05
大上さんの周辺を探る。……といっても、俺にわかるのはせいぜい彼の自宅くらいだった。
相棒が今なんの事件を追っているのか、俺にはさっぱり心当たりがなかったし、周りの誰に聞いても答えは得られなかった。
ほんとに一人ぼっちなんだな、あの人。
複雑な思いを抱きながら、大上さんのアパートの前に立つ。金のない学生が住むような、古い質素な建物だ。表札から部屋の位置を確かめたが、夜の十時を過ぎても明かりがつく気配はない。おそらく部屋の中にはいないのだろう。
内偵捜査中だとしたら、ここにも戻ってこないかもしれない。それでも、俺としてはこの場所に賭けるしかない。
――それはさておき、さっきから気になっていることがある。
俺と同じようにアパートを見上げて立つ、一人の女の存在、だ。
なんというか、ハリウッド映画から間違えて出てきてしまったような、スタイルのいい金髪の女だ。タイトなスーツをばっちり着こなし、夜なのにサングラスをかけている。とてもキマッてる。キマッてるが、あやしい。
もしかしてストーカーとかそういう類いのお方だろうか。俺は警察官の伝家の宝刀、職務質問をすべきか悩んだ。しかし刑事のカンというやつが、彼女はストーカーではないと俺に告げる。(まあ単純な話、あれだけ美人ならストーキングされることはあってもすることはないだろう、という百パーセント思い込みによる判断だったけど)
結局、チラチラ視線を送りつつ声は掛けない、という、自分が一番ストーカーっぽい行動を取っていたところで、彼女の方がしびれを切らしたのか俺に近づいてきた。
「ちょっといいかしら」
流暢な日本語だが、どこか芝居がかっていて、海外ドラマの吹き替えでも聞いている気分になる。
「あなたここの住人? タカノリ・オオガミという男を探しているの。なにか知らないかしら」
「あああの、あなたは?」
「あら失礼。あたしはエージェントをやってるエマ・ブライトといいます。あやしい者じゃないわ」
そう言って、彼女は名刺――というか、名前と携帯番号とメールアドレスだけが記された白い紙片を俺に手渡した。思いっきりあやしい。
「自分はその、警察官をしております、白川公平ですが」
「あら、警察の人? じゃあここに住んでるオオガミのことは知ってるわね。彼、なにかやったの?」
「いえあのその、それはどちらかといえば自分が訊きたいと言いますか。大上刑事に何かご用ですか?」
「まあね。ちょっと確かめたいことがあったの。警察でも行方がわからないんじゃ仕方ないわ」
言うだけ言って、ひらりと踵を返す。後ろ姿までモデルみたいだ。
立ち去る前、思い出したように一度振り返ると、彼女は俺が握りしめたままの名刺モドキを指し示した。
「オオガミの居場所がわかったら、連絡もらえるかしら」
「居場所を知ってどうするんですか」
「それは言えないわ」
こちらの質問にはまるで答える気がないようだ。再び背中を向けた際、半ば独り言のように呟いた言葉が耳に届いた。
「彼をこのままにしておくわけにはいかないのよ」
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