第三話 戦闘準備(バトル・スタンバイ)
「ところで、
自分の置かれた状況を深く理解しないままで、僕は質問した。
「そうだな、ざっと――」
*
以下、教授の右往左往する説明をまとめると、こうなる。
ミツドランド王国に転写された人間の総数は、僕が転写された時点で「三千五百三十四名」だった。
この人数と、降臨儀式を開催した回数である「三千五百二十九回」には微妙なずれがあるが、これは正式な儀式化に先立って、五回の転写実験が行われたためである。
その後、転写されたという事実に耐えられず自死した者、転写後の生体融合過程で事故死した者、実際の戦闘中に死亡した者、病死した者など、この世界から脱落した者は「二千五百三名」にのぼった。
つまり、現在生き残っている人間は「一千三十一名」となる。
さらに、その中で現在も戦闘可能な生体装甲を有している者は「二十五名」に過ぎない。
残りは、転写時に戦闘可能な生体装甲が形成できなかった者か、戦闘により生体装甲を失って再生できなかった者となる。
その数は差し引き「一千六名」だった。
*
食事が終わると、教授は僕に、
「自分の
と言った。
転写された僕が個蟲の宿主となり、外部角質化と機能分化を経て、”
僕には途中の記憶が全くなかった。
いや、正確には、いまだに思い出す度に背中が反るほどの恐怖を感じる『闇の記憶』しかなかった。そして、そのことを今は考えたくない。
僕は教授の申し出に乗ることにした。
*
現存する二十五体の生体装甲は、ミツドランド王宮の格納庫に収容されており、その格納庫は王国の北の外れ、王都の城壁に貼りつくように作られているという。
生体装甲は近接格闘用の人型兵器だから、他国の侵略が行われた時には速やかに城外へ迎撃のために出なければならない。
だから、格納庫が城壁ギリギリにあるのは当然だったが、ここは周辺の環境が特に酷かった。
王都の中でも身分の低い住民が生活する地域の、さらに外れにある壁で区切られた地域で、そこに転写された現存する人間「一千三十一名」が押し込められているという。
僕が起きた部屋や食事をした食堂は、転写直後であったために王宮内の施設を借りることが出来た。
しかし、体調や精神状態に問題がないと判断された時点で、そこから放り出されて格納庫エリアに移動することになる。
実際、食堂から出た途端に、待機していた神官から「格納庫に移動するのであれば、身の回りのものをすべて携行するように」と言われた。
もちろん、僕には携行すべき私物はない。着の身着のまま、何も持たずに、使役獣が引く窓もない車輛に閉じ込められるようにして、僕は格納庫まで運ばれた。
先日の”
しかし、これはどう考えても「犯罪者の護送」だ。
揺れる車両の中で、僕は教授から「ミツドランド王国と生体装甲の関係」についての説明を受けた。
*
ミツドランド王国が保有している生体装甲「二十五体」が多いのか少ないのか、無論僕には分からない。
そして、教授も、ボルザ全体はもちろんラムザアル大陸にある大小十五の国家が、各々どれだけの生体装甲を保有しているのか、実数は把握していなかった。
ただ、ミツドランド王国の規模からすると「二十五体」というのはかなり無理をした数字らしい。
これにはラムザアル大陸の力関係が影響を及ぼしている。
ミツドランド王宮は、十五の国家群の中では「中程度」の規模である。
小規模な国は最初から大国に抵抗することを諦めており、生体装甲の開発競争に熱心ではない。
軍備増強よりは、むしろ大国の保護下に入るための政治的な駆け引きのほうに重点を置いている。
ラムザアル大陸にはそのような国家が七つある。
また、同じくラムザアル大陸にある三つの大国は、それぞれが桁外れの軍事力を保有しているために、いざ戦闘となると膨大な準備と莫大な被害が出る。
そのため、いずれの国も交戦には慎重で、軍事行動の前の外交交渉に力点が置かれていた。
どっちつかずの規模にある国家が、残りの五つ。
その中の一つであるミツドランド王国は、それゆえ大国や同規模の国による侵略行為に常に悩まされており、だからといって「いずれかの国の庇護下に入る」には国家の自尊心が強すぎた。
過去の歴史において、ミツドランド王国は一度ラムザアル大陸全土を掌握しかけたことがある。
その矜持が今も残っており、ミツドランド王国の土台を支えている原動力であると同時に、危うくしている根本原因でもあった。
人間の歴史でも、賢王の善政により栄華を誇った国が、その直後に愚王が続いて衰退する例がある。ミツドランド王国でも同じことが起こった。
二代続いた愚王の時代に、領土が奪われ、戦費として国庫の富が放出されて、ミツドランド王国は一等国家から二等国家へと転落した。
今、
王国内の経済は長期低迷から回復できず、軍備増強はおろか生体装甲の開発競争にも後塵を拝している。
転写しても全員が生体装甲と融合できる訳ではない。むしろ融合できる人間は稀少だ。
だからといって役に立たなかった人間を簡単に切り捨てると、今度は有用な人間が裏切る可能性がある。
なぜなら、
「俺たちは使い捨てのコピー用紙か」
という話になりかねないからだ。
役に立たない人間であっても、そこそこの生活を保証しなければならない。
従って費用が嵩む。
少しでもそれを圧縮するために、人間の生活圏はまとめられているという。
実はここで、重要な説明が意図的に抜かされていたのだが、その時の僕は気づきもしなかった。
ともかく、生体装甲には金がかかる。
しかし、他国の侵略から自国を守るためには、国庫が疲弊することを承知の上で軍備拡張と開発競争に乗り出さざるをえない。
滑稽だが、それがこの王国の置かれている現実だった。
*
他国の侵略を撃退した直後ということもあり、格納庫は人気がなかった。
(それにしては庫内の空気が生暖かい)
空調設備で一定温度に保っているのだろうかと思い、僕は天井を眺めまわしてみた。
しかし、木製と思われるむき出しの
生体装甲は、横五十メートル、奥行き百メートル、天井高二十メートルぐらいあると思われる格納庫の中に、おのおの木製のラックで支えられた状態で、あちこち無造作に置かれていた。
一列に並べておくという発想はないらしい。
生体装甲そのものは全高四メートルもある巨人だったが、広い格納庫にしては数が少なすぎるから、まるで子供が人形を遊び散らかしたような雰囲気だった。
おのおのの機体(と呼んでいいのかすらわからないが)は、戦国時代の武将が身につけた兜や鎧のような形状をしている。
外観は黒々として、光沢があった。
(異世界なのに、どうして日本の鎧兜に似た形なのだろう?)
と、素朴な疑問が湧いたが、教授が格納庫の奥に足早に歩いてゆくので、それを追いかけるのに精一杯となり、質問できない。
彼女は格納庫の一番奥まで行くと、他のものとは少し離して置かれていた一体の生体装甲を手で示した。
「これがお前の生体装甲だ」
その生体装甲は、白かった。
そして、他の機体とは違って鎧兜のような装飾は一切施されておらず、むしろ西洋の甲冑のような曲線で構成されていた。
優美で、儚げに見える。少なくとも兵器らしい威圧感はない。
僕は、その四メートル近い「絵画用のポーズ人形」のような姿を唖然として眺めた。
「あの……、武器は何か装備されていないのですか?」
「今のところ、ない。刀を製造するにしても一か月はかかる」
「他のと違って華奢ですから、楯のような補助装甲は?」
「それは予定にない」
「じゃあ、敵が来たらどうするのでしょうか?」
「当然、戦闘に出てもらうことになる。戦い方は自分で編み出してもらうしかない」
「……兜も鎧もなしの、素手で、ですか?」
「そういうことになるな」
僕は両足の膝に両手をついて、項垂れた。
「無理に決まっているじゃないですか――」
「そんなことはない」
「そーです。そんなことはありません!」
「だって武器がないんじゃあ」
「全くの丸腰という訳ではない」
「そーです。武器はあります!」
「だって、それらしき装備はどこにも――」
と、ここで僕はやっと会話に誰かが割り込んでいたことに気づく。
顔を上げて教授のほうを見ると、教授の右手前方に――
赤くて長い撒き毛の、細身をやはり赤いワンピースのような服で包んだ身長十四センチ程度の女の子が浮いていた。
「あの、教授、この子もやはり教授の従者か何かで?」
「いや、これは私の
「そーです。情けないことを言わないでください、
……御主人様?
「あの、それは僕のこと?」
「そーです。当たり前じゃないですか、御主人様!」
空中に浮かんだ女の子は、両手をぶんぶんと振り回しながらそう言った。
「えーっと、その、じゃあ君の名前は?」
途端に、目の前の二人が驚いて一瞬沈黙する。
そして、教授がこう説明した。
「ああ、そう言えば説明していなかったな。名前はお前がつけるんだ」
一瞬の沈黙。
「……そんな、急に名前をつけろと言われても」
困惑した雄一は、教授の前に浮かぶ『赤いワンピースを着た妖精』を見つめた。
そういえば、ミザアルもそうだったが武装妖精には羽がないらしい。
蜂鳥がホバリングする時のような上下左右への微かなブレがなく、ただ無造作に空中に浮かんでいた。
それが不思議でならない雄一は、思わず『赤いワンピースを着た妖精』をまじまじと見つめた。
彼女は急に顔を赤らめると、もじもじし始める。
「御主人様、あの、ちょっと、恥かしいです……」
「あ、ごめんなさいっ! まだ異世界の出来事に慣れていないので、つい――」
雄一は慌てて視線を逸らすと、格納庫の天井を見上げる。
その様子を見ながら、教授は腕組みをして
「まあ、そうだな。まだ来たばかりで慣れていないから仕方がない。名付けには締め切りはないから、急ぐ必要はないが――ただ、次回の戦闘までに名前をつけないと、自分が戦場で困ることになる」
「……」
雄一は黙ったが、教授の言わんとするところは理解できた。
いつまでも『赤いワンピースを着た妖精』では、確かに迂遠すぎる。
頭を
「出来るだけ早く名前を考えて準備することだ。何せ六つも必要だからな」
「――ちょっと待った! 六つだって?」
「だから、ほれ」
教授は、僕の生体装甲の足元を右手の人差指で指し示した。
足の向こう側から『猫に似た姿をした、成牛ぐらいの大きさの獣』が、大儀そうに姿を現す。
そして、その背中の部分には三人の武装妖精と、もう一体の使役獣と思われる毛玉のようなものが載っているのが見えた。
教授の前に浮かぶ『赤いワンピースを着た妖精』にそれらを加えた一団が、僕が名前をつけなければならない『従者』だった。
確かに、事前に教授から『騎士階級には四体(「火、雷、氷、土」の四属性)の武装妖精と、二体(主に攻撃系と斥候系)の使役獣が割り当てられる』という話を聞いてはいた。
しかし、自分自身がその対象であると思っていなかったので、僕はちょっと面食らった。
(――しかも、どうしてまた赤がいる?)
獣の上の妖精は、それぞれが髪の色に合わせた「黄」、「青」、それに「赤」の衣装をまとっていた。
教授の従者であるミザアルは、青い髪に青い衣装で属性が『氷』であったから、黄色の妖精が『雷』、青の妖精が『氷』、赤の妖精が『火』であると考えても間違いではなかろう。
ということは、雄一だけ『火』属性の武装妖精を二体割り当てられたことになるのだろうか?
雄一は武装妖精と使役獣の姿形を、個々によく確認してみる。
教授の前に浮かんでいる『赤いワンピースを着た妖精』の外見は、人間であれば「高校生」ぐらいに見えた。
ミザアルは『二十歳前後の女性』に見えたことから、雄一は武装妖精がすべて『成人前後の女性』の姿をしているものと、早合点していたのだが――
『黄色のスモックを来た妖精』は、非常に幼く見えた。
もちろん異世界の生き物を、外見上の特徴や人間世界との比較で判断してはいけないことぐらい、雄一にも分かっていた。
しかし、さすがに肩より上のところで真っ直ぐな髪を切り揃えて白いリボンを巻いた、人間で推定すると『幼稚園児から小学校低学年ぐらいの少女』にしか見えない妖精が『武装妖精』だと言われても、どうやったら彼女が戦えるのか見当もつかない。
逆に『青い長髪の妖精』は、三十代後半の女性に見えた。
背中の真ん中まで届くほど長くて真っ直ぐな青色の髪が、化粧の濃い顔の半分を覆い隠している。
そして、太っているとは言えないものの、少々ラインが崩れ始めた年代物の豊満な身体を、表面積の小さい青色の水着の中に押し込めていた。
いろいろと無理をしている感じがする。
もう一体の『赤い妖精』は、女性ですらない。五十代男性に見える。
白髪頭は短く刈りそろえられていたが、白髭は乱雑に伸びていた。
衣裳が赤い上に顔までが赤い。
どうやら酒を飲んでいるらしく、大きな獣の上で頻りに身体を揺らしていた。
つまり、「酔っぱらったサンタクロース」のような姿だった。
巨大な『猫のような使役獣』からは、さすがに「攻撃系」の風格が漂っていた。
しかし、残念なことに「彼が年老いている」という事実も伝わってくる。
身体のあちらこちらに古傷が走り、その部分の毛皮が綻びていた。
最後の『小さな毛玉』は「斥候系」の使役獣だろうが、その形状ではむしろ目立って仕方がない。
この一団が自分に割り当てられた武装妖精および使役獣かと思うと、雄一は気が重くなった。
*
ここで、少しだけ時間を遡って捕捉説明する。
ミツドランド王国に進行した隣国の軍勢は、雄一が”
そして、一時間が経過して動けるようになると、侵略時よりも速やかに引き上げていった。
どうしてわざわざ侵略という手段に出ておきながら、無力化されたとはいえ何もせずに引き上げたのか。
それは、武装妖精および使役獣が使い物にならなくなって戦闘が継続できなかったからである。
武装妖精は”
そして、自我核の拘束時間は半日近かった。
侵略軍に、敵も無力化から解放されつつある戦場で、散らばった自我核を探している時間的な余裕がある訳もない。
また、戦場における使役獣は「通常形態」から「戦闘形態」に姿を変化させているが、こちらも”
そして、やはり騎士階級よりも無力化の時間が長かった。
そうなると大型の使役獣は移動させるのが難しい。やはり戦場に放置されることになる。
高位の騎士階級ともなると、武装妖精の一個師団と使役獣の一個師団を従えており、敵にも何人かはそのような『軍団』がいたらしい。
侵略軍が去った戦場には、膨大な数の自我核と使役獣が放置されていた。
さて、この「戦場に放置された武装妖精と使役獣」は、それを回収した側に所有権が移動する。
つまり、無力化解除後に戦場に放置された無数の武装妖精と使役獣が、守り手であるミツドランド王国の所有するところとなった。
通常の戦闘であれば、残された武装妖精や使役獣の新たな所有権については、『所有権移転の原因を作った功労者』が優先的にそれを主張することができる。
要するに、優れた武装妖精や使役獣を自由に選べるということだ。
従って、一応は今回の功労者となる雄一に対して、その見返りとして「厳選した武装妖精と使役獣を割り当てる」というのが筋なのだが、誰もそんなことは言わなかった。
むしろ姫が、
「奴のような半端な生体装甲には、半端者が似合いだ」
と言い出したため、出撃準備中に無力化されて憤っていた騎士階級が乗っかる。
進一には、以前からミツドランド王国で所有されていた「使いにくいので持ち主が定まっていない」武装妖精と使役獣が回されることとなった。
要するに『問題児』ばかりである。
この時点で雄一は、その辺の裏事情をまったく知らなかった。
*
武装妖精や使役獣にとって『命名』は、契約行為に他ならない。
その命名者が権利放棄しない限り、それに縛られる。
また、途中で変更することもできない。
目の前に並ぶ者たちを眺めながら、雄一が途方にくれていると、
「まあ、今すぐにというのは無理そうだから、今晩一晩考えればよい。それより、生体装甲を動かしてみたくはないか」
と、教授が言った。
そして、彼女は雄一の生体装甲から少し離れた右隣に置かれていた、雄一のそれよりも一回りも二回りも大きい、ひときわ鎧状の装甲が派手な黒色の生体装甲を右手で示す。
「これは私が所有する生体装甲、『
と、自慢げな口調で言うやいなや、教授は同時に腰の部分にある紐を、左手で思い切り引く。
そもそもが乱雑に紐で括られていただけの白い衣である。
紐が引かれると足元に流れるように落ち、褐色の肌が露わとなった。
教授は見た目『成長途中にある少女』であったが、出るべきところは見事に出、引っ込むところは過不足なく引っ込んでいる。
容姿の可憐さに比べてアンバランスな肉体の隆起は蠱惑的ですらあるのだが、それが丸見えであること、そしてかなりのインパクトを持っていることに、教授本人はまったく
「生体装甲の
「分かりました。御主人様」
言葉の意味は分かったが、雄一はあまりのことに状況についていけなくなっている。
また、本人が堂々としているために、目を逸らすことすら忘れて、教授の肢体を凝視してしまった。
教授はそのしなやかに引き締まった褐色の肢体を優雅に動かすと、自分の生体装甲の前に立つ。
すると、『神君』の、鎧で言うところの『胸板』の部分が大きくめくれあがった。
その中から一斉に、
表面がてらてらとした滑りを帯びた、
茶褐色で太さがまちまちな触手が伸び、
教授の褐色の肌を覆い尽すやいなや、
その場から運び去った。
その様子は、どう考えても『搭乗』というよりは『捕食』である。
雄一はその光景に身を
すると、頭の上のほう、『神君』の顔と思われる辺りから、教授の声が聞こえてきた。
「ほぅら…お前、も…さっさと乗ら…ないか」
言葉の途中で、変に声が掠れたり息が漏れたりしているものの、命に別状はないらしい。
しかし――と、雄一は自分の生体装甲を見上げる。
やはり、さっきのは喰われたようにしか見えなかった。
足が
その様子を見ていたのか、教授は息を切れ切れに吐きながら言った。
「あぁ…面倒な、奴だ、なぁ…ミザアル!」
「はい、御主人様」
二人の間で、長年連れ添った夫婦のように、以心伝心で言いたいことが伝わる。
ミザアルは右の
「な――」
背中から押された雄一は前のめりになって、三歩進んだ。
途端に、頭上の白い生体装甲の『胴前』が開き、
触手が衣を剥ぎとって、
雄一の身体を持ち上げ、
爪先から粘着物に埋もれる感覚がし、
粘着物が
爪先から一気に何かが差し込まれてゆく鈍い感覚が上ってきて、
尻や尿道に何かが差し込まれる快感があり、
視界まで軟体動物に埋もれてゆくと同時に、
その「穴という穴に何かが差し込まれる」快感が全身を貫くと、
一秒後に、彼は背中を逸らして硬直していた。
(むっ…ふうん…)
プリン状の物体の中に、全身の穴という穴を細かい針で刺し貫かれて、漂っているような状態を想像してほしい。
しかもそれが極めて心地よいのだ。
(
(聞こえるか、雄一)
頭に直接、教授の声が流れ込んでくる。
先程よりも理性的な声だった。
「聞こ…える」
(そうか、ということは
教授の言葉と同時に、その概念が頭の中に流れ込んでくる。
共有概念結合――ネツトに常時接続し、ビツグデヱタを自動参照する状態
受信系神経節――無線LANの受信側端末
発信系神経節――無線LANの発信側端末
受発信神経結合――相互認証が完了して通信可能な状態
(前回は急に状況が変化したために、
初期設定――初回起動時の管理者権限設定
教授の言葉が理解可能な概念として、雄一の中で置き換えられてゆく。
次第にそれは、今聞いた言葉だけではなく、目を覚ましてから聞いた言葉にまで及んでゆく。
――
(
雄一の頭から自然に言葉が流れ出た。
目の前に格納庫内の状況が見える。しかもかなり高い位置、雄一の白い生体装甲の顔にあたる位置から見えるであろう角度の世界だ。
(これが、
(そうだ。こっちを見てみろ)
雄一は声のするほうを向く。
前方には教授の『神君』が立っており、
(動けるか?)
(大丈夫、分かります)
複雑なことは何もない。
今、雄一と生体装甲は
雄一は無造作に歩き出す。
身体が想像以上に軽い。「羽が生えたような」という表現があるが、実際にそれに近かった。
教授が満足そうな声をあげる。
(ふむ。これは
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