歳と早く、そこから始めても決して遅くはありません」
「なるほど、メリットは多いみたいだな。じゃあ、デメリットがあるなら聞かせてくれ」
美味しい話ってのはそうそうあるワケじゃないってのは、わかってるつもりだ。
「そうですね。あるとしたら、元の世界には戻れなくなることでしょうか。なんせ、【転生】したのですから。新世界エレクザードに産まれ、新世界エレクザードに死んでいくことになります」
「そんなこったろうと思った。転生はパスだパス」
「よろしいのですか? 任田様の年齢ですと、あまりご無理はできないと思いますが」
「わかってる。……わかってるから、説明の続きを頼む」
俺は先を促す。
イザベラは、「わかりました。まだ今なら変更が可能なのでといつでも」と言うと、指を動かし、次の画面を俺の前に出した。
「続いて、【ジョブ】について説明いたしたいと思います。まず、画面中央のスロットに小玉をはめて下さい」
俺は促されるまま小玉を画面中央のスロットにはめ込む。
すると、小玉は赤く光り、それを中心にして円を描くように、見覚えのある……というか、よく知ったジョブが映し出された。
剣士。
戦士。
魔闘士。
弓術士。
治癒士。
魔法使い。
シーフ。
槍術士。
幻術士。
砲撃士。
暗黒剣士。
ネクロマンサ-。
バーサーカー。
召喚士。
魔剣士。
竜騎士。
アサシン。
精霊使い。
錬金術師。
薬術士。
魔物使い。
呪術師。
侍。
海賊。
円を描くように24種類の【ジョブ】がそこに表示されていた。
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