まったき獣のみるゆめは

Tm

序章

この世の起こり、その後の物語

 とある城山には、この地に伝わる神話の記録が仔細にわたり記されてある。

 それによると、この世の起こりは二柱の神の夫婦喧嘩から始まったのだという。


 まだ神と生ある者たちがともに暮らしていたころ、神々の中でもひときわ強く大いなる力を持つ男神ペルンが、一部の生ある者たちを気にいり、特別に慈しんだ。

 それに怒りを示したのが、ペルンに次ぐ力を持つ女神ヴェーレス。ヴェーレスは白い熊のような姿をした、ペルンの母とも、妻とも言われていたようだ。

 気に入ったものにだけ加護を与えるペルンと、すべての生ある者を慈しむヴェーレスは互いにいさかい、それは争いへと移り変わった。

 大いなる二柱の神々の争いは世界に亀裂を作った。

 それにより天と地は別たれ、火柱が舞い、地は隆起した。空は産声を上げ雨を流し、地は傷を覆うように幾筋もの川を作った。天と地とが別たれたことにより崩落と再生が起こり、不滅の神とは違う生ける者たちは次々に死に飲まれていった。


 争いの末に数多の神々は災難を恐れ散り散りになり、最後に二柱の神が残る。


 残った二柱は男神ペルンと女神ヴェーレス。

 二人は七夜争い、八日目の朝、とうとうたもとを分かち、ペルンは天へと昇り、ヴェーレスは地へと潜った。

 取り残された生ある者たちは二柱の神の別離を嘆き、そしてまた各々が愛する神々についた。


 男神ペルンについた者たちは智を経て毛皮を脱ぎ空を見上げて生きることにした。

 女神ヴェーレスについた者たちは自由を得て爪と牙によりより速く地をかけ野を超え大地とともに生きることにした。


 それがこの世の起こりと、人間と、獣の始まり。


 それでもかつての楽園を思い、再びペルンとヴェーレスが出会い、心を分かち合うことを願う者たちがいる。

 彼らはこの世の起こりのその前をと呼び希い、二つに分かれる前の同胞を、と呼んで崇めた。


 これがとある山のたもとに住まう一族に代々言い伝えられてきた神々の物語。

 これから始まるお話は、その末裔たちの、物語。

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