幕間その三

二〇一三年 秋

『浄化』に関する報告が終わり、部屋の明かりが点灯する。

 室内には前回と比べて、明らかに平穏な空気が流れていた。

 溺死に至る過程について報告している最中こそ、あちらこちらで息を呑む様子が見られたものの、それは仕方があるまい。

 感受性を失われても困る。自ら考えて行動してこそ、「Nの子供たち」の名に相応しいからだ。


 今回の計画では、対象者がシャワーを浴びている最中に制圧班四名が突入して捕縛し、その後で拘束班五人が猿ぐつわとビニルテープで身動きできないようにしてから、浴槽の底に横たえた。

 その上にコンクリートブロックを置いたところで、流石に対象者も「その後の運命」について容易に想像出来たためであろう。

 激しく身体を動かすものだから、上から抑えつけるために準備したコンクリートブロックが直ぐに外れてしまった。

 これは想定外だった。しかし、それだけが今回の計画における齟齬であって、その影響も対象者の口と鼻が水面下に沈むまでである。

 その後、念のため浮かばないようにコンクリートブロックを載せたが、それだけの意味しか持たなかった。

「コンクリートブロックの使用」を企画立案した者には、失敗した原因と今後の対応策について、念入りに報告させることにする。

 それ以外は極めてスムースだった。制圧から防犯カメラ画像の消去までは、結果として一時間もかからなかったし、その後の自宅クリーニングまで含めても四時間はかかっていなかった。

 これは当初の想定通りで、非常に理想的な展開だった。ホテルの窓口担当者と警察の捜査員の心理と行動原則を完全に読み切った、見事な計画と言える。

 問題が発生した時の対応までが事細かに企画立案されていた計画であったため、余計にそのことが際だっていた。物事が計画通りに進むと、実に大きな達成感を得られる。

 また、今回の対象者は「教師であるにもかかわらず、幼児性愛者」という、彼らからすれば何の弁護も出来ない、嫌悪の対象にしかなりえない外道であったから、理解も早かったのだろう。

 ――もし、自分の傍に彼がいたら、自分が対象として選ばれていたかもしれない。

 そんな嫌悪を抱いた者は少なくないはずである。「相手の立場になって物を考えられるようになった」というのは、実に望ましい傾向だ。

 それに、報告後の平穏な雰囲気は、彼らが自分の運命を積極的かつ肯定的に受け入れ始めたことを示していた。

 これは遅かれ早かれそうなるだろうと予測していたことであり、むしろ早かったと言っても良い。

 さすがは「選ばれた者」だ、自分達の使命に対する理解が早い。

 私は誇らしい気分で彼らを見渡す。


 そして、目の端に気になるものを捉えた。


 後方右側にいる二人の顔色が優れない。

 しかも、一方は最初の時に特別ドリンクを拒んだ者である。もう一方は帰国子女だと聞いている。そして、この集団ではトップを争うほど優秀な二人だ。

 私は笑みを絶やさないように注意しながら、心の手帳に「要注意人物」と書き込んだ。

 もし、計画全体の支障となる可能性が生じた場合、早々に排除しなければなるまい。

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