マレビトガミ

「・・・高加くんの方から僕の所に来るなんて珍しいな」

「いや・・・まあ・・・はい・・・」


歯切れ悪く答えながら、俺は椅子に腰掛けたまま対応している目の前の痩せぎすな教師をじっと見据えた。


西宮 三郎。

この学校で世界史教諭をしている、名物トンデモ教師だ。


「あ、いや、俺たち入学してまだ三カ月ですよ?珍しいも何もないと思いますけど」

「さっちゃん、いつも西宮先生のことうさんくせーって言ってるもんね~」

「おい、余計なこと言うな!」


俺は背後でニタニタしてた美佳の方を振り向いて、思わず声を荒げる。

まあ、美佳の心に余裕が戻ってきたのは何よりだが。


「ははは。いいんだよ。僕はうさんくさいのを売りにしてるからね。

 ・・・それで、そのうさんくさい陰謀論者に何の用だい?」

「・・・・・・・・・・・・」


どうしよう。何と切り出したものか・・・。

嘘をついたり、要点をぼかすのはダメだ。それなら相談相手は他の先生でもいいことになる。

だが正直に言うにしても、言い方ってもんがある。

いくらこの人がオカルトに精通してても・・・いや、オカルト好きだからこそ、ヘタな切り出し方をすればバカにされてると受け取って、怒って話を打ち切ってしまうかも知れない。


「わたしたち、ヒル人間に襲われたんです」

「!

 ・・・ほう!」

「ちょっ!?」


・・・そんな俺の迷いを、美佳はかるーく踏み越えてしまった。


「というのもですね、さっきさっちゃんと下校デートしてたんですけど、なんかやたら早く日が暮れたと思ったらヘンな歌が聞こえてきて、そしたらいきなりさっちゃんが乱暴にわたしの腕を引っ張って走り始めて、え?え?やだ、このまま草むらに連れ込まれたりしたらどうしよう・・・キャ♪とか思ってたらいきなり目の前にヒル人間が現れて、さっちゃんは右だって言ったんだけどわたしには左に星が見えて、その後右に3回曲がって・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・。


「高加くん・・・。すまないが、通訳とかお願いできるかな・・・」

「・・・なんかすんません・・・」


つーかお前、あの状況でそんなこと考えてたのかよ・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「――と、いうわけなんですけれど・・・」

「・・・・・・・・・・・・」


美佳の見切り発車で観念した俺は、さきほどの恐怖体験をなるべくディティールが伝りやすいようにゆっくりと、一通り説明した。

ただし、美佳の星を見る才能だけは伏せて。

今俺以外の人間に美佳の異能を知られるのは、リスクがあると思ったからだ。

あの田園異次元を抜けられたのも、がむしゃらに走った結果の偶然ということにしておいた。


「・・・・・・・・・・・・」


西宮先生は押し黙っている。と言うか、こちらが説明してる時から一言も発さないでいた。


「あの、西宮先生?」


不意に西宮先生はこちらに背を向けると、デスク上のパソコンに向かってなにやら打ち込み始めた。


表示されたのは、黒一色の薄気味悪いデザインのホームページ。

一目でオカルト関係のサイトだと分かった。


「僕もまだ、調査中なんだが・・・」

「・・・って言うか、学校のパソコンでこんなとこにアクセスして大丈夫なんですか?」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだろう?」

「いや、そうですけど・・・」


取り敢えず、俺たちの話に取り合ってはくれるようだ。


奇門遁甲きもんとんこうの術というのを知ってるかい?」

「キモン・・・?」

「古代中国の難解な占術さ。三国志演義なんかにも出てくるから、有名と言えば有名なんだけどね。

 五行術や風水術なんかの要素もあって、むしろ呪術に近いが」

「はぁ・・・」


・・・やっぱりこの人の言うことはよく分からん。


「・・・それが日本に入ってきた際、より即効性のある魔術として体系化された。

 その一つに八門遁甲はちもんとんこうの陣というものがある」

「・・・」

「元々は軍事用の呪術で、兵士の配置を調整して魔術的な布陣を敷くことにより、打ち破られづらい堅陣にするんだ。

 ・・・転じて、その『置き石の配置』を流用して結界を築くことにより、結界内の被術者を・・・」

「ぁふんっ」

「・・・ん?どうしたんだい?」

「な、なんでもないですっ」


西宮先生の講釈の最中、美佳が突然空気の抜けたような悩ましい声を上げた。


まあ、犯人は俺なんだけれど。


直立したまま器用に舟を漕ぎ始めていた美佳の脇腹を、俺が肘で軽くつついたのだ。

どうやら西宮先生のヨタ話・・・じゃなくてご講義は、こいつのキャパシティを超えていたらしい。


・・・いや、休ませてやりたいのはやまやまなんだけど・・・。

でも、今活動休止されるのは命取りになりかねない。

何が恐ろしいって、ヒル人間は恐らく俺たち『だけ』を狙っているであろうって点だ。

噂としてはかなり前から浸透しているのに実害はこれまで出ておらず、そのくせ俺たちは最初の被害者になりかけてるんだから。


「・・・まあ、要するに、結界としての八門遁甲の陣は、結界内の人間を魔術的な迷宮に落とすことで半ば封印状態にする術だ。

 抜けるには東西南北八方の霊的な抜け道を正しい順序で通るか、結界外の人間が外側から『置き石』を崩さねばならない」

「・・・俺らが、その八門なんちゃらって魔法を掛けられたっていうんですか?」

「いや・・・。

 説明しておいて何だが、八門遁甲の陣を結界術と解釈するのは、どちらかと言うと創作寄りの捉え方だ。

 ・・・ただね、『置き石』を特定の配置・・・つまり、地脈の『ツボ』に置くことによって地理的な変異を起こすという考え方自体は、中国や日本に限らず、世界各地にある」

「・・・」

「君たちには突拍子もない話に聞こえるだろうが、極端な話、見慣れた土地が区画整理などによって一変してしまい、土地勘が鈍ってしまうのも

広い意味ではそうした術と同じ現象なんだよ」


正直、ほんの少しだけホっとした。

ここでもし、『そうだ!これは八門遁甲の陣に違いない!』とか言われてたら、やはりこの人に頼るのはやめて

他の先生に警察へ連絡してもらうよう頼んでいただろうから。

ヨタ話にはヨタ話なりのバランス感覚ってものがあるんだろう。


「・・・まあ、他にも分からないことだらけだし、迷路の件は一旦脇に置いておこうか。

 ・・・君たちの話を聞いてて僕がもう一つ特に気になったのは、ヒル人間の発する『声』とやらなんだが・・・。

 具体的に、彼らはどんな言葉を発してたんだい?」

「言葉・・・ですか?えっと・・・あれ?」


そう言えば、おぼろげながらもリズムに乗って発声していたような・・・。

いや、リズムというより旋律か?それも、思い出そうとしてみるとひどく聞き覚えのある旋律だった気がする。

恐怖で感覚がマヒしてたのと、まるで知性を感じない外見だったせいで、今の今まで気にしてなかったが。


えーと、あれなんだったっけ?

・・・くそっ、ここまで出かかってるのに~・・・。


「『とおりゃんせ』でしょ?あれ」

「!」


・・・先に言われた。

と言うか、口ぶりからして美佳は最初から気づいてたようだ。


「『とおりゃんせ』・・・?そういえば、噂では歌を歌いながら襲ってくると言われてたね」


言いながら、西宮先生はとおりゃんせの歌詞が載っているサイトを開いてみせた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


通りゃんせ、通りゃんせ。


ここはどこの細道じゃ。


天神さまの細道じゃ。


ちっと通して下しゃんせ。


御用のないもの通しゃせぬ。


この子の七つのお祝いに。


お札を納めにまいります。


行きはよいよい、帰りはこわい。


こわいながらも。


通りゃんせ、通りゃんせ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・」


なんて言うか・・・。

改めて見ると、正直薄気味悪い歌詞だ。

あんなのに遭遇した直後だから余計そう感じてしまうのかも知れないが、腐乱した水死体がこんな歌詞を歌いながら襲い掛かってきてたのかと思うと、改めて肝が冷える思いだった。


「でも、なんで『とおりゃんせ』なんか歌ってたんだろ?」

「もしかしたら、何か呪術的な意味合いがあるのかも知れない。

 ・・・これを見て貰ってもなんとなく分かると思うが、とおりゃんせはその不思議な歌詞の解釈を巡って、さまざまな説を生んだ歌なんだ」

「どんな説があるんですか?」

「神隠しに遭った子を歌ってるとか、口減らしの歌だとか、埋蔵金の在処を示してるとか・・・」

「神隠し・・・。

 ・・・・・・」


あのままあそこを抜け出せないでいたら、普通の人には俺らが神隠しに遭ったように思えるんだろうか。


「・・・色町に行って病気を貰った人なんて説もあるけどね」

「ちょ、美佳の前でそういうこと言わないで下さいよ」

「さっちゃん、イロマチってナニ?」

「お前は知らんでいい」


美佳はきょとんとした顔でこちらを見てる。

・・・子どもにエロい言葉の意味を聞かれた親の気持ちって、こんなんだろうか。


「ははは、ごめんごめん。

 ・・・でも、現在最も有名でかつ定説とされるのは、天神宮・・・つまり、菅原道真を祀る神社に参詣するさまを歌ったという説だね」

「スガワラノミチザネ・・・って、学問の神様でしたっけ」


高校受験の際、オヤジがわざわざどこぞの由緒正しい神社で菅原道真のお守りを買ってきてくれてた記憶がある。


「一般的にはそうだが、同時に荒ぶる祟り神の側面もある」

「え、じゃあ、わたしたちがヒル人間に襲われたのって神様の祟りなんですか!?」


なんでそうなる。

というか、鵜呑みにしすぎだろお前は。


「ははは。学問の神様が学業優秀な高加くんを祟る理由はないと思うよ」


・・・遠回しに美佳をないがしろにするのはやめてあげて下さい、先生。


「それに、祟り神といっても道真公は雷神・・・祟った相手も、当時自分を追い落とした政敵だ。

 祟りというものが実在するとして、君たちみたいな普通の学生に水死者をけしかけるなんておぞましい真似、しないしできないだろう」


・・・『普通』、ね。

その言葉を受けて、俺は横にいた美佳をヒラリと一瞥した。


「じゃあ、あんまし歌詞の内容とかは関係ないんですかね?」

「いや・・・。

 とおりゃんせは『道』に関する歌で、君たちもよく分からない現象で道に迷わされたわけだから、全く無関係だとは思えないが・・・」

「・・・・・・あ、でも、あのオバケたちが歌ってたのって、なんかヘンな『とおりゃんせ』だったよ?」

「ヘン?」


そりゃヘンだろう。ヘンなものがヘンな声で歌ってたんだから。


「はい。なんかわたしの知ってる歌詞と、微妙に違うって言うか・・・」

「・・・」

「確かに、基本的にはそこに載ってる通りの歌詞で歌ってたんですけど、時折ヘンな歌詞が混じるって言うか」

「二番とかじゃないのか?」

「高加くん、とおりゃんせには二番は存在しないよ。創作や都市伝説的に付加されたものはあるが、正統な二番はない」

「へっ?あ・・・は、はい。すみません」


・・・まさか、この人から都市伝説を否定するようなセリフが飛び出すとは。

俺は面食らって、思わず意味もなく謝ってしまった。


「なんて言うんだっけ、そういう歌詞を別の言葉に置き換えて歌うのって」

「・・・替え歌か?」

「そう、それ。あれは替え歌っぽかった」

「どんな歌詞だったか、覚えてるかい?」

「いや先生、さすがにあの状況でそこまでは・・・・・・」


と。美佳はデスクの上に置いてあったシャープペンシルにすっと手を伸ばすと、すぐ横にあった紙の切れ端にすらすらと字を書き始めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


えーびすさま?のほそみちじゃ


この子のいさよ?のおいわいに


みたま?をおさめにまいります


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「確かこんな感じ」

「な、なんで覚えてるんだ!?」

「え、なんでって、ついさっきのことだし・・・」

「いや、そういうことを言ってるんじゃなくてだな・・・」


感心するのを通り越して、呆れてしまった。

俺の方は恐怖のあまり、ついさっきまでとおりゃんせのタイトルすら失念してたのに。


・・・・・・あれ?ひょっとして俺の方がへなちょこすぎるだけなのか?


「そう言えば、加賀瀬くんはさっきもとおりゃんせの歌詞を暗記してるようなことを言ってたが」


確かに歌詞の暗記自体は簡単だろうが、かと言って現代の高校生が意識して暗記するようなものでもない。


「あ、それはお父さんの方の実家が神社で、よくおじいちゃんにわらべ唄とかを教えてもらってたからです」

「なるほどね」


西宮先生は感心したように頷いてから、美佳が書いた謎の歌詞に目を向けた。


「・・・」

「えーびすさま、って何だろうね、さっちゃん」

「元の歌詞が『天神さま』だから、固有名詞としてはたぶん『えーびす』になるな」

「・・・・・・」

「・・・・・・あ!ひょっして『恵比寿』・・・『恵比寿さま』のことか?」

「え?・・・あ!そっか、エビスさまかあ」

「・・・・・・・・・」


化け物たちの間延びした発音を美佳がそのまま書いたためピンと来なかったが、気づいてみるとそれしかないという感じだった。


「なんか、急に縁起のよさげな感じになったな」

「じゃあ、こっちの『いさよ』ってなんだろね」

「元の歌詞が七歳のお祝いって意味だから、やっぱり年齢とか数字を意味してるんじゃ・・・・・・・・・西宮先生?」


再び西宮先生は黙したまま踵を返し、デスク上のキーボードを叩き始める。

開かれたのはやはりオカルトサイトのようだ。

題名は・・・。


「『エビスさまの』・・・『通り道』・・・?」

「・・・東北地方の一部に伝わる都市伝説だが・・・」


西宮先生はこちらを向き直ったが、その表情はさっきまでと比べても真剣そのものだった。


「東北地方太平洋側の一部の漁村部では、一年の内のある特定期間や海難事故が起こった直後だけ、漁を行わないとされる場所がある」

「・・・」

「その海域は特殊な海流が渦巻いており、海への『落とし物』は必ずその海流を通っていずこかへと運ばれていくのだそうだ」

「・・・・・・」

「あたかも海中に見えないベルトコンベアがあって、その上を流れていくかのように、整然とね・・・」

「あの・・・。その『落とし物』って、やっぱり・・・」


・・・我ながら、あまり返答を聞きたくない質問ではあったが、それでも聞かずにはいられなかった。


「・・・その時期その海域で獲られた魚介類は不自然にぷくぷく肥えているとか、タコを食べたら中から人の毛髪が出てきたとかオチがつけられる」

「うへぇ・・・」


そりゃ漁も取りやめるよなあ。ほんとかどうか知らんけど。


「まあ、これはあくまで都市伝説としてのオチだが・・・。

 ただ僕が驚いたのは、遺体消失事件を耳にした直後

 他ならぬ僕自身がこの『恵比寿さまの通り道』を調べてたって事だ。

 ・・・君たちの口から同じキーワードが飛び出したというのは、偶然にしてはできすぎてる」

「え、何日も前から調べてたんですか?これ」

「ああ。海から海流に乗ってやってきた浮かばれぬ者が、忽然と消えてしまったわけだからね。

 都市伝説に通じてる人間なら、連想せずにはおれないだろう」

「でも、なんでそれが『恵比寿さまの』通り道なんですか?」

「そもそも恵比寿さまがどういう神様なのかは知ってるかい?」

「へっ?・・・・えーと・・・」


七福神がそれぞれ具体的にどんな神様かだなんて、正直意識したことがない。

何となく、縁起がいいものを司ってるんだろうなとしか・・・。


「・・・あ、確か釣竿とか鯛を持ってましたよね。

 じゃあ、海の幸の神様・・・とかですか?」

「そうだね。

 恵比寿信仰というのは多岐に渡るが、代表的なのは海とか漁業の神様というものだ。

 転じて、海の幸が海の向こうから訪れるモノとして客人神まれびとがみや漂着物信仰に繋がり、

 さらに転じて千客万来の商売の神様になった。

 ・・・モノがない時代、海からの漂流物というのはそれ自体が幸運であり、豊穣の象徴だった。

 例え水死体でもだ」

「・・・」


海からの漂着物・・・水死体。

確かに西宮先生にしてみれば、打ち上げられた水死者に怪異の影が付きまとっていたのというのは

恵比寿さまの通り道との関連性を調べるに至る充分な動機付けだったろう。


「そして昔の日本人にとって、山の奥は魔界であり、海の向こうは死者の世界だった。

 『恵比寿さまの通り道』は時として、何十もの水死体がまるで死者の葬列のように海流を流れゆくのが見えることがあるという。

 海からの来訪神である恵比寿神が、水死者の送り道を司っているというのは、ある意味自然な発想だろう」

「・・・それで、俺たちはどうすればいいんでしょう?」

「それなんだが、恵比寿信仰と今回の事件について、もう一つ奇妙な一致があるんだ」

「・・・まだなにかあるんですか」


西宮先生の話には、確かに興味は惹かれた。

ただ、それは平穏無事な日常の中にいれば、の話だ。

今俺たちが欲しいのはあのヒル人間やワケのわからん異次元田園への即効性の高い対策であって、

それに対する講釈や解釈じゃない。


「まあ、聞いてくれ。

 ・・・君は、『ヒルコ』というものを聞いたことがないかい?」

「『ヒルコ』・・・?『ヒル』じゃなくて『ヒルコ』ですか?」

「うん。

 ・・・もしかしたら、加賀瀬さんは聞いたことがあるんじゃないかな」

「え、美佳が?なんで・・・」


昔から、俺が知らないものを美佳が知っているケースというのはかなりレアだった。

事実、さっきも色町を知らなかったし。


「・・・ひょっとして、『蛭子さま』のことですか?」


・・・って!知ってんのかよ!

俺、バカ丸出しじゃないか。


「そう、たぶんその『ヒルコさま』だ。

 これは・・・・・・

 ・・・・・・うん?」

「・・・西宮先生?」


そこまで言いかけて、西宮先生の動きが止まった。

俺や美佳が立ってる位置とは、微妙にズレた方向を見ながら。


「・・・今日はずいぶんと日没が早いな?」

「え・・・」


びくりとして、俺と美佳は職員室の窓から外の景色へと目を向ける。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


辺り一面、真っ暗闇。


背筋に冷たいものを感じながら、そのままの勢いで職員室の壁掛け時計へと振り向いた。


「・・・西宮先生・・・」

「ん、なんだい?」


俺は壁掛け時計を見上げた姿勢のまま、先生の方を見ずに尋ねる。


「この時期って、日没は何時くらいでしたっけ・・・」

「7時少し前くらいだと思ったが・・・。おかしいな、今日はあんなに晴れてたのに」

「・・・・・・」


6時・・・45分。

日没まで、あと10分はある・・・。


はっとして、俺たちは周囲を見回した。


・・・いない・・・誰も。


入室してきた時は、軽く十人以上の教師が職員室内にいたはずなのに。

たかだか30分程度で俺たち三人以外、誰も室内に残っていない・・・。








『とおぉ・・・りゃん・せぇ・・・とぉ・りゃん・せぇ・・・』

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