08
西区のコンテナ倉庫。県警から離れること車で三十分。犯罪にはおあつらえ向きの、ひと気の無い場所だ。目の前には穏やかな東京湾が広がっている。
大上さんは錨留めに腰を掛け、海を眺めていた。こんな時でも憎らしいほどカッコいい。
少し離れた場所に覆面パトカーを停車させ、大上さんの背中に声をかけた。
振り返った大上さんと、真正面から向かい合う。思えば、まともに視線を交わしたことなんて今までほとんどなかった。
どう話を切り出せばいいのだろう。俺から訊かない限り、おそらくこの人から語ることはない。潮風が、俺たちの間を吹き抜けた。
突然、グォン、というバイクのエンジン音が間近に迫った。
驚いて背後を振り返る。倉庫の影から、バイクが猛スピードでこちらへ向かってくる。乗っているのは、女。──あれは、あの時の!
けたたましい爆音を上げて俺たちの間に割り込み、女は地面に降り立った。ヘルメットを外す。間違いない、あの女だ。
「道案内感謝するわ!」
俺へ向けられた言葉に、ざぁっと血の気が引くのを感じた。ずっと尾行(つ)けられていたのか!?
大上さんに視線を移す。俺と女を交互に見比べて、口の端だけでかすかに笑ったようだ。
「……余計なお荷物まで連れてきやがって」
愕然とした。違う、俺が連れてきたんじゃない。喉のあたりで声がひきつれて、言葉にならなかった。
「ずいぶんとお言葉ねえ」
女は大上さんの方へ向き直る。俺のことなんか相手にしていなかった。二人が向き合った。
そして俺は。
目の前の、華奢な女の背中に、俺は。
「!! ……なっ……」
「大上さん、逃げて!!」
何も考えられなかった。女の身体を羽交い締めにして、俺は迷わずそう叫んでいた。
俺は。
俺は、本当に使えない新米で。
俺の今やっている事は、正しくないことかもしれないけれど。
それでも俺は、大上さんの相棒でいたい。
それが、俺の選んだ答えなんだ!
「やめろ白川!」
「いいから、早く逃げてください!」
「有段者なめんじゃないわよ!」
三者三様の叫び声が入り乱れ、そして。
俺は気がついたら逆手を取られ、足が地面を離れたと思ったら、ものの見事に背負い投げをされ――次の瞬間、頭から地面に叩きつけられていたのであった。
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