07
がらんとした刑事課の大部屋に、一本の電話が鳴り響く。連続コンビニ強盗事件の発生で、刑事課は総出で出動していた。相棒に捨てられ、最近めっきり電話番に徹していた俺は、慌てて受話器に取りついた。
「はい刑事課!」
『っ…………』
電話口の先で、相手がとっさに言葉に詰まるのを感じた。
そして俺は、考えるよりも早くその名前を口にしていた。
「大上さん!?」
驚いた。
『…………白川か』
その声は明らかに、ここ一週間完全に消息を絶っていた男のものだった。
なんで俺、あの一瞬だけで相手が大上さんだってわかったんだろう。
「ちょっと大上さん、一体どこでなにやってるんですかあっ……!」
人がいないのをいいことに、電話口で思い切り声を張り上げる。……いや、驚いた。
声だけで白川だって、自分の相棒だってわかってくれてるじゃないか。
『悪い。迷惑かけたみたいだな』
感情がこもっているのかいないのか、いまいち掴みどころのない低音で大上さんが告げる。それでも、俺には充分すぎる言葉だった。
だって正直なところ、俺の存在なんか完全に忘れられてると思ってたんだ。
「俺のことはどうでもいいんですよ……」
口に出したら、それが本音のような気がしてきた。かたくなになっていた気持ちが、嘘のようにほどけていく。
俺はやっぱりこの人を信じたい。たとえ味方が誰一人いなくなったとしても。
この一週間、大上さんの不在について、俺と芝田以外は不思議なほど無関心だった。不安や心配、せめて不信感を示す同僚くらいいないのか。
そして俺は気がついたのだ。この人は、本物の「一匹狼」なのだと。
「……とにかく、何があったのかだけでも聞かせてください」
疑惑は消えない。大上さんに対して監察と公安が秘密裏に捜査を進めている以上、彼がまったくのシロということはないのだろう。
だけど俺はやっぱり、この孤独な先輩のために動きたい。そう思い始めていた。
『……わかった。電話だと長くなる。出てこられるか』
「なんとかします」
『西区のコンテナ倉庫があるだろう。俺はそこにいる。他の連中には言うな』
一匹狼を荒野から引き剥がせ。
「……わかりました」
助けたかった。無条件に。
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