第五話
透き通るような空を、鳥が気持ちよさそうに飛んでいる。
今日もクイーラ王国の王都は賑わっていた。
食料、服、雑貨など、様々な者が売られているこの場所にはいつも人が大勢いる。
雑多な喧噪は、活気が溢れている証拠なのだろう。
(どうしたらいいんだ……)
そんな市場の隣、大きめに整備された道を進む馬車の中の一台の中にセント・ユーラスはいた。
王城へ向かうため、ララ、サリエル、セントは馬車に乗り込み、それほど長くは無い道を進む。
「歩きで行っても対して時間はかからないけどね。今僕達が外に出ると、囲まれて大変な事になってしまうから」
と、サリエルは言っていた。
魔王を倒した『救世の英雄』である二人は、やはり有名人なのだろう。
英雄という事に加え、この整った容姿も人気の一つ。ララとサリエルの美しい白い髪はどうしても人目を引いてしまう。
そんな理由から、馬車に揺られているセント。
初めての馬車だったが、気分は沈みこんでしまっていた。
(魔力量が少ない……それもお告げがぎりぎり聞こえるかくらい、いやあれはもう聞こえていないのと同義では……)
こうなる可能性を考えていなかった訳では無い。だが、限りなくゼロに近いと思っていたのも事実。
何故なら、セントの髪もまた、美しい白なのだ。
容姿も、サリエル似だが、目元はララ似という、優しげな雰囲気の美少年になっている。
ここまで両親の血を受け継いで、魔法の才は受け継いでいないとは考えない。
(今からでも遅くない、お母様とお父様にーー)
何度もそう思った。朝起きた時も、馬車に乗る時も。
だが、失望されるのが怖い。両親からも、他人からも。
今世では、期待に応えたいという思いが強かったために、余計にショックが大きいのだ。
二度目の人生は真っ直ぐに生きると決めた。
だが失望はされたくない。魔力量の事だけ嘘を使おう。
(これでいいのか……?)
そんな事をずっと考えていれば時間は過ぎ、馬車が停止する。
到着致しました、と外から声が聞こえた。
「さ、セント!行きましょうか。あなたも属性が気になるでしょ?」
「お、お母様、そんなに引っ張らないでください」
セント本人より乗り気なララだった。
(属性、なんだったけか。たしか、火、水、風、雷、闇の五つ。雷と闇が珍しくて、火と水が一番多い。魔力量が無いならせめて珍しい属性がいいな……ん?属性が珍しくても魔力が無いと使えなくね?)
考えながら、セントは王城に入る。
美しく、絢爛な王城も、別の事を考えているセントの目には入らない。
王城の中、広い空間に出る。
そこでサリエルが立ち止まって、セントに話しかけた。
「あぁそうだ。セント、まずは王様に挨拶しなければいけないんだ。普通の子供はしなくてもいいんだけど、まぁ僕等は仕方がないからね」
サリエルの言う僕等とは、英雄達の事を指しているのだろう。
「セントなら大丈夫だとは思うけど、しっかりと挨拶を、ね?」
(先に言って欲しかった……まぁ今はンな事どうだっていいが)
正直魔力量の事で頭がいっぱいなセントである。
今は他の事などどうだっていいという心境だった。
「解りました、お父様」
「うん、いい子だ。それにしても……セントは緊張とかしないのかい?大抵王様に会うなんて言ったら緊張するんだが……王城にも全く反応していなかっただろう?」
不思議そうな顔でサリエルが質問する。
確かに普通の五歳ならば、王様に会うなど言われたら緊張してしまう事は当たり前だろう。
王城の美しさにも感動するに違いない。
だが、セントは普通の五歳ではないし、さらに別の考えに入り込んでしまっている。
(そりゃあ今はどうだっていい事だからな。しかしーーここでそう言う訳にもいかない。下手な事を言って何か悩んでいるとも思われたくない。緊張してます風にしとくか)
少しぎこちないような笑みを作る。表情作りもなんのそのだ。
「いえ、緊張しすぎて言葉も出ませんよ、お父様。王城もあまりの美しさに見惚れてしまって」
「そうなのかい?緊張しすぎるのもいけないが、適度なそれは大事だからね。……さ、話している間に着いたよ。この扉の先だ」
(いかん、沈み込んだ気分じゃ何かヘマをしかねん。集中しろ)
意識を目の前の扉に向ける。
今までの扉と明らかに違う、まさに豪華絢爛という言葉が適した扉。
扉を守るように立っていた兵士二人が、ララとサリエルの顔を見て一礼した後、ゆっくりと扉を開けていった。
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