Chapter03 魔狼 01

 翌日、午前七時四十八分。天来号てんらいごうの転送区画。

 疲れ目をこすりながら4番の扉を潜ったメイは、廊下を曲がるなり雷蔵らいぞうと鉢合わせた。

「おう冥か。おはようさん」

「やぁ雷蔵。今日も筋肉だな」

 目頭を揉む冥とは対照的に、雷蔵は快活そのものの顔でぬははと笑う。

「まぁ儂の取り柄だからの。にしても疲れとるようじゃの?」

「一晩中色んな資料とにらめっこしてたからさ。寝不足になりはしないが、長時間コイツと向き合うのはまだ慣れなくてね」

 ゆっくり首を回しつつ、冥はタブレットPCを掲げる。

「ま、本業に比べればまだまだ大したレベルじゃないけどな」

「左様か。で、何か分かったか?」

「もちろんだ。大なり小なり、色々な」

 首の体操を中断し、冥は脇に抱えていたタブレットPCを起動。白く細い指で画面をなぞり、まとめた資料を呼び出す。

「まず件の霧宮風葉きりみやかざはだが、あれでなかなか跳ねっ返りのようだな」

「ほぉ?」

 片眉をつり上げながら、雷蔵は冥の手元をのぞき込む。

 7インチの画面内には、言葉通りに風葉の略歴や家族構成、はては身体の各数値までもが子細に記されていた。本来なら教職員等にしか閲覧できない志願書や健康診断のデータだが、凪守なぎもりの情報網ならその程度は簡単に入手できるのだ。

 その中の一項目、風葉の略歴を冥は小突く。

日乃栄ひのえの前に通ってたのは光橋みつはし中学校。県の北の端っこにある進学校だな」

「有名どころなのか?」

「中の上、ってとこかな。どうあれ、普通なら日乃栄みたいな実業高校に来る娘じゃないよ」

 冥が言った通り、日乃栄高校は実技を主体に教える学校だ。

 より突っ込んだ言い方をすれば、いわゆる農業高校である。

 校舎や学生寮のみならず、学科に合わせた野菜や果樹の畑、花卉かき園芸用のハウス、食品加工や培養実験を行う実験棟、更には牛や馬を飼育する牧場、等々。様々な施設を擁する日乃栄高校の総面積は、実に東京ドーム三倍強にもなる。

 そんな敷地の地下には、その広さを生かした霊力貯蔵施設、つまり霊地が存在している訳だが、今はさほど重要では無い。

「日乃栄は実業高校だから、偏差値自体は中の下くらいだ。だから日乃栄にやって来るのは基本的におつむがそれなりのヤツか、何か目的を持って学科を選んだヤツだけさ」

 実際、風葉の志望動機は後者だ。そうした強い意志を持っているからこそ、昨日のように辰巳たつみへ疑問を放つ事が出来たとも言える。

「ふむ。で、他には?」

「ギノア・フリードマンに関してだな。まだ身元がハッキリしてた頃の足跡を追ってみたんだが、どうにも愉快なものが見えてきた」

 再度タブレットを操作し、冥はギノアの資料を呼び出す。

「ヤツが死霊術師リッチになったと思われるのは1930年頃。世界恐慌が始まって、金融市場が阿鼻叫喚の地獄になった辺りだな」

「地獄か。馴染み深いのう」

「そうだな。で、ヤツはどうやら魔術研究と平行して、大なり小なり色々とやらかしていたようだ」

「具体的には?」

「魔術を用いた暗殺、密輸、違法取引、等々。いわゆる後ろ暗い仕事だな。アイスランド侵攻から独立までの際、何か一枚噛んでいた形跡もあった」

 ――1944年、当時アメリカ統治下にあったアイスランドは、6月17日に独立宣言を行った。

 アメリカ人ながらアイスランドで魔術を学んでいたギノアは、パイプの一本として魔術師であるなしを問わずに重宝された存在だったようだ。

「なるほどの」

 冥の手元の資料を斜め読む雷蔵だが、どうにも理解が追いつかないので止めた。

「して、ギノアはその金を何の研究に使っとったんじゃ?」

「研究か。それもあるが、一番は家族のためさ」

 しれりと放たれた一言に、雷蔵は思わず目をしばたかせる。

「……ギノアは死霊術師、人間を止めた輩では無かったのか?」

「ああ、確かにな。だが生前、ヤツは妻子をもうけていてな。妻は病死した後、残った男子に結構な愛情を注いでいたようだ。名前はディーンという」

 タブレット画面をスライドし、ギノアは一枚の写真を呼び出す。

 スキャンしたらしいモノクロ写真には、葬列の中で立ち尽くすディーン少年が拡大されていた。

 妻の死亡当時とするなら、五歳くらいだろうか。利発そうな眼差しは、しかし大粒の涙に濡れていた。

「ははあ、読めたぞ。死霊術師として影ながら息子を助けていたワケか」

「ビンゴ。その後息子は会社を作り、トントン拍子で業績を拡大させていった。恐らくは親父のサポートを受けながらな」

「じゃが1962年を境目に落ちぶれた、と言ったところかの?」

 ギノアが生死不明となった第一次Rフィールド収束作戦が実行された年を、雷蔵は先んじる。

「そういう事だ。ちなみに息子は1970年に自殺している。膨大な借金を背負っていたからな」

「世知辛い話じゃのう。しかし、そんなヤツが再び動き出したとなれば、目的は……」

 ふと、雷蔵はそこで口をつぐむ。

 ファントム・ユニットの司令室前へ辿り着いている事に気付いたからだ。

「まぁ、続きはいわおの考察も交えながらにしよう。資料自体は一足先に送ってるし、巌の方もキクロプスの交戦記録を中心に色々洗ってるから――」

 雷蔵を見上げながらドアノブに手を伸ばす冥の手は、しかし自動ドアでも無いのに空を切った。

 驚いた冥が顔を前に向けると、そこには血相を変えた巌がドアノブを掴んでいた。

「ど、どうしたんだ巌?」

 いつもは細い目を大きく見開いている巌は、巌と雷蔵を見るなり早口に告げる。

「ああ、来てたのか。なら丁度良い、冥は酒月さかづきに連絡を、雷蔵はアイスランドに跳んで、エッケザックスに連絡をとってくれ。大至急だ」

「なんだなんだ穏やかじゃないな、一体どうしたんだ巌。茶でも切れたか?」

 怪訝顔ながらも軽口を忘れない冥に、しかし巌は付き合っていられる余裕が無い。

「敵の目的に予想がついた。だが――」

 このままでは、間に合わないかも知れない。そんな予想を、巌はすんでの所で飲み込む。

「――とにかく事態は一刻を争う。指示は追って出すから、今はとにかく動いてくれ」



◆ ◆ ◆



 遠い、遠い昔の話だ。覚えている事柄はそう多くない。

 それでもあの小さな、途方も無く小さな掌の感触は、今でも鮮烈に思い出せる。

 また一つ新たな夢を得た、あの瞬間は。

 ――そもそも彼にとって、魔術こそが夢であり、人生そのものであった。

 忘却の彼方に埋もれた、太古の叡智。それを発掘し、研究し、編纂し、高みを目指す。

 妻として見初めた女、ハンナにしてもそれは同じだった。

 キリスト教が主文化圏を成して久しい西欧において、今なお北欧神話の伝承を色濃く残す島国、アイスランドの女。

 霊地として改良しやすそうな土地を持っており、両親とは幼い頃に死別して天涯孤独。更に生来身体が弱い方であると来れば、始末や隠蔽も容易であろう。

 そんな下心を胸に、彼はハンナに近づき、口説き落とし、一子を成した。

 そうして、純粋な魔術師だった彼は死んだ。

 ハンナと出会った頃から揺らいでいた研究者としての価値観が、息子であるディーンの誕生によって、完膚なきまでに打ち砕かれたのだ。

 言わんや、愛の賜物である。

 それから彼はひた走った。

 妻を、息子を、家庭を守るために。彼は、それまで培ったコネと技術と情熱の全てを傾けた。

 困難は少なくなかったが、彼はその都度全力でそれらをはね除け、叩き潰した。

 無実の他人の生を踏み躙った事は数知れず、死屍血河を築いたのも一度や二度でない。日乃栄高校で彼がとった人質は、それから比べればまだまだかわいいものだ。

 無論、そうした事柄を妻に教えた事はない。そもそも魔術師である事すら、彼は伏せていた。

 だが、それでも。

 時折悲しげに目を伏せる妻に、彼は胸を痛めた。

 けれども、それ以上に確かな幸福が、そこにはあったのだ。

 ――ハンナが、病死するまでは。

 無論、彼は手を尽くした。他人の生命を磨り潰し、妻への活力にしようとした事もあった。

 しかして、ハンナはそれを拒んだ。

『         』

 最後の瞬間、ハンナが何を言ったのか。今の彼には思い出せない。

 思い出せないが、ともかくその日を皮切りに、彼は今まで以上の死に物狂いとなった。

 手始めに、まず彼は死にながらも生きる存在、死霊術師へと成り代わった。

 逝ってしまった妻に、少しでも近付くため。残された息子を、全力で守るためだ。

 そして、彼は戦った。影に日向に、家族を守るために。

 第一次Rフィールド殲滅作戦に参加したのもそれが理由だ。金が必要だったのだ。

 そうして彼は史上最大級の魔術災害に挑み――再び死んだ。

 正確には機能停止だ。魂と肉体を分離している死霊術師にとって、肉体とは替えの効くパーツに過ぎない。

 けれども何が原因なのか、Rフィールドで行った戦闘の余波なのか。

 次に目覚めた時、彼は全てを失っていた。息子はとうの昔に自殺した後だった。

 後はもう、絶望しかなかった。自分自身を破壊しようとさえした。

『――痛ましい限りです、心中お察しします。ですが、それを取り戻したくはありませんか?』

 だが。その一言から始まった提案が、彼を凶行から押し留めた。

 それは毒だ。蜂蜜よりも甘く、銘酒のように染み渡る、甘言と言う名の猛毒。

 分かっている。分かり切っている。

 それでも、彼はそれに乗った。

 一抹とはいえ希望である事に違いは無いし、そもそも断る理由が無い。失うものなどもう、何もないのだから。

 ――ぎぃ、と椅子が鳴る。

 その音を目覚ましに、彼は、ギノア・フリードマンはゆっくりと目を開けた。

 アイスランド首都、レイキャビク。

 つい三十分前、巌が雷蔵へ指示を出した国に、ギノアは拠点を構えていた。予想は的中していたのだ。

 ぎぃ、とまた椅子が鳴る。窓から吹き込む風が、ギノアを安楽椅子ごと揺らしているのだ。窓際にいるので尚更である。

「こんな時間に風、か」

 手を伸ばし、窓を閉めるギノア。拠点として借りた安アパートの窓は、がたがたと不満気に声を立てた。

 日本とアイスランドの時差は九時間。なので、ここの現在時刻は二十三時三十分だ。

 国の首都であるレイキャビクに明かりが途切れる事は無いが、深夜かつカーテンを締め切っているギノアの部屋に、外の明かりは届かない。ましてや電気も点けていない。

 けれども困りはしない。床、壁、天井。至る所に刻み尽くされた複雑精緻な術式が、霊力の白光で室内を照らし出している為に。

 そんな光に照らし出されているギノアは、外見だけ見れば三十代半ば前後くらいだろうか。丁寧に撫でつけたアッシュブロンドに、彫りの深い顔立ちを称えた白人男性である。

 服装は、所々に青い刺繍の紋様が施された白いロングコート。生前、彼が自らの魔術を刻み込んだ物のレプリカだ。

 どこか修験者のような雰囲気を漂わせるギノアは、もう一度椅子に身を沈めて瞑目する。

 眠っている訳では無い。とうの昔に人間を止めたギノアは、そもそも眠りを必要としない。

 いつもそうだ。暇さえあれば、ギノアはこうして記憶を掘り返している。

 さもあらん。今も未来も無い彼にとって、愛に満ちた過去だけが唯一の真実だからだ。

 それを、取り戻す。

 その為に、ギノアは僅かに残された自分の全てを残さずなげうった。

 死霊術師としての技法、北欧神話の知識、まだ残っていた手付かずのプール金、等々。

 もはやギノアには自分の身一つすら遺っていないが、当人に悔いは無い。

 全ては凪守の大鎧装、オウガを倒すために。

 自らの願いを、かなえるために。

「失礼しますよ」

 そんな折、唐突に開いたドアが静寂を破った。

「……お待ちしていましたよ、サトウさん」

 指一本動かさぬまま、ギノアはゆっくりと目を開けた。精彩に欠ける青い瞳が、来客者を見据える。

 ぎし、と床を鳴らしながらギノアのアジトにやって来たのは二人。

 一人は黒い男だ。

 黒いスーツ、黒いコート、黒縁のメガネ、黒髪の七三分け。

 更には大きな黒いトランクを携えた、明らかに日本のビジネスマンとしか見えないその男こそ、ギノアが名を呼んだ人物、サトウだ。

 ――第一次Rフィールド殲滅作戦に失敗し、時間だけが無為に過ぎたあの日。

 再起動したギノアが最初に出会ったのが、このあからさまな偽名を名乗るビジネスマン、サトウなのだ。

 安楽椅子に揺れるギノアをレンズ越しに眺めながら、サトウは微笑む。

「フリードマンさん。具合はどうです?」

「良好そのものですよ。あなた方から貰った術式も、私自身のコンディションもね」

「それは重畳」

 頷き合うギノアとサトウ。その背後でひとしきり室内を眺めていたもう一人が、おもむろに口を開いた。

「で、オレはソイツを前みてえに跳ばせば良いワケだろ? サトウさんよ」

「ええ、そうです。今回は室内の術式も一緒にお願いしますよ」

 サトウが振り向く先に居たのは、奇妙な男だった。

 声の質から鑑みるに、青年、だろうか。

 服装はサトウと同じスーツにコート。身長はサトウよりも少し大きい。

 だが最も目を引くのが、その顔に被っている仮面だろう。

 何か魔術的な補助道具なのだろうか。目元と口元のみを僅かに露出させているその仮面は、黒と赤のツートンカラーに塗り分けられている。

 仮面には何らかの魔術的な措置が施されているらしく、男の声は奇妙にくぐもっている。口元が出ているにも関わらず、だ。

 更に口元や手など、僅かに露出している肌は浅黒く、この男の奇妙さに拍車をかけていた。

「ヘェ? つーことはオウガをブッ潰す段取りが出来たワケか。OKOK、んじゃスパッといこうか。座標は前と同じでいいんだろ? フォースアームシステム――」

 言いつつ、右腕を掲げる仮面の男。その手首、辰巳のものと似た形状の多目的コンピュータが、霊力の光を灯しだした。

 だがサトウはそれを諫める。

「今すぐじゃないですよグレン君、日本に居るフリードマン氏の分霊から合図があってからです」

「んだよトロくせェな。さっさと終わらせてひとっ風呂浴びてえのによ」

 外見に似合わぬ、いかにもチンピラじみた仮面男の物言いに、ギノアは片眉をつり上げる。

「……相変わらずですね、レイドウくんは」

 苦笑を浮かべるギノア。

 この仮面の青年こそ、単身で高度な転移術式を駆動させる事が出来る希有な技能の持ち主、グレン・レイドウである。

 性格的には多少難があるものの、その術式に関する技量、特に転移術式の正確さに関しては、ギノアも身を持って知っている。

 更に如何なる探査術式を駆使しているのか、仮面の男――もとい、グレンは右腕のコンピュータを見下ろしながら、とんでもない事をつぶやく。

「やるならさっさとやっちまえよ。エッケザックス共が動き出してる」

 グレンの言うエッケザックスとは、アイスランドに所属する魔術機関だ。日本で言う凪守に該当する組織である。

 天来号から跳んだ雷蔵が、早速動き出したのだ。

「ほほう、凪守にも中々頭の回る方がいらっしゃるようですね。ですが、こちらの準備は既に終わっています」

 言いつつ、サトウは持っていたトランクを開き、中の物を取り出す。

 恭しく取り出されたのは、外側の大きなトランクには見合わない、小さな木箱だった。

 五十センチ四方ほどの小さな黒い立方体には、簡素な装飾と四脚の足が施されており、どこか香炉のようにも見える。だが側面にも天板にも、香気を発する為の穴は開いていない。

 そんな用途不明の箱を、ギノアは椅子から立ち上がって受け取る。その顔には、子供のような喜色が満面に浮かんでいた。

「おお! 完成したのですね!」

「ええ、調整に中々手間取りましたけどね。ここに刻まれた術式の、最後のパーツ。貴方の霊力を増大し、オウガを圧倒する大鎧装を生成可能とさせる……そうですね、霊力増幅器です」

「ありがとう! これで私は、夢を取り戻せる!」

 笑顔のまま部屋の中央に霊力増幅器を設置し、早速術式の起動準備にかかるギノア。

 その背中に、サトウは忠告する。

「ですが気をつけて下さいね? いかんせん試作品なので、あまり長く動かしていると不具合が起きるかもしれません」

「大丈夫ですよ、それほど時間がかかるとは思えませんし! ともあれ、早速始めましょう!」

 気を抜けば口笛でも吹きそうな喜びはそのままに、ギノアはまず日本にある分霊術式を起動させ、精神集中状態に移行する。

 分霊と一口に言っても、グレードによって制御に割く精神集中の度合いは変わってくる。

 単純な命令しか出来ない代わりに自律行動が出来る個体もいれば、五感全てを没入出来る代わりに本体は指一本動かせなくなる個体もいる。

 ギノアが操作しているのは、まさに後者だ。

 今、ギノアの意識は空間を飛び越えて日本の日乃栄高校にいる。なのでよほど強烈な大声や打撃でも浴びせない限り、今のギノアは何も反応しないだろう。

 それを良い事に、グレンは当人の前で堂々とぼやく。

「あーあ面倒クサ。サトウさんよぉ、こんな死に損ないとっとと片付けて、さっさと温泉にでもいこうぜ? 風呂上がりにキンキンの牛乳をこう、キュッとよ」

「それは実に魅力的な提案ですが、仕事はきっちりやり遂げなければいけませんよ。それがビジネスです」

「へいへい、分かってますよ。その為にわざわざ仕込んだんだしな」

 ちら、とグレンは霊力増幅器に視線を落とす。あの箱の内部、天板の裏側にも彼は転移術式を仕込んだのだ。

「にしても、中々エグイ事してるよな俺ら。この死に損ない、あの箱の中身が何なのか分かってないんだろ?」

「そうですね。ですがまぁ、フリードマンさん自身が望まれた事ですし」

「ハ、良く言うぜ。この死に損ないを復活させたのも、中身のアレに細工したのも、サトウさんなんだろ?」

 変わらぬ笑顔を貼り付けたまま、サトウは頷く。

 判子で押したように変わらぬ表情には、しかしうっすらと愉悦が透けていた。

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