第23話 大先生
本来の主人公である飯塚亮。
彼は明人の活躍によって完全に埋もれてしまっていた。
確かに彼はエロゲーの主人公らしくやや意思が薄弱ではあるが、本来は国際的人身売買ネットワークの犯罪を暴く寸前まで迫った男である。
田中麗華。
忍者の一族の党首代理。
らめ(略)には冒頭で名前のみ登場する。
ゲームシナリオの裏で何が起こったのか推測する手立ては今のところ存在しない。
本来であれば二人の運命は交わることがなかった。
だが明人の破壊行為により二人の運命が交わることになった。
本来、超高スペックの二人が伊集院明人の人生に巻き込まれたことにより事件は大きく動き出すことになる。
◇
「田中さん。ロサンゼルスってどう行けばいいんだっけ?」
「たしか鉄道を乗り継げば帰れますわ。一時間ほどだと思いますけど」
飯塚と田中は空港からロサンゼルス(埼玉)へ向かおうとしていた。
二人がゲート抜けた瞬間、行き過ぎた昭和の不良が着ている長ランのような服装をした集団に囲まれた。
どこかでこの服装を見たことがあるのだが、二人ともどうしても思い出せない。
二人に思い出す間も与えず、男の一人が言った。
「ド○キャス仮面様がお待ちです」
ああこのノリってライアン先生の関係者だな。
瞬時に二人は納得した。
空港を出るとサイドカーをつけたレトロなバイクが二人を待ち受けていた。
そこにいたのはレ○バンのサングラスをかけて、ひらひらとした白い服を着た老人。
老人はサングラスを外してにこりとほほえんだ。
「君らがライアンの弟子だね。私がドリキャ○仮面です。大先生でもいいよ」
飯塚は「仮面じゃねえ素顔じゃんか!」と心の中でツッコんだ。
そんな飯塚とは反対に老人を見た田中の顔が真っ青になる。
「あ、あ、あ、あ、あ、あなたはきょうこ……」
「おっとそれ以上はダメ。私がど○ぶつの森を買いに日本に来ていたことがわかるといろいろまずいんでね。あ、内緒だよ」
そう言う問題じゃねえ!
田中は心の中で激しくツッコんだ。
「あ、あの……あなた様が来るほどのトラブルなのですか?」
「我々が知る限りでは世界が滅ぶほどだね」
「……へっ?」
「詳しくは明人君……いや、恐怖が蘇らせしアンゴルモアの大王に聞きたまえ。我々が知る限り、彼だけが予言書に記された運命に介入できる」
「アンゴルモアの大王……? ノストラダムス?! だってあの予言は外れたんじゃ!」
「明人君の生年月日を知っているかな? 1999年7月だ」
ド○キャス仮面はそう言うとにやりと笑った。
「まあ話は事が解決したら明人君も加えてゆっくり話そう。では二人とも乗りたまえ」
田中がバイクに乗るよう促されると、今度は飯塚が固まっていた。
顔が青ざめている。
「あ、あの……これ……このバイク……陸王!!! いや違う! 九七式ですよね?!」
「いやー本当は私物は持ってちゃいけないんだがこれとゲーム機だけは手放せなくてね」
九七式側車付自動二輪車。
ハーレーダビットソンのライセンス生産品である「陸王」をベースに日本軍が改良を加えた軍用車両である。
現存しているものは殆ど存在せず希少性が高いレアアイテムである。
飯塚は手を震わせながら乗り込む。
田中もつきあってらんねーといった顔で渋々と飯塚の後ろへ乗り込んだ。
カソックを着た男達に見送られ走り出す九七式。
しばし走ると○リキャス仮面が思い出したように言った。
「あ、ごめん! 言うの忘れてたけどさ。この
明らかに法定速度を考慮しないエンジン音と加速が二人を襲う。
飯塚と田中の悲鳴が響き渡った。
メモ:サイドカーレースではサイドカーに乗っているパッセンジャーはコーナリング時にサイドカーから落ちそうなくらい体を外に投げ出す。というか顔面が道路とスレスレ。割と死ぬ。
◇
「ジェーン来い!」
明人と山田が教室に飛び込んできた。
ただならない雰囲気を纏ってはいたが、教師である内藤はそれに配慮もせずに怒鳴った。
「おい伊集院!!! 授業を妨害するな!!!」
「内藤先生も来てください! 県警呼びますので!」
「はあ? どういう……」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする内藤にそれ以上の説明はせず、明人はジェーンに近づき言った。
「ジェーン落ち着いて聞け。大統領が辞任した。次はダンだ」
「ふえ?」
ジェーン口から「何言ってるの? バカじゃないの?」といういつもの毒舌は出てこなかった。
「え? っちょっと何言って……」
「とにかく大使館に避難するぞ!」
内藤が怒気をはらんだ声で雷を落とした。
「伊集院!!! いい加減に、え?」
最後まで言わせもせず、山田が内藤の手を掴んだ。
内藤はそこでようやく何かとんでもない事件が起こっているのだと察した。
明人は問答無用でジェーンを抱き上げる。
それはお姫様だっこであった。
「ジェーン。とりあえず職員室に行くぞ」
「っちょ! 離せ!」
手足をじたばたとさせ抵抗するジェーンを見て女子から黄色い声が上がった。
そして男子から上がる怨嗟の声。
歯ぎしりしながら単語にならない呪いの言葉を吐く藤巻。
明人は彼らのあえて反応を無視して藤巻に向かって真剣な声で言った。
「藤巻さんも来てくれ……頼む!」
藤巻は一瞬驚いたように口を半開きにし、すぐに男の顔をした。
「行くぞ相棒」
◇
気を利かせた明人が酒井に電話をし、その日は一般生徒は集団下校と相成った。
職員室では対策会議と銘打った責任の押し付け合い始まっていた。
今は警察署長が事情説明をしている真っ最中だった。
だがどう考えても、すでに事態は海外のVIPの安全確保という警察署長レベルの問題ではなくなっていた。
当然、説明もしどろもどろである。
そこで生活課のエースのはずが、外道酒井の秘書をさせられていた中本がフォローをするハメになった。
死んだ魚のような目で説明をする。
説明は適切でありながら情報は最小限に。
中本は外道に振り回され続けたせいか、官僚的な態度を身につけてしまっていた。
ここ数日で2キロ体重が減った中本の苦悩は続くのだ。
一方、明人達は廊下で待機させられていた。
いくらこの異常事態の関係者であっても一生徒として扱われたのだ。
つまらなそうに窓の外を見ると校庭には放牧された牛の群れのような何台もの警察車両が見えた。
ガラガラという引き戸が開く音がした。
明人が音の方を向くとポケットに手を突っ込んだ酒井が見えた。
酒井は明人に気づいて手を振る。
「アメリカ政府内でも知る人がほとんど居ない最新情報に誰も掴んでいなかったVIPの情報。いやーまた外務省に感謝されちゃったよ」
「隠しててすいません」
「謝罪する必要は無いよ。この世は嘘と秘密でできている。そうしなければならなかったんだろ? わかるよ。ボクは何があろうとも君の味方だ」
酒井はいつもの外道スマイルではなく、明人を安心させるための穏やかな笑顔を作った。
「作戦は単純だ。大人数で護衛しながらアメリカ軍の赤坂プレスセンターに運ぶ。そこからヘリで空港に行く。安心してくれたまえ。警視庁から大部隊がやってくるよ。なんせロサンゼルスは東京駅まで30分だからね。あ、でも埼玉県警もメンツがあるからこないだ納入した装甲車を列に加えるってさ」
「すいません。ご配慮ありがとうございます」
「いえいえー。それとね、ボクの一存で藤巻君のバイクを用意したから。スポーツタイプの大型二輪。某企業がロードレースで使ったヤツを無理言って納入したんだ。警察ナンバーだからスピード出し放題。リミッターもないし」
責任ある立場の人がとんでもないことを口走っている。
「彼……まだ大型の免許取れる年齢じゃありませんけど……」
「ボクが見てみたいんだ」
「はい?」
「ボクがサラマンダー藤巻の活躍を見たいんだ! 見たい見たい見たい!!! だから細かい法律なんて死ね!」
外道がだだをこねる。
明人は埼玉県警の皆さんに心の底から同情した。
「明人君はジェーンちゃんと同じ車ね。今回の明人君の所属は埼玉県警警備部特殊警護班。階級は警部。はいこれ今でっちあげた身分証」
「なんだかなし崩しに県警の所有物にされてるみたいなんですが……」
「まっさかー。前から言ってるじゃない。君は自由でいればいい。君が破壊すればボクが再生する。ボクは君の破壊行為が見たいんだ」
完全に常軌を逸した発言ではあるが酒井は本気だった。
そして酒井は山田の方を向く。
なぜかその表情は冷たいものだった。
「ところで……君は山田さんだね? 公安の殺し屋の」
「ああ。そう言う貴方は危険人物として有名な酒井さんだね。アンタ、外務省が庇ってなかったらとっくに消されてるよ」
「……言っておくけど……明人君を殺そうとしたら家ごと潰すからね」
「……安心しろ。それだけはない。山田の意向では彼は私の婿になる予定だ。アナタのような悪徳官僚の側にいるよりは安全だ」
「はっはっはっはっは! 骨董品の山田家に彼を迎入れられる器量があるとでも?」
「はっはっはっはっは! もちろんだとも。ボクと彼はすでに剣と剣で語り合った仲だ」
「「あっはっはっはっはっは!!!」」
笑い会う二人の相性は最悪らしい。
二人とも表情が怖い。
明人はなぜか胃からきりきりとした痛みを感じた。
そしてストーリーは過去に戻る
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