第186話「超! 神影合体!!」

 かくして、オウガは戦列を離れた。会議中に利英りえいが新しく追加した霊力武装のブースターを展開し、弾道飛行で日本の日乃栄ひのえ高校へ。そこでようやく生身のファントム5とようやく合流し、辰巳たつみは目指す。敵の本拠地と思われる場所、即ちオリジナルRフィールドへと。

 その、道すがら。太平洋上空。

 ようやくある程度落ち着いた辰巳たつみは、バイザーの遮蔽を解いた。そしてぎこちなく――当人としてはいつも通りのつもりで――隣の風葉かざはを見た。

「と。りあえ、ず。オウガの方の、アレだ。システムアップデートが、終わったよ」

「そう、なん、だ」

 やはりこちらもぎこちなく、辰巳を見た。

 そして気づいた。辰巳の顔。赤くなっている。これでも大分落ち着いた方なのだが、それでも一目で分かるくらいに赤かった。

「うふ」

 風葉は、笑った。笑いながら、己のバイザー遮蔽を解いた。

 風葉の顔も、赤くなっていた。これでも大分落ち着いた方なのだが、それでも一目で分かるくらいに赤かった。

「は」

 辰巳は、笑った。笑いながら、頬をかいた。

「めちゃくちゃ緊張してたな、お互い」

「うふふ。そうだね、ホントに」

 二人は、一頻り笑った。そうする内に、新たな立体映像モニタが灯った。術式の準備が整ったのだ。二人の繋がりを持って、神影鎧装の力を引き出す為の。

「……じゃあ、始めようか」

「ん」

 頷き合う二人。そして風葉は、辰巳の右手を握る。辰巳は握り返す。強く。

 更に辰巳は、オウガの制御コンソールへ置いていた左腕を、引き抜いた。

 感慨深げに、辰巳は左手を見る。今までは操縦系統と一体化し、例えコクピットに侵入者が現れても外れなかった枷。それが、無くなった。新たな操縦システムが組み込まれたからだ。

 そのため今までそのコンソールと繋がっていた頭部及び胸部を構成する霊力装甲が、一斉に消失。外気に晒される二人。慣性制御術式である程度緩和されているとは言え、それでも結構な風圧が辰巳と風葉に叩きつける。

 しかし二人はひるまない。笑みさえ浮かべながら、飛んだ。オウガの胴の前、即ちコクピットの外へと。

 落下していく二人。同時に、今までコクピットを形作っていた床とコンソールが、軽い爆発と共に吹き飛ぶ。かつての先見術式と同じように。

 パイロットどころかコクピットすら失い、緩やかに減速を開始するオウガ。それを視界の端に見ながら、辰巳は左腕を、手首のEマテリアルを構える。

「ファントムアームシステム、起動! 出ろ! 烈空れっくう!」

 叫ぶ辰巳。Eマテリアルは術式を受諾。大量の霊力光が迸り出る。

 さながら洪水じみたそれは、数十、いや数百を超える光の線だ。線は電子回路のように分岐し、数を増やし、辰巳達の下方へと寄り集まる。針金細工のように、一個の形を成していく。

 ただし、それは今までに見てきた霊力武装とは桁が違う。

 注ぎ込まれる霊力の量が。何より単純に、その大きさが。

 そうしてそれは、巨大な人型の針金細工は、編み上がる。閃光が走る。

 一瞬の白光の後、針金細工だったそれは、確かな姿へと変じていた。

 即ち、一機の大鎧装へと。

「……」

 一つ、辰巳は息をつく。気づけば落下は止まっており、風葉や大鎧装共々空中で静止している。重力制御術式の賜物だ。

「どうか、したの?」

「ん、ああ。何だか、感慨深くなってさ」

 風葉に答えつつ、辰巳は重力制御術式を操作。大鎧装の正面へと移動。その顔を、まじまじと眺める。

 装甲は、オウガと同じ紺青色。外観は、グレンの登乗機である烈荒れっこうと瓜二つ。見た目で違うのは、せいぜい頭部の形状くらいか。

 どうあれ辰巳は、その機体の名を呼んだ。

「烈空。まさか、コイツに乗る日が来るなんてな」

 二年前。いわおが破壊した、全ての始まりとなった機体。それを術式で再現したのが、今ここにある烈空だ。もっとも内部機構及び搭載された術式は、まったくの別物になっているのだが。

「さて、行こうか」

「ん」

 辰巳は立体映像モニタを操作し、烈空のハッチを開放。まずは風葉、次に自分の順で乗り込む。

 そして、思わず呟く。

「……狭いな」

「オウガが広すぎたんじゃないの?」

「かもな」

 くすくす笑いながら、二人は戦闘機を思わせる複座のコクピットに座る。ハッチが閉まる。辰巳は、操縦桿を握る。

「さて、行くか。ビークルモードッ!」

 辰巳の操作を受け、たちどころに変形する烈空。やはり烈荒と同じ流麗な四輪車へと変じた烈空は、またたく間に加速。ヘッドライトから投射される青い霊力の道を、猛然と突き進んで行く。

 かくて数秒も立たぬ内に、斜め上方へ見えてくる機影が一つ。事前操作によってある程度減速しつつも進んでいたオウガである。もっとも、胴体上部と首は未だ欠損したままなのだが。

 そんなオウガを、烈空は一旦追い越す。推力を調整し、高度を合わせる。コクピットだった部分を確認する。

 そこにあったのは、大きな合体用ジョイントが一つ。フォースカイザーのものと似ているそれに、辰巳は烈空の車体底部を接続。烈空とオウガ、システムと術式が一つになる。

 次に烈空のボンネット部が折れ曲がり、胸部を形成。上面ルーフ部ハッチが開き、頭部が現れる。

 かくして完成した機体を、神影鎧装の名を、辰巳は呼んだ。

「神影鎧装、レツオウガ。合体完了」

 一旦レツオウガを静止させ、辰巳は改めて状態をチェック。名前こそレツオウガであるが、大きく違うのは烈空が変形した事が伺える胸部装甲がせいぜいで、あとはオウガとほぼ変わらない。

 紺青色を主体とした装甲に、ブレードアンテナとツインアイ。タービュランス・アーマーを纏っていた時とは、比べ物にならないくらいシンプルな外観。だが内に秘めた数々の術式は、比較にならない程強力だ。

 そしてその一つを、風葉は起動する。

「いくよ、五辻いつつじくん……ファントムアーマーユニット、起動!」

「応!」

 答えながら、辰巳はスラスターを起動。レツオウガはものの数秒でトップスピードに達し、音と蒼穹を斬り裂いていく。同時に、風葉の指令へレツオウガ全身のEマテリアルが応えた。

 肩部。腕部。脚部。各所に配置された青い球体が輝く。今までに使われた、どんな術式よりも強く、激しく。そして輝きは、やはり霊力の線となって噴出した。つい今し方、烈空が出現した時と同じように。

 ただし、数は違う。今度は四つ。霊力線は電子回路の如く分割しながら、それぞれレツオウガの左右斜め上、および斜め下へと寄り集まる。形を成していく。

 走る閃光。かくて顕になったその形状は――フォースカイザーの手足となった四機に、良く似ていた。すなわちビャッコ、セイリュウ、スザク、ゲンブである。

 だが、よくよく見ればそれはフォースアーマーユニットではない。機体の各部形状、カラーリング、何より顔立ちが違うのだ。

 まずビャッコは、迅月じんげつに似ている。名はファントムタイガーロボ。雷蔵らいぞうによる命名だ。

 次にスザクは、赫龍かくりゅうに似ている。名はスザクⅡ。巌による命名だ。

 更にゲンブは、黒銀くろがねに似ている。名はタウラス。メイによる命名だ。

 そしてセイリュウは――この機体のみ、顔立ちはあまり変わっていない。名はマロウブルー。マリアによる命名だ。

 これらの機体群――ファントムアーマーユニットは、その名と外観が示す通りフォースアーマーユニットを元とする大型の霊力武装である。利英のみならずあの場に居た者達全員が知恵と技術を結集した代物であるため、フォースアーマーユニットに搭載されていた機構もほぼ全て再現されている。その気になればフォースカイザーならぬファントムカイザーにもなれるだろう。

 だが、今必要なのはその形態ではなく。

「やるぞ、ファントム5――いや、風葉!」

「うん――辰巳! せえーのっ!」

「超! 神影合体!!」

 叫ぶ辰巳と風葉。レツオウガ、及びファントムアーマーユニット群のシステムが起動する。術式が、唸りを上げる。

 まず四機のユニットのヘッドパーツが外れ、残った胴体部が変形を開始。

 最初にファントムタイガーロボが、次にマロウブルーが機体を二つのパーツに分割。マロウブルーは更に変形、脚部前面装甲となってレツオウガに装着。同様にファントムタイガーロボも同じく変形、脚部側面装甲及び足底部追加ユニットとなって装着。それぞれ接続部から霊力光が噴出。

 次にタウラスが機体を四つのブロックへ分割、変形しながらそれぞれレツオウガの左右肩部、及び上腕部へと装着。接続部から霊力光が噴出。

 次にスザクⅡが機体を二つのパーツに分割、変形しながらそれぞれレツオウガの胸部アーマー、及び背部ウイングユニットとして装着。接続部から霊力光が噴出。

 次に残っていた四機のヘッドパーツが変形、合体して一つの胸部追加アーマーを形成。ファントム・ユニットのエンブレムが描かれたそれが、胸部アーマーの上へと更に装着。接続部から霊力光が噴出。同時に格納されていた両手がせり出し、力強く拳を握る。

 最後に背部ウイングユニット基部のハッチが開き、格納されていたヘッドギアが装着。レツオウガとはまったく別物となったツインアイに、灯った霊力光がぎらりと光る。

 そうして辰巳と風葉は、完成したその名を叫んだ。

「合体! 完了! レツオウガッ! エクスッ!! アァァァァァムドォォォォォッ!!!」

 かくて二人の操作に従い、完成した超神影鎧装――レツオウガ・エクスアームドは、その拳を雄々しく振り上げた。たったそれだけの動作でも、見る者が見れば分かるだろう。凄まじい量の霊力と、強大な術式が、はち切れんばかりに唸りを上げているのが。

「どうやら、上手くいったみたいですね」

 直後、そんなレツオウガ・エクスアームドへ通信が入る。左正面の下方、オリジナルのRフィールドを監視する小島が一つ。連絡はそこから来たのだ。

 視線を上げれば、かの巨大な赤色の半球――オリジナルRフィールドが、その異様を誇示している。だが、辰巳はそちらを見ない。

「ええ。そっちはどうですか? アリーナさん」

 代わりに辰巳は立体映像モニタに映る通信相手を、アリーナ・シグルズソンを見やる。先んじてこの観測所を抑えていた彼女は、利英から送られたデータを今まで整理していたのだ。

「こっちも終わってますよ。今、送りますね」

 それは座標情報であり、アリーナはエンターキーを叩く。送信完了。

 即座にデータ読み込みを開始するモニタを横目に、辰巳は風葉へ声をかける。

「風葉、そっちは?」

「ん、大丈夫。いつでも行けるよ」

「よし」

 頷き、辰巳はレツオウガ・エクスアームドを操作。ゆらりと掲げられる両腕。開いたその手のひらの上へ、現れたのは霊力の球体だ。

 左右一つずつ、太陽のように燃える霊力塊を、辰巳は構える。同時に、風葉は術式を起動。直後、レツオウガ・エクスアームドの前後左右に大鎧装サイズの正方形が出現する。

 四枚の正方形の向こうには、どれも宇宙空間が広がっている。レツオウガ・エクスアームドは、転移術式を単体で使用できるのだ。利英の頭脳と、フォースアームシステムの解析データによる合せ技である。

 転移術式の窓は増える。増え続ける。遂にはレツオウガ・エクスアームドを三百六十度ぐるりと囲んでしまう。

 映る風景も宇宙だけではない。町中、平原、砂漠。更には天来号やフリングホルニも写っている。

 即ち、どれも魔術組織の重要拠点であり――ファントム・ユニットがアフリカのRフィールドに突入する前から、標的ターゲットSのシャドーによる攻撃が未だ続いている地点であった。アリーナが送ったデータはこれだったのだ。

 そうして未だ暴れまわっているシャドーの群れを、辰巳はぐるりと見渡す。レツオウガ・エクスアームドのセンサーが、それらを余す事なく照準する。

 辰巳は、言い放った。

「メガフレア・シューター! 行けっ!」

 直後、レツオウガ・エクスアームドが構えていた球体が爆裂した。そう比喩するしかないくらい、夥しい量の光線が射出されたのである。

 メガフレア・カノンとコロナ・シューターの特性を併せ持つ全方位攻撃術式は、その全てが狙い過たずシャドー共を直撃。たった一撃で、世界中の敵影をほぼ全て破壊せしめた。

「あ……な……え……?」

 唯一残っていたのは、天来号で帯刀たてわき達の部隊と戦っていたセイバーウルフだけだ。もっともメガフレア・シューターで脚部と右腕を破壊され、既に行動不能なのだが。

「な、にが」

 唐突な援護砲撃に呆然とする帯刀へ、辰巳は通信を入れる。

「こちらはファントム4です。急で申し訳ないですが、後はお願いします」

 そうして返事を待たぬまま、通信と転移術式陣は途切れた。

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