第八話


「では、ここに立ってお待ちください。暫くしたら女神様がセント・ユーラス様の魔法属性を教えてくださいますので」


無事に終了した王への挨拶から少し。

両親と合流して、眼鏡をかけた美人の女性に案内された部屋にセントはいた。


「女神様は他の者がいるとお告げを与えてくださいません。私達は二つ離れた部屋で待っていますので、属性が解り次第こちらに来てください。では、ララ様、サリエル様、こちらへ」


部屋のドアを開け、手で退出を促す案内人の女性。


「じゃあセント、属性が解ったらね」


「落ち着いて待っていればいいよ」


「はい、解りました」


そうして三人が部屋を出ていく。残されたのはセント一人になった。

部屋は広くは無い、寧ろ狭い方だろう。

床には幾何学的な魔方陣が描かれている、血を垂らせば悪魔でも召喚できそうだ。


「さて……」


案内人は魔方陣の中に立ち待っていればいいと話していた。

恐る恐る魔方陣の内側に入り、大人しく突っ立っている。


(属性……ね。二属性持ちなんてのもいるらしいし、どうなる事やら)


まぁなんの属性でもセントは魔力量の関係で使えない魔法が出てくるだろう。

一人悲しみに暮れるセントであった。












「私は火だと思うわよ?」


「僕は水だと思うな」


別室。

案内されたララとサリエル、そして案内役の女性。三人はセントの属性の予想を立てていた。


「あら、私と同じ火の方がいいわ!私が手取り足取り教えてあげて~」


その手取り足取りの場面を想像したのか、ララの笑顔が輝く。


「息子に魔法を教えるのは同じ男の役目ではないか?水の魔法なら自信があるよ」


ララに釘を刺す様にサリエルが話す。

どうやらお互いセントに魔法を教えてあげたいらしい。

二人とも譲る気はないとばかりに視線をぶつけ合う。片方はむーと唸りながら、片方は柔らかい笑みを浮かべながら。

英雄夫婦の空気に耐えられなくなったのか、案内役の女性が慌てて口を開いた。


「も、もしかすると火と水の二属性かもしれませんね!ララ様とサリエル様のお子様でしたら二属性も有り得ない話では無いですよ!」


若干早口で告げられた言葉にララとサリエルは顔を見合わせる。

そしてお互いどのような場面を想像したのかーー。


「ふふ!そうね、三人で一緒にやった方が楽しいわ!ね、サリエル?」


「そうだね、きっと物凄く楽しい。セントは勉強熱心だし、きっとすぐに上達するよ」


甘い笑顔で、未来の生活を楽しそうに話し合うのだった。

ーー先程とは別の意味で耐えられなくなりそうな、案内人の独身女性を置いて。











「暇だ」


この部屋に来てーーというか、魔方陣の中に立ってから既に小一時間が経過している。

小一時間と言ってもセントの感覚なのであてになるかは解らないが。

お告げとやらは、まだ来ていない。


(これ実はもうきてるんじゃないか?それすら聞こえてないという事もあり得なくない……いよいよ終わったな俺)


マイナス思考全開である。

全開のお告げがアレだっただけに、セントも少し悲しい気持ちになっているのかもしれない。どうすることもできないが。


その時ーーセントの立っている魔方陣が淡く光を発し始めた。


(お、今からか?セーフだセーフ)


「セント・ユーラスよ」


頭の中に直接響くような女性の声。

全開とは違い、鮮明に聞き取る事が出来る。


(この魔方陣の効果か……?)


光り続けている魔方陣を見下ろしながら思う。どんな仕組かは理解できないが、思い当たる理由はこれだけだ。


「あなたに……力を与えたのは、深き闇の礎と、荒々しき雷の理」


聞こえて来る声に耳を傾けていれば、二つの属性が聞こえてきた。


(闇の礎と……なんだ?雷のなんて?とにかく二属性持ちって事か?)


お告げの続きを待つ、がいつまで経っても声は聞こえない。


「……終わりかよ」


終わりです。










属性が分かったので、ララとサリエルの待つ部屋に移動しようとドアを開ける。

否、開けようとすれば、反対側からドアが勝手に開いた。


「さぁ、わたくしの属性をーー……」


ドアを開けた体勢で固まる少女がそこにいた。


(……これは)


美しい、という表現でも釣り合わぬほど整った顔立ちをしている。

腰元まで伸ばされた髪は波のように揺れる金色。

目は淡いバイオレットブルーに染まっている、夜明け前の、空の色。


「……」


「……」


セントは見惚れて、少女は驚きでお互い停止してしまっている。

ピクリとも動かない少年少女は少しシュールだ。

五秒程度だろうか、そうして見つめあう形になってしまっていた。

そこで少女の傍にいた、少女の案内役だろうか、女性が慌てて声を出す。


「も、申し訳ありませんセント・ユーラス様!セント様がこの部屋を使用しているとは知らず……!」


狼狽えた様に話す女性の姿に、逆にセントは冷静になっていく。


「大丈夫ですよ、もう終わりました」


そう言うと、女性は少し落ち着きを取り戻した。

すぐに少女の方に向き直ると、再び謝罪を口にする。


「アリア様も申し訳ございません……」


深く腰を折る。

五歳児にここまでの礼儀をとるという事。やはり英雄の子供だから、という事なのだろうか。


(あの子も英雄の子か……?それにしても可愛い……というか美人だ。五歳でこれってどういう事よ。そしてこんな綺麗な金髪初めて見た、金髪と言うか、黄金?)


盛り過ぎだ。

確かに前世では見れない程美しい髪をしているが、感動しているセントは少し大袈裟になっている。

女性の謝罪に応える少女ーーアリアと呼ばれていたか。


「いえ、気にしませんわ。あなたも……セント・ユーラス様?申し訳ありませんでした」


(おいおい性格も良いのかよ……)


「大丈夫だよ、こちらこそ申し訳ない」


「ふふ、お互い様ね。ありがとう」


そう言って花が咲く様に笑う。

とても五歳とは思えない程に美麗、色気すら感じられる。


「一応改めて、僕はセント・ユーラス。よろしくね」


第一印象は大事、セントはとりあえず挨拶をした。

背筋を伸ばして優しげな笑みをあたり流石だ、見栄張りもここまでくれば大したものである。


「あら、丁寧にありがとう。わたくしは、アリア・ラ・リア。アリアとお呼びくださいまし」


(くださいましって言った!!)


いちいちうるさい男だ、黙って会話して欲しいーーいや、黙ったら会話はできないが。


「じゃあ、アリア。僕の事はセントでいい」


「はい、よろしくね?セント」


スカートを持って膝を折るアリア。

流れるようなその動作に不自然なところは無い。少なくとも、平民の子供ではなさそうだ。


「アリアも今日は属性を?」


「そうですわ、三日前に女神様のお告げがありまして。セントはもう属性をお調べになりまして?」


「そ、終わって部屋から出た所」


少し茶目っ気を出して笑う。


「あらあら」


アリアもくすくすと口元を隠して笑っている。

完全に二人だけの世界へ突入してしまっているが、案内役の女性が可哀想だ。


「属性をお聞きしても?」


(勿論大丈夫ーーって……これどうやって属性を証明するんだ?言葉だけじゃ二属性なんて幾らでも言えるし……)


「あ、あの?」


「ん?」


セントが黙り込んだ事をどう受け取ったのかーーアリアが不安そうな顔でセントを見ていた。


「嫌なら言わなくても大丈夫よ?」


控えめな笑顔を浮かべてアリアが話す。


(……ほんとに五歳児か)


相手の気持ちを考えて話すその姿はとても五歳には見えない。

それを言えばセントも同じだが、それは転生者だからだろう。

普通に生活する子供ならば、このような少女にはなりえない。


「いや、言いたくない訳じゃないよ。ただ、属性ってどうやって照明するのかなーってね。口で言うだけじゃ本当か解らないでしょ?」


言うと、アリアはあぁと数回頷いて、


「それはね、魔法を行使すればいいんですの」


と言った。


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