第三話



 退屈、という言葉の真の意味を知る。

この世界に、セントとして生まれてから三年の時間が流れていた。

セントの赤ん坊ライフを振り返ってみる。

喋ろうとすれば、あーだのうーだのと、そんな声しか出ない。

動こうとすれば、可動域の狭い体の動きでは満足できない。

感情の起伏が激しく、自分でも驚くほどに小さなことで泣いてしまう。


(拷問かこれは)


セントだって努力はした。前世で読んだ転生モノの小説のように、周りで話す人達の会話から情報を得ようとしたのだ。

しかし、わざわざ赤ん坊の近くで会話をする者など中々おらず。

結局両親と、時々やってくるお医者さんくらいだ。


 だが、解った事もある。

ある時、お医者さんと母親であるララがこんな会話をしていたのだ。


「街中ではーーというか、国中で喜ばれていますよ。ユーラスに新しい光が生まれた。って」


「もう、あまり大袈裟に言わないで欲しいわ。セントには、あまり重荷を背負わせたくないわよ、私」


セントはこれを聞いた時、どういう事かと考えた。

国中で喜ばれる……?と、全く理解できない事が聞こえた気がする。


「仕方のない事でしょう。『救世の英雄』ユーラス夫妻の子供が産まれたって言うんですから」


「全く……私達だけではないでしょう?子供が産まれてる英雄は」


英雄、救世、セントは聞き逃さない。


「そうですね……次々に大きな情報が入ってきていますよ。こんなに同時期に英雄の子供が誕生するのは、相当に珍しいですね。他の『救世』の皆様に、『水』のルルや『海破り』のフィール」


「あぁもう大丈夫よ。頭が痛くなってくるから」


このような会話。


(母様は……夫妻って言ってたな。母様と父様は、英雄って呼ばれてるのか?ユーラスの新しい光……他の英雄達の子供……おいおいファンタジーだな)


纏めれば、セントの両親は英雄で、子供が産まれたから喜ばれている。

他に英雄と呼ばれる人達がいて、俺と同じように産まれている。


とりあえず、今知っておくべき事は両親が英雄という事。

あまりに多い情報は混乱を招く。セントはまだ三歳、これから覚えていけばいい。


(あんま強そうに見えないけどなー母様。すげぇ美人だけど。それは俺の見る目が無いからか?)


そんなこんなで三年と少し、退屈な日々を過ごす。


 そして、ついにーーセントは言葉を出せるようになった。

これは普通よりかなり遅い。普通は、差はあれど二歳ぐらいで簡単な単語なら話せるのだ。

だが、セントはの子供ではない。

今まで普通に会話をしてきたセントにとって、言葉を単語として出すという考えはない。

会話が成立する、という事が、話せるという事になる。


最初に話した言葉は勿論。


「おかあさま、おとうさま」


それを聞いた時の、ララとサリエルの喜びようは言うまでもない。

二人とも若干涙目で、何度ももう一度とセントに迫った。


(何回言わすか!というか、お父様の性格がどうにも掴めん……)


セントがサリエルに抱いているイメージは、クールで穏やかなものだ。

間違ってはいないと思うのだが、時々無茶な事をしでかす時がある。

というかセントは忘れていない、産まれたすぐの頃、2メートル近くまで高い高いされた事を。



 歩く事も可能になった。久々に動かす体はやはり慣れないらしい。

屋敷内を見て回ったが、立派なものだった。


 喋り、歩く事が出来るようになったセントは、数少ない使用人達に様々な事を聞いた。

まず、ララとサリエルが英雄と呼ばれている事について。

この世界には、魔族が存在している。

魔族は人間を殺し、そしてこの世界を支配しようとしていたらしい。

魔族の力は強く、魔法使いの力が必要だった。

魔族を纏める、魔王と呼ばれる存在を倒す為に、世界中から、特に強い力を持った魔法使いが集められた。

ララとサリエルはその中の二人で、魔王討伐に一番貢献したとか。

魔王討伐に参加した魔法使い七人は、英雄と呼ばれるようになった。

『救世の英雄』と。


(……ファンタジーだな)


改めて思うセント。魔王やら魔法使いやらで大変だ。


そして、次に魔法の事だ。

この世界には、魔法が存在する。

セントは興奮した。魔法が使えるかもしれない。いや確実に使えるだろう。

何故なら自分は英雄の息子だから。


魔法は女神様に選ばれた者しか使用できないらしい。

五歳になれば、魔法を使えるかどうか解るらしい。お告げとやらがあるそうだ。

お告げがあれば、自分の魔法属性を調べに、王城まで足を運ばなければばらない。

意外とめんどくさい。


最後に国の事だ。

セントのいるクイーラ王国は、この世界でどの国より強い力を持つそうだ。

それを決めているのは、やはり魔法使いの数と質。

他国にも英雄は存在しているが、有名な英雄は殆どクイーラ王国にいるらしい。



三歳でこんなことを聞いて回っていたセント。

使用人達のセントの評価は高い。


そうして、学びの時間が過ぎていく。

退屈な三年間と違って、時間が過ぎるのは速かった。


光陰矢の如し。

そうしてーー再び二年が過ぎた。

明日は、セントの五歳の誕生日となる。


(最強の英雄の息子。俺がどんなチートな魔法を覚えるかーー今から楽しみだ)



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