02
一方、彼の相棒の
刑事ドラマに憧れ続けて二十数年、今年の春から念願の刑事課捜査一係に配属された次第であります。敬礼。
「公ちゃんの刑事ドラマ好きも、自分が刑事になったら熱冷めるかと思ったんだけどなあ」
生後半年の乳飲み子をあやしながら、俺の真向かいで姉貴がぼやいた。
久しぶりに実家へ立ち寄った時のことだ。今は姉貴とお婿さん、それに二人の甥っ子が暮らしている。
「そんな風に思ってたわけ?」
「別に、公ちゃんの趣味にケチをつけるつもりはないんだけどねえ」
テーブルの下でパトカーのおもちゃをぶいぶい言わしている四歳の長男坊に目を遣り、そっと溜め息。
「これが三人になるのかと思うと」
「あのさ、俺まで数に含めないでくれる?」
「こーへー!! 見て見てこーへー、パトカーすごいんだよ!」
絶妙のタイミングで長男坊が俺の腕を引っぱり、それまで床で走らせていたパトカーをおもむろに掴んで、「がしゃー、がしゃー」という効果音とともに戦車と衝突させ始めた。
「……パトカー最強なのよね、この子的に」
思えば交番勤務だった頃から、この長男坊にはどれだけ(問答無用に)昔の刑事ドラマを見せてきたことか。そりゃあ彼の世界の中では、パトカーが戦車を逆さまにひっくり返すことくらいあるだろう。
「ま、公ちゃんが相変わらずで姉ちゃんとしては安心だけどさ。せっかく憧れの刑事になれたのに、こんな昼間っからほったらかしにされてるようじゃ甥っ子たちにばかにされるぞ?」
姉貴の言葉がサクッと胸に突き刺さる。あーうん、そこには触れないでほしかった……。
そう、今この時点で、俺は紛れもなく勤務中の刑事さんなのだ。本来なら実家で茶をしばいている場合ではないのである。
「だって相棒が何も言わずに雲隠れしちゃったんじゃさ、新米の俺一人に何が出来るかってーの」
知らず口調は恨み節になる。
俺とバディを組んだ大上貴紀という男は、それはそれは単独行動を好む男だった。刑事課に配属されて早二ヶ月、俺はろくに大上さんと行動していないばかりか、ここ三日に至っては顔すら見ていない。
狼刑事という二つ名の由来は、その苗字からというより、一匹狼というイメージから来ているらしい。
ううカッコいい。カッコいいけど困る。
「大体、そんな人がなんで公ちゃんみたいな新人を相棒に指名したのかな」
「そこはやっぱりさあ、ピピッときちゃったんだよ。背中を預けられるのはコイツしかいない、みたいな?」
「むしろ厄介事を押しつけるのに都合がいいとか思われてるんじゃない?」
クリティカルに痛いところを突かれ、俺は絶句したままテーブルに突っ伏した。ああ、容赦ねえ。実姉、容赦ねえ……。
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