カガセオミカボシ
―――三たびの轟音。
「・・・・・・!?」
だがその音の性質は、前の二回とは明らかに異なっていた。
空を切り裂くようだった前二回と違い、三回目の轟音はまるで―――
大きく硬い物質に、何かが思いっきり激突したかのような・・・。
「・・・これは・・・!」
・・・そして、俺のその感じ方は決して間違ってはいなかった。
岩。
岩。岩。岩。
視界一面を覆い尽くす、岩の群れ。
それが俺と美佳の前方に立ち並び、砦のごとき壁を形成していたのだ。
「・・・岩・・・?」
・・・もともと宿魂石の山頂部は無骨な岩場ではあったが、今見えている光景はそういうこっちゃない。
まるで天然の城壁だ。
岩々が列柱のように横一列にひしめくその様は、ある種の統率性すら見出せた。
「・・・・・・」
美佳は正面―――つまり、岩の城壁の方を向いたまま、一言も発さない。
ただ、つい先ほどまではフツノミタマが握られていたその右手を
今はかざすように前方に突き出している。
『・・・ぐ・・・!
・・・・・・がフっ・・・・・・!』
岩壁の向こうから、男のうめき声がかすかに聞こえてくる。
アインだ。
「・・・」
刹那の出来事で、やはり俺の目には追えなかったが・・・だが、状況的に何が起こったのかは、なんとなく察することはできた。
「美佳・・・」
「・・・」
「・・・・・・これ、お前がやったのか・・・・・・?」
つまり、何らかの―――というか、恐らくは美佳の力により、この宿魂石山頂に散在していた岩々が一瞬で俺たちの前方に集まり、強固な盾となったのだ。
・・・そして、アインはあの凄まじい突撃速度のまま、哀れにも岩の盾に激突してしまったのだろう。
「・・・かつて・・・星神・
・・・隕石とは、光を失った星の骸だから」
「・・・・・・」
「けれど、岩くれと化してなお、骸は忘れてはいない。
・・・星神の一部であったことを。
ゆえに、わたしが呼びかければ、ほんの少しだけ『ねがえり』を打ってくれる。
・・・こんなふうに」
言いながら、美佳の右手がふいっと空を切る。
と。
「!!」
音もなく、城壁を形成していた岩々が・・・宙に浮いた。
『・・・・・・ぐぅうっ・・・・・・!
・・・・・・・・・・・・!!』
拍子に、岩壁の向こうでうめき声を上げていたアインの姿が垣間見える。
騎乗していた大蛇ごと岩場の上にくずおれ、身体のあちこちがひしゃげているように見えた
・・・が、その痛ましい姿を、俺がはっきりと視認することは叶わなかった。
音もなく宙に舞った岩々のうちの一つが。
・・・音もなく、アインの頭上に。
『・・・・・・・・・・・・!
・・・・・・待っ・・・・・・!!』
「 だ め 」
それが合図だった。
直後、宿魂石の山頂に四度目の轟音が鳴り響いた。
ただし、今までとは比較にならないほど激しく、長い轟音が。
「・・・・・・・・・・・・ッ!!」
地べたに這いつくばっていたアインの頭上めがけ、岩々がいっせいに降り注いだのだ。
「・・・うぉ・・・おっ!」
岩山―――宿魂石全体を揺るがすほどの巨石のスコールに、俺は立ち続けることすら叶わず、その場に尻もちをつく。
「・・・」
轟音。
轟音。
轟音。
アインの断末魔すら届くことを許さないほどに、岩が弾け、山が震える、その轟音に。巻き上がる砂煙に。
俺の五感は遮られた。
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