オオカミ刑事と新米刑事《ヒツジ》
たまの
オオカミ刑事の反乱
01
「狼刑事」に無言で睨まれて、三時間もった犯罪者はいない。
現に今俺の目の前で、二時間十分を過ぎた取り調べがクライマックスを迎えようとしている。いかにもという人相のチンピラが、しびれを切らしてデスクを叩きつけた。こうなるともう、話は早い。
「黙秘権ってェのはフツウ犯人が使うモンだろうが! てめえがだんまり通してどーすんだよ!?」
なんといっても相手は犯罪者。黙ってるだけで険悪な雰囲気なのに、凄んで怒鳴って叩きつけられらたまらない。俺は思わず二、三歩後ずさりをする。情けないったらありゃしない。
そんな脅しにも、狼刑事の方はまったく動じない。チンピラの真正面。後ろに立つ俺よりもよっぽど圧倒されるはずなのに。
ただ、睨む。何も言わずに、静かに。
獲物を狙う獣のようだと思う。野性の狼。これは威嚇ではなく見極めだ。──おまえなんて恐れるに足りない。さあ、どう動く?一発で仕留めてやるさ。
チンピラ、とうとうプツッと切れる。
「うあ────あああ!! 人権侵害だ! 職権乱用だ! 職場放棄だ! 弁護士呼べ弁護士ぃっ!!」
言ってることがすでに目茶苦茶だ。
それまで黙っていた狼が、無駄のない動きで電気スタンドの向きを変えた。眩しさに目を細めるチンピラ、途端に閉口する。
「弁護士くらい呼んでやる」
低く囁くような喋り方で。
「さっさと、吐け」
ドスをきかせているわけでもないのに、充分に威圧する声。
ひくり、とチンピラが凍りついた。
勝負あり。
あとは流れる水の勢いで取り調べが行われるのみだった。途中で別の刑事に交代して、俺は狼刑事に続いて取調室を出た。
「
前を行く先輩刑事の名前を呼ぶ。狼――もとい、大上刑事は返事もせずに、軽く振り返って視線だけを送ってきた。
年齢も、経験も、それほど違うはずがない。開襟シャツをラフに着崩した姿は、スーツに眼鏡でコテコテの俺より、むしろ若く見えるくらいだ。
なのに、この威厳の差はどうだ。
「お見事でした!」
どんな風に言えばこの感動が伝わるかと考えながら、俺は書類を胸に抱えて大上さんの横に追いついた。少しだけ畏れ多い気分だ。
俺の言葉に対して大上さんは、口の形だけでああ、と答えたあと、
「大したことはない」
ぶきらぼうにそう言って、足早にその場を立ち去っていった。
俺は両手握り拳にほおおっと溜息をつく。
カッ……コいい。
あの無口で謙虚なところがたまらなくカッコいいじゃないかっ。
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