第四話
迎えた、セント・ユーラスの五歳の誕生日。
まだ肌寒い朝に、温かい、飲んだことの無い味のお茶を飲みながらセントはララと話していた。
サリエルは既に仕事に行っている。
王城で魔法研究をしているらしい。
「女神様のお告げはね?日が沈む、その瞬間に来ると言われているの。昼と夜の一瞬の隙間。まだ難しいかしら?」
「お母様、もう五歳ですよ」
「ふふ、だから夕方を楽しみにね。それとーー女神様のお告げは魔力量が多ければ多い程鮮明に聞こえるの」
(魔力量ーー魔力が魔法を使うための力だったか)
「逆に魔力量が少なければ聞こえにくかったりするらしいわ。びっくりして泣いちゃわないようにね、セント」
「泣きませんよ」
「あら、大人ぶっちゃって」
朝焼けの太陽のような笑顔を浮かべるララ。
まだ整えられていない髪の跳ねや、少し眠そうに細められた目が美しい。
(お母様マジで美人な……。大人ぶっちゃって、というか精神年齢ならあなたより年上よ俺は)
そんな話をして朝食を食べた後は、屋敷にある書物庫で歴史書を読んでいた。
知っておきたい情報は多い。この五年でユーラスという名がどれ程大きいかが分かったのだ。
泥を塗る様な事はしたくない。
集中して本を読んでいれば、時間は瞬く間に過ぎていく。
昼を回った頃、何故かサリエルが帰ってきていた。
「ただいま、ララ。セント」
「おかえりなさいサリエル!」
「お帰りなさい、お父様。はやいですね?」
セントがそう言うと、サリエルは優しい笑顔で、息子の頭を撫でた。
「今日はセントの誕生日、それに五歳だろう?こういう時は、家族皆でいるものだよ、セント」
優しい目。
良い家族をもって良かったと、心からセントは思った。
そして、また家族で話をして、本を読んで。
徐々に、徐々に、空はその色を変えていった。
その日の夕焼けは、深い深い茜色。セントは自室に戻り、一人その時を待っていた。
(結構緊張するなこれ。落ち着いとこ)
静かに待つ。空は赤から黒へと色を移そうとしていた。
その時ーー。
ザザッと。ノイズ交じりの声が、何処からか聞こえて来る。
「あ……女神の……授け……」
電波の悪いラジオの様な、雑音交じりのーーいや、寧ろこれでは雑音メインだ。
(どういう事だ……?もしかしてこれ、俺の魔力量が極端に少ないって事?あの二人の息子で?)
嫌な汗が背中を這う。
「…………界を……」
(ちょっと待て、殆ど聞こえてないぞ!?これ……どうすれば)
「セントー!お告げきた?」
「うおあ」
セントの背後からいきなり現れるララ。
驚きすぎて変な声を出してしまったセントである。
「ふふ……!セントったら変な声」
くすくすと笑うララに悪意は見受けられない。純粋にからかっているのだろう。
「お母様……いきなり後ろから出てこないでください」
「ごめんねセント」
全く悪いと思っていない顔でララが謝る。
「それで、お告げはどうだった?」
優しい笑顔を浮かべるララを見て、セントは思う。
きっと、今自分が正直に、ノイズ交じりで殆ど聞こえませんでしたと言っても、きっとこの人は受け入れてくれるだろうと。
いつも通りの優しい笑顔で、頭でも撫でてくれるのだろう。
だがーー一瞬、一瞬だけ、脳内によぎってしまった。
前世で嫌と言う程見てきたーー失望の眼。
あの眼を、ララとサリエルが、自分に向かって向けている光景が。
「ええ、ちゃんと聞こえました。女神様のお告げ」
見栄っ張りで嘘吐きな性格は、一度死んでも治らないらしい。
失望が怖くて、見栄を張ってしまうセントは、この世界に来て初めて嘘をついた。
嘘に慣れた口に、違和感は無い。
「そっか!じゃあ王城に行かなきゃいけないわね。明日にでも行きましょうか。大丈夫よ!ララ様が一緒に行ってあげるから、安心して?」
「……はい!」
自分も笑み浮かべて、暗い感情を誤魔化した。
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