04
俺が大上さんにこだわるのは、相棒に選ばれたからとか、問答無用にカッコいいからという他にも、あるきっかけがあった。
俺が刑事課に配属されたばかりの頃だ。
当時大上さんは単独で内偵捜査を行っていたらしく、例によって刑事課にまったく姿を現さない日が続いていた。噂によると、違法行為ギリギリの線で動いていたらしい。しかし、そのことは課長にさえ知らされていなかったようだ。
今にして思えば、そういった行動が一匹狼と呼ばれる所以なのだろう。誰にも話さず誰の手も借りず、警察官という立場では難しい立ち回りを、「独断」という汚名ごと大上さんが引き受けていたのかもしれない。
後日、姿を見せないその一匹狼のおかげで、麻薬組織に捜査のメスが入った。密売人の一斉検挙に成功したのだ。
ミーティングで正式な報告があったその日の午後、噂の大上刑事が初めて俺の前に姿を現した。
他の同僚に労いの言葉をかけられる中、俺だけ一人、挨拶が「はじめまして」だった。
───はじめまして。今月から配属された白川公平といいます。大上先輩、ご活躍は聞きました。お疲れさまでした。
なるべく当たり障りのない挨拶を、一息で言い切った。あからさまな社交辞令にすぎなかった。
当時の俺にとって、彼は規律を守らない無法者の印象しかなかった。たとえ優秀でも、できれば関わり合いになりたくないとさえ思っていた。
対する彼は、味も素っ気もなく「ああ」と生返事をした挙げ句、
───大上です。よろしく。
俺が今「大上先輩」って呼んだの聞こえた? と思わず尋ね返したくなるほど、間抜けな自己紹介をされたのだった。
しかも、「大上先輩」と呼んだのもちゃんと聞こえていたらしく、彼はひどく困ったような表情を見せた。そして、とても言いにくそうにぼそりと。
───『先輩』はつけなくていいから。
この人意外とイイ人だ。俺の中での印象が一変した瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます