第6話 再開

扉の前で待っていると、中の話し声が聞こえてきた。

「学院長、私は納得できません!」

「なぜ、神聖なる姫巫女の学舎に、お、男などを迎えなくてはならないのですか!」

「それも、2人も迎えるのですか!」

…ん、男? それに2人?

そのまま耳をそばだてる。

「この私が必要なだと言っているんだ。理由はそれで十分だろう?それに、もう1人は入るかどうかはわからんぞ?」

抑制された静かな声。だが、扉越しに聞いてさえ震えが走るほどの凄みがあった。

何度聞いても恐ろしい魔女の声だ。

「わ、私たちでは力不足だと、おっしゃるのですか?」

「無論、騎士団の力を軽んじているわけではないさ。けどね、。1人の事はよくわからないけどね」

「………男であるにもかかわらず精霊と交換できることが、ですか?」

「それもある。が、それだけじゃない」

「どういうことー」

と、少女はそこで急に口をつぐんだ。

一瞬の沈黙。そしてー

「何者だ!」

しまった。立聞きしていたことに気づかれたらしい。カミトが慌てて離れようとするとー

バンッ ー 突然、扉が乱暴に開いた。

扉を蹴り開け、現れたのはー

すらりとした美脚を高々と振り上げた、銀の胸当てを身につけた騎士のようないでたちのポニーテールの美少女。

めくれ上がったプリーツスカートの中、レース付きの下着が目に飛び込んでくる。

「黒!?」

「なっ………お、おのれっ、不埒者!」

思わず声を上げたカミトの腹に、少女は渾身の蹴りを叩き込んだ。

「ぐおっ!」

不意を突かれ、受身も取れずに吹っ飛ぶカミト。

少女は一瞬で距離を詰めると、カミトを床に組み伏せ、腰に差した剣を抜き放つ。

「貴様………まさか、お、男⁉︎」

少女の顔が真っ赤になった。

そのときー

「ふん、ずいぶん遅かったじゃないか。カゼハヤ・カミト」

執務室の奥から不機嫌そうな顔がした。

カミトは少女に組み伏せられたまま、ゆっくりと視線を上げた。

そこに–三年前とまったく変わらない、魔女の姿があった。

緩やかに波打つアッシュブロンドの髪。

妖艶な大人の色気をたたえた美貌。

小さな眼鏡の下で、髪の色と同じ灰色の眼が、こちをじっと見つめている。

……出やがったな、魔女め

カミトは胸中で苦々しく吐き捨てた。

黄昏ダスク魔女ウィッチ–グレイワース・シェルマイス。

「–三年ぶりだな、カミト。ずいぶん人相が変わったようだ」

「………あんたが変わらなすぎるんだ。黄昏の魔女」

仰向けに組み伏せられたまま皮肉を返すが、魔女はふっと微笑するだけだ。

「カゼハヤ・カミト⁉︎では、こいつがもう1人の–」

少女の眉がつり上がった。

「なあ、そろそろどいてくれないか」

カミトは少女に向かって半眼でつぶやいた。

「なんだと、この破廉恥な不届き者め!」

「一応、お前のために言ってんだがな」

「…どういうことだ?」

「いや、なんつーか………さっきから、お前のふとももが身体に当たっているんだが」

程よく引き締まった、柔らかいふとももの感触。指摘するのは少しもったいないような気がしたが、さすがに、この状況を役得と楽しめるほど擦れてはいない。

「………〜っ⁉︎」

少女の顔が赤くなり、勢いよく立ち上がると、

ー容赦なく剣を振り下ろした。

間一髪。身をひねってかわすカミト。

「な–お前、何するんだ!?」

「お、おのれ破廉恥な…そこになおれっ、サーモンマリネにしてくれる!」

「まて、落ち着け!あと俺はサーモンじゃないぞ!」

ザンッ– 鋭い斬撃がカミトの前髪を切った。

本気だ。目に一片の曇りもない。

………うん、俺はなんで1日に何度も殺されかけてるんだ? 厄日か、黄昏の魔女の呪いなのか?

………っていうか、この学院の女の子は、みんなこんな連中なのか?

壁際に追い詰められ、本気で命の危機を感じた–そのときだ。

「剣を収めろ、エリス。学院内での私闘は禁じているはずだ」

「………くっ!」

グレイワースの声に、少女−エリスは、動きを止めた。

「が、学院長…ですが!」

「私に同じことを2度言わせるつもりか?エリス・ファーレンガルト」

「…いえ、も、申し訳ありません」

エリスはキッとカミトを睨みつけ、渋々ながらに剣を収めた。

グレイワースが眼鏡を押し上げて微笑する。

「ふむ、しかしお前もそういう年頃になったのだな。まあ、甲冑の下に隠れたエリスのわがままボディを押し付けられては、たいていの少年は我慢できんだろうが」

「が、学院長⁉︎」

「まて、誤解を招くようなことを言うな!俺は−」

慌ててカミトは抗議するが、その視線が思わずエリスの胸元へ−

「き、貴様っ、ど、どこを見ている!」

「わ、悪い…!」

慌てて目をそらす。

「くっ、学院長の客人でなければ、貴様などポトフにしてやるというのに!」

「…なんでポトフなんだよ」

例えがよくわからないが、とても怖そうだ。

「エリス、君はもう下がれ。目の前でイチャラブされるのは不愉快だ。」

グレイワースが冷たい声で告げる。

「だ、だめです!同じ部屋で2人きりになるなど…この男が、その、が、学院長に不埒な欲望を抱くということも–」

「ねーよ!」

カミトは激しくつっこんだ。

………なにいってんだこいつは。

「ふむ、それならそれでかまわんさ。私はいつも勝負下着をつけている」

「なっ…」

「ん、顔が赤くなったな少年、なかなか可愛いぞ。ちなみに色は–」

「聞きたくねえ!」

「冗談だ。なにを照れている?」

「くっ!」

くすくすと愉快そうに笑う魔女にカミトは殺気のこもった視線をむける。

「し、しかし、護衛もなしに、このような輩と学院長を一緒にするわけには–」

「エリス・ファーレンガルト」

その静かな声音に、エリスの肩がびくっと震えた。

「私に同じことを2度言わせるつもりか?」

「も、申し訳ありません!」

グレイワースがよほど恐ろしいのか、エリスは震える声で頷くと、足早に廊下を去ろうとした。

そこに、魔女の声がかかる。

「ああ、ついでにも連れてきてくれ。今すぐにだ」

「な…⁉︎りょ、了解しました」

何か言おうとしていたが、グレイワースが視線をむけると黙り込んで、廊下を去っていった。

魔女の恐ろしさがよく理解できた。



ようやく解放されたカミトは、安堵の息をついて立ち上がり、執務室の中に足を踏み入れた。

そこでカミトは魔女から、情報の提供と脅迫まがいの提案をされた。

曰く➖

曰く➖

だから、精霊剣舞際ブレイドダンス出場エントリー

首を縦にふることしかできなかった。

そして、カミトが、制服を渡された時に、扉がノックされた。

「学院長、罪人を連れてまいりました」

「ちょっ、僕、なにもしてないよね?!」

エリスの声と、少し慌てたような男の声………ん??この学院に?おれ以外で?

カミトの頭は混乱でいっぱいになった。

「入れ」

「は、失礼します!お、お前も早く来い!」

「…僕は無実伸ばすだけど、…はあ、帰りたい」

部屋に入ってきたのは、エリスと白の長髪に赤目の同い年くらいの男だった。なぜか、手錠をされて拘束されている…

………なにか、見覚えが

「あっ、お前もしかしてハヤテか?」

「えっ?まさかカミト?」

カミトは、教導院時代の親友とまさかのタイミングで再開した。

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精霊使いの剣舞 〜紛い物の魔王〜 津勢覇 八天巳 @haya2356

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